映画「バクテン!!」公開へのカウントダウン企画⑬~2011ユースチャンピオンシップ

「新世代 男子新体操」の変革期
ドラマ『タンブリング』のリアルな世界


「スポーツナビコラム」2011年6月2日掲載


■ジュニアクラブ育ちの新世代


「男子新体操が今、熱い」
「高校生たちが、すごいことになってる」
 男子新体操は、 実際に演技を見たことがある人のほうが圧倒的に少ないであろうマイナーなスポーツなのだが、その狭い世界の中で、 今、ドラスティックな変化が起きている。

 数年前までの男子新体操界では、高校生になってから競技を始める選手も多く、 現在、大学生で活躍している選手でも元柔道部 元陸上部、 という経歴だったりする。 それでも競人口の少なさで、ちょっと素質のある選手ならば、上位にいける競技だった。
 ところが、最近、かなり様子が変わってきている。各地にジュニアクラブが立ち上がり、ジュニアのころから男子新体操をやり、遅くとも 「中学で始めた」という選手が増えてきたのだ。 その結果、 高校生のレベルが飛躍的に上がってきている。 それもトップ選手だけでなく、底が上がってきたのだ。
 彼らの演技は、 男子新体操の代名詞でもあるタンブリング(バック転や宙返り)がダイナミックで素晴らしいだけでなく、手具操作も巧みで工夫され、マジックかジャグリングを見ているようでもある。 さらに、音楽に合わせた動き、表現も年々向上してきている。 多分、一度見れば、「なんとまあ素敵なスポーツか」と思わせるものが男子新体操にはある。 そして、高校生においてもそのレベルに達してきていたのだ。

 5月27~29日に行われた 「第9回ユースチャンピオンシップ」 でも、 それは顕著だった。 ユースチャンピオンシップに男子の部が設けられたのは、2008年の第6回からだが、 初代チャンピオン・小林翔(当時・青森山田高校)の4種目合計点は36.175。 今大会なら5位に相当する得点だ。 また、 8位入賞者の得点34.275は、 今大会なら20位になってしまう。 これはすごいことだ。


■最強チャンプ・日井優華の存在感と影響力


 

 この流れを決定づけたのは、今大会でユース2連覇を成し遂げた臼井優華 (済美高校)だと言っていいだろう。 日井は、中3のときに全日本ジュニアでも優勝しているが、 ジュニアチャンピオンになったころから、 ジュニア離れした高度な技術をもっていた。
 日井のすごさは、 タンブリング 手具操作、実施の美しさがバランスよく揃っているところだ。 まだ高校生だが、「ここが惜しい」という欠落した部分がない。 臼井に限らず、 ジュニアから新体操をやっている選手たちには総じてそういう強みがある。 臼井の演技は、「高校生だからここまで」という限界にとらわれていない。
 やればできる!
 それを体現する選手が現れたことで、全体のレベルは目に見えて上がってきた。 高校生から新体操を始めた選手が、大学に入ってやっと到達していたレベルに、 高校生の段階でみんな届き始めているのが現状なのだ。

 もっとも、 男子新体操は 「芸術スポーツ」 だ。 ただ、技術が高ければそれでいいのかと言えば、 そうではない。 表現力、 自分の演技でなにかを伝える力がなければ、高い評価は得られない。 そして、その部分ではやはり大学生に分がある。 ただ、 技術が早くから熟練していれば、演技にも余裕ができ表現の工夫もできるようになる。 現に、 臼井も、 1年前は 「力強さはあるが、 やわらかい表現や美しさはまだまだ」と言われていたが、今年は見違えるように深みのある表現を見せられるようになっていた。

 

■ 「新体操王子」 永井直也 (青森山田高校)の台頭


 また、表現の面に卓越した才能を持った高校生も現れた。 永井直也 (青森山田高校) だ。 今大会2位の選手だが、 昨年の全日本ジュニアチャンピオンでもある。 彼の演技はジュニアのころから、 従来の「男子新体操」とは一線を画していた。 スポーツというよりはむしろ舞踊に近い、そう感じさせるだけの美しさと表現力をもった選手だったのだ。

 その永井は、今年、 男子新体操の名門・青森山田高校に進学した。 その結果、生来の美しさに加えて、タンブリングも強化され、 1年生ながら2位に躍進した。 昨年のユースでは16位だった選手だ。 これからどこまで伸びるのか、おおいに期待できそうだ。
 今大会では、 一騎打ちの様相だった臼井と永井だが、それぞれに持ち味が大きく違う。 そして、そのことをお互いに認め合っている。 臼井は永井のことを「自分にはない線の美しさを持っているので学びたい」 と言い、永井は、「臼井くんは、タンブリングが強いし、演技の流れがいいし、ミスしない。 本当に強いと思う。」と言う。 ユース世代のトップ選手でありながら、 有頂天にはさせてくれないライバルがいる。 そんな男子新体操の現状が、 ますます選手たちを成長させるに違いない。



 この2人だけではない。 今大会3位の畠山可夢 (袖ヶ浦高校) も、 すらりとした長身から繰り出す高さのあるタンブリング、 果敢な手具操作は見事だった。4位の平野泰新 (青森山田高校) は、 従来から持っていた美しい線に加えて力強さが増し、シャープな演技になってきた。


■団体競技でも、地殻変動の兆しあり! インターハイに要注目!


 また、同時に開催された第2回男子団体選手権でも、 埼玉栄高校 (今大会2位)が王者・青森山田高校 (今大会 1位) に肉薄した。 数年来、 ダンス的な新体操で時代を引っ張ってきた青森山田だが、 埼玉栄はまたそれとは大きく違った路線に挑戦し、完成度を高めていた。

  7月31日から青森県で開催されるインターハイでは、個人、団体とも白熱した戦いになりそうだ。

 男子新体操に打ち込む高校生を描いたテレビドラマ『タンブリング』の放送から1年になるが、リアルな世界では、 まさに 「お楽しみはこれから」だ。

~映画「バクテン!!」公開まであと19日~

※映画公式サイトはこちら。 ⇒ https://bakuten-movie.com/

TEXT & PHOTO:Keiko SHIINA