映画「バクテン!!」公開へのカウントダウン企画④~2008 ALL JAPAN

 さて、まだ2008年の記事があった。

 こうして振り返ってみると、2008年が私にとっては「男子新体操元年」だったのかな、と思う。

 ユースチャンピオンシップでページの半分ほどを男子新体操に割いてくれたダンス雑誌『DDD』が、この年の全日本選手権(ALL JAPAN)のときは「男子もお願いします」と言ってきた。この年は、テレビのバラエティー番組「笑ってコラえて」で男子新体操を大きくフューチャーしていたこともあり、編集長(男性)がすっかり男子新体操ファンになっていたのだ。

 私は、2002年からALL JAPANを観戦していたが、この年まではほぼ女子しか観ていなかった。が、ついに出版社のほうから「男子も!」とのリクエストがあったので、かつてなく熱意をもって男子新体操を見ることになったのが、この2008年のALL JAPANだったのだ。春日克之選手の初優勝、国士舘大学の6年ぶり王座奪還(山田小太郎監督の1年目でもあった)など今にして思えば、見どころ満載の大会だったが、なにしろこのときはまだ男子新体操観戦初心者。少しでも読者にアピールしようと「イケメン探し」に余念がなかったことを覚えている。

 この年の入賞メンバーを見てみると、その後も、それぞれの形で男子新体操の普及、発展に寄与している選手が多いことに驚く。彼らの現役時代にギリギリ間に合ったことは、本当に幸運だったと思う。

 

●春日克之(青森大学)が、インカレの雪辱を果たし初優勝!

(『DDD』2009年1月号掲載)

 男子の新体操はダイナミックな大技の連続だけあってミスが出ると大きい。今大会でも各種目の上位8名で競う種目別決勝に4種目ともコマを進めた選手は3人しかいない。それだけ、1つのミスが点数に大きく響き、順位も入れ替わってしまうのが男子新体操なのだ。

 昨年8月に行われた全日本学生選手権(インカレ)では、個人の1~4位は花園大学が独占。 春日克之は、6位で終わっている。 しかし、このときも春日はどの種目でも平均的に高い得点をマークしている。 決してミスで潰れたわけではなかった。が、「自分ではいい出来だと思っでも、インカレでは点数が伸びなかった」と春日は言う。
 インカレのあと、審判にも確認し、自分のどこがよくなかったか徹底的にリサーチして、全日本に向けての対策も練ったという。「僕は身長がないので、動きが小さく見えると言われた。だから、全日本ではよりかかとを高く上げるように意識したし、上体を上に伸ばして大きく動いた。 演技構成を変えたわけではなく、ちょっとしたところの努力が今回は点数に結びついた」。
 春日克之の演技は、とにかく「運動量が多い」と言われる。 タンブリングが得意で、連続技でも他の人がやらないようなものをやる。そして、ミスが少ない。人並み以上のリスクに挑戦しながらミスしないのはなぜなのか。 「練習して、練習して、不安をなくしてから試合に向かう。そして、試合では練習通りにやることを心がける」。そんなストイックな春日だが、目指しているのは「自分が演技を通して
伝えたいと思っているものが見ている人にちゃんと伝わるような演技」だと言う。せつなさやのびやかさ、それを演じ切りたいのだとか。
 「演じる」「表現する」という部分は、どちらかと言えば女子のほうが長けると思われていた新体操の世界だが、ここのところ、男子の躍進がめざましい。今大会を見ていても、優勝した春日をはじめ、「表現者」としての魅力を感じさせる選手が目白押しだったのが男子新体操だ。作品や選手によっては、女子以上に入り込んだ演技を見せる。それゆえ見ている方も、ぐいぐいと惹き込まれるのだ。


 

 個人だけではない。早くから人気を博していた団体も、年々変化を見せ、よりアーティスティックに、そしてチームごとの個性が豊かになってきている。今大会で優勝した国士舘大学は、昔からの強豪大学ではあるが、 「美しい新体操」を武器に台頭してきた青森大学にオールジャパンでは5連敗中だった。

 スポーツらしく迫力のある演技が身上だった国士舘大学だが、今年の演技はそこにダンサブルな美しさが加わっていた。青森大学とはまた違う個性を出しつつも、従来の国士舘の演技とは違っていた。自分達の持ち味を失うことなく、現在の男子新体操の流れをうまく取り入れてきたのが、今年の国士舘大であり、それが勝利を呼び込んだのだ。
 男子新体操を見ていると、そこには「観客の目」がおおいに意識されていることが感じられる。だからこそ、自分たちの個性は大切にする、それでいて流行や新しいものも取り入れようとする柔軟性がある。
 「見て楽しむスポーツ」として、 やはり男子新体操は魅力的だ。ついに国体種目からは外れ、目にする機会が多いとは言えないが、ぜひ一度見てほしい芸術スポーツだ。

※2008年ALL JAPANの結果はこちらから。 ⇒ https://www.jpn-gym.or.jp/rhythmic/database/results/2008%e5%b9%b4%e5%ba%a6%e6%96%b0%e4%bd%93%e6%93%8d%e7%ab%b6%e6%8a%80%e6%88%90%e7%b8%be/

※2008年JAPANチャンピオン春日克之選手の2021年の演技がこちらで見られます。ほぼ、衰えを感じさせない動きに驚愕!!! ⇒ https://www.youtube.com/watch?v=qPalBAoSSdg

 

~映画「バクテン!!」公開まであと28日~

※映画公式サイトはこちら。 ⇒ https://bakuten-movie.com/

TEXT:Keiko SHIINA