映画「バクテン!!」公開へのカウントダウン企画⑩~2010ALL JAPAN再び

現在は休刊しているダンス雑誌『DDD』は、アーティスティックスポーツに理解があり、熱意をもっている貴重な雑誌だった。

その『DDD』がダンスではなく、アーティスティックスポーツに特化した増刊号を出したのが2011年4月。

こんな表紙だった。この1冊の中で男子新体操はなんと7ページにわたって取り上げられている。

本当に、ありがたい雑誌だった。2010年のALL JAPANという類まれな名勝負を、こうして紙媒体で残せてよかった! 読み返してみると改めてそう思う。

(『DDD』2011年4月増刊号)

■男子新体操アーティストたちの競演

 「全日本フィギュアスケート選手権」 の取材で、 日本のフィギュア界では、女子以上に男子選手にアーティスティックな選手が多いことに驚いた。
 フィギュアに詳しいライターからも、「男子でフィギュアやバレエを選ぶ子は、その時点でアーティスト体質なんだと思う」と言われた。 たしかに、サッカーでも野球でもなく、 フィギュアを選ぶ男の子が 「人前で踊るのは好きじゃない」わけはない。 そして、 新体操もまったく同じ状況にある。
 男子新体操の選手には、「自分なりの表現」「音楽と一体になった演技」「人とは違う自分らしさを出す」 などにこだわる選手が多い。 いい意味で、「人からどう見えるか」 に対する意識が高く、その感覚は、アスリートというよりは、アーティストに近い。
 特に2010年全日本選手権で、表彰台に上がった3人は、 個性は違えどその傾向が顕著な選手だった。 3位の谷本竜也 (花園大学) のクラブ
の演技は、おそらく歴史に残る名作だ。 童謡 「小さい秋みつけた」にのせた、物悲しく、せつなく、そして激しい演技には、 本気で涙する人も少なくない。
 2位の大舌恭平 (青森大学) は、 すべての種目でまるでアクターのように、自分の世界を描き出す。 1分半の舞踏劇とでもいうような大舌の演技は、観客を引き込む力に満ちている。 インカレチャンピオンにふさわしい演技を大舌は見せた。 優勝してもおかしくない演技だった。

 

■「新体操の魅力」を体現したチャンピオン ・北村将嗣


 大舌を抑えてチャンピオンになった北村 (花園大学)の演技は、「新体操の魅力」をどこまでも見せてくれる。 体の動きひとつ、手具の操作ひとつで、こんなにも旋律を表現することができ、人の心を動かせるということを、北村の演技は教えてくれる。 彼の演技からは、自身の体に対する愛と周囲への感謝の気持ちが、たしかに伝わってきた。


 

 数年前から、ぐっと表現力を増してきた男子新体操だが、この3人の存在が「表現ありき」の流れを決定付けたようにも思う。 男子新体操は個性を大切にする。 だから、「表現」のあり方も1通りではない、個性に合わせた自分なりの表現を志せばよいし、それも認められるだろう。 ただ、 「能力が高い、技術がある」 だけでは、勝負できない。 男子新体操の芸術性はそこまできている。

 団体も同じだ。 ジュニアクラブも増えてきて、 新体操のキャリアの長い、基礎のできあがった選手が増えてきた今では、 上位チームの能力差は縮まってきている。となれば勝敗を分けるのは、いかに 「伝えるもの」 があるか、 だ。人の心を動かせたものに点数が出て、 勝利が舞い込む。 男子新体操は、これからますますそうなっていくだろう。
 今春大学を卒業した選手の中には、シルク・ドゥ・ソレイユからのオファーを受けた者もいる。 パフォーマーとして新たな挑戦をする者もいる。 アーティストとしての彼らの勝負はこれからだ。

▲<男子個人総合2位>
大舌恭平 (青森大学)
自分は曲とのマッチ、 曲のテーマに合わせた演技ということを目指してやってきました。 優勝できなかったことは正直悔しいですが、人と違う演技をするという目標は達成できたと思います。
▲<男子個人総合3位>
谷本竜也 (花園大学)
自分の身体の特徴をいかした自分にしかできない演技をしたいと大学4年間やってきました。 最後の年ということでたくさんの人から 「がんばって」 と応援してもらえたことが励みになりました。


~映画「バクテン!!」公開まであと22日~

※映画公式サイトはこちら。 ⇒ https://bakuten-movie.com/

TEXT:Keiko SHIINA