映画「バクテン!!」公開へのカウントダウン企画⑭~2011全日本インカレ前

インカレ直前! ラストシーズンに懸ける注目の4年生男子たち

(「Sportiva」2011年8月2日掲載)

 高校総体の興奮冷めやらぬ8月4~6日の3日間、 栃木県小山市で新体操の「全日本学生選手権大会(インカレ) 」 が行なわれる。 ここ数年、社会人選手も増えてはきたが、 男子新体操では大学までで現役引退する選手がほとんどだ。 なぜなら、 男子新体操にはプロという道もなければ、 実業団で続ける道もほとんどない (アルフレッサ日建産業が唯一の企業チームだ)。 また、趣味で続けていくには、 案外練習場所が限られている。気軽にどこでも練習するわけにはいかないくらい、危険を伴うスポーツなのだ。 そのため、 大学4年生=ラストシーズンとなる選手が多く、例年4年生の演技には、格別な味わいがある。


■元スーパージュニア 「福士祐介VS柴田翔平」 インカレ最後の決戦

 福士祐介と柴田翔平 (ともに青森大学) もそんな4年生のなかの2人だ。 今の大学生には「高校から新体操を始めた」という選手もまだ多い。 しかし、この2人は、小学2年生のときにはすでに新体操を始めていた。 そして、 小学生のうちに全日本ジュニアにも駒を進めるくらいのスーパージュニアだった。


 中学の3年間、 全日本ジュニアで福士は5位→1位→1位 柴田は4位→3位→5位と常にジュニアのトップ選手として競ってきた。 高校でも大学に入ってからも、競技成績では抜きつ抜かれつ。 「よきライバル」という言葉で済ませられないほどの縁(えにし) が感じられる。
 2人の演技はまったく個性が違う。 美しく透明感のある演技を見せる福士、エネルギッシュでスピード感あふれる演技を見せる柴田。 しかし、共通しているのは、その技術の高さだ。 とくに手具操作の多彩さ、巧みさからは、 彼らがこのスポーツにかけてきた時間の重みが感じられる。 彼らの演技は、 まさに 「努力の結晶」 なのだ。


 

 最後のシーズンに懸ける気持ちをたずねてみると、「去年までは少しでも先輩たちに食い込んで上にいきたいという気持ちでしたが、 今年はちゃんと優勝を意識して、口にも出して優勝を目指しています。」 ときわめて控え目な性格の福士にしては珍しく言い切った。 柴田は、 「最後という感慨はまだあまりないのですが、最後の年なので、 今年は構成上の出し惜しみのない作品になりました。 自分のやれること、やりたい新体操をやり切りたいです。」 と言った。
 5月に行われた東日本インカレでは、3種目目まで僅差でリードしていた柴田を、最終種目で福士が逆転し、 優勝している。 しかし、その勝利は紙一重の差だったことを、彼らはお互いに知っている。 安心はできないし、あきらめる必要もない。

「遅咲き選手」の意地とポテンシャルを見せつける!

 一方で、 高校から新体操を始めた選手の中にも注目したい4年生がいる。 中学時代は野球部だった増田快雄 (ますだよしたか・青森大学)、 中学時代は水泳部の鈴木駿平(国士舘大学) は、ともに大学1・2年生のときは目立たない存在だったが、昨年来ぐっと存在感を増してきた。 高校では団体メンバーにも入れず一人で黙々と手具の練習をしていたという野口勝弘 (花園大学) も高校から新体操を始めた選手だが、 西日本インカレでは優勝している。
 そして、中学時代から新体操はやっていたものの、 大学1年生までは団体専門の選手で、 個人に転向したのは大学2年生になってからという椎野健人 (しいのけんと・青森大学) も東日本インカレでは3位に入った。 彼らのキャリアは、 福士、 柴田に比べるとあまりにも浅い。 しかし、 自分の意思をもった高校生、大学生になってから「男子新体操」に打ち込んできた選手たちの思いの深さは、驚くほどの短期間で彼らを成長させてきた。

  大学入学時には、雲の上の存在だった福士、 柴田をも脅かす可能性を、今の彼らはもっている。 決してあきらめず、自分の可能性を信
じて努力し続けてきた遅咲きの4年生たちが、 どんな花を咲かせてくれるのか楽しみだ。

10連覇のかかる青森大学団体を支える4年生

 大学生男子の団体競技では、 昨年、青森大学が史上初の9連覇を成し遂げた。 今年、優勝すれば連覇が「10」 に伸びる。 もちろん、 青森大学はまだ連覇を止める気はない。
 しかし、今年は、ライバルである花園大学団体の前評判が非常に高く、 青森大学は今までになく苦しい状況だ。 その青森大学団体にも4年生が3人いる。 青木雄太郎 (あおきゆうたろう)、 森翔太、 そしてキャプテンの柳文人(やなぎふみひと) だ。 10連覇を達成できるかどうかは、チームの精神的支柱であるこの4年生にかかっていると言ってもいいだろう。


 

 東日本インカレでは、柳はフロアで演技をしていなかった。 しかし、 練習中、 誰よりも大きな声でチームを鼓舞し、「OBが指導にきているのか?」と見まごうくらい、チームをよく見て、指示をとばしていた。柳は、キャプテンだが補欠だ。 実力がないわけではないのだが、 大学2年の冬に首を脱臼骨折し、今でもボルトが入ったままという状態のため、正メンバーとして出場する機会になかなか恵まれないのだ。
 それでも、「自分はいつでも出る準備ができている」と柳は言う。そして、 チームのサポートに徹している。 彼の存在が、 このチームを引っ張り、支えている。 10連覇のかかる苦しい年、 その困難を突破するためには、こういう強い気持ちをもった選手が必要なのだ。 たとえフロアに立つことはなかったとしても。

崖っぷちの国士舘大学団体。 その誇りを4年生が見せる!

 青森大学が9連覇を達成する前に連覇の記録をもっていたのは国士舘大学だ。 しかし、 国士舘大学は昨年の全日本選手権で、 青森大学 、 花園大学だけでなく、国士舘大学OBを中心に組んだ社会人チームにも負けて4位になるという屈辱を受けた。 このところ定位置だった2位からの陥落は、 国士舘大学にはかなりのダメージだっただろう。
 その惨敗を受けての今年、国士舘大学団体には2人の4年生がいる。 蜂須賀竜太 (はちすかりゅうた) と西田直樹だ。 インカレでも全日本選手権でも優勝からは遠ざかっている国士舘大学が、 最後に優勝したのが2008年の全日本選手権だった。 そのとき、 彼らは大学1年生だったが、堂々正メンバーとして優勝の歓喜の渦の中にいた。
 あれから、3年。 国士舘の再起を賭けた東日本インカレに西田は出場できなかった。 アキレス腱を痛めて満足に歩けない状態だったのだ。 そして、チームはかつてないほどの大きなミスを犯し、惨敗。



 インカレには、西田が出場する。 完治とは言えない状態のようだが、それでも西田はフロアに立つ。 最後のインカレだから。 そして、チームの危機だから。 蜂須賀と西田、この2人が卒業すれば、 国士舘には優勝の味を知る選手がいなくなる。そうなる前に、 彼らにはやらなければならないことがあるはずだ。
 全日本学生選手権で、4年生を中心に生まれるだろう、 多くのドラマにぜひ注目してほしい。

~映画「バクテン!!」公開まであと18日~

※映画公式サイトはこちら。 ⇒ https://bakuten-movie.com/

TEXT & PHOTO:Keiko SHIINA