映画「バクテン!!」公開へのカウントダウン企画⑤~2009JAPAN青森大学団体

伝説の 「青大 2009 団体」

(スポーツナビセレクトブログ「新体操研究所」2010.3月掲載)

  2002年の全日本選手権で、初めて団体3位となり、翌2003年から5連覇を成し遂げた青森大学。今ではおしもおされぬ男子新体操の名門大学ですが、じつはその歴史は浅いのです。 しかし、今では男子新体操は、 「青森大学」を抜きには語れないほどの独自の存在感をもっています。
 私が、 まだ男子新体操の魅力にめざめていなかっまたころに、若い女の子の新体操ファン達から言われたことがありました。 「青森大学の団体見てくださいもお、見ていてせつなくなりますから。」そのときは、え~、ほんと? と思ったものです。 男子新体操はダイナミックで迫力あって、かっこいいけれど、 「せつない」って・・・?
 でも、見てみて納得しました。 男子なのに、 ほんとに美しい新体操で、 しかもその美しさは、単に動きや体の線が美しいというだけでなく、「情感」が漂ってくる、 そんな美しさだったのです。 タンブリングの迫力ももちろん文句なしにあるのですが、 それ以上に、 青森大学の新体操は美しい、 そして「せつない」。 それが魅力でした。
 そんな青森大学の団体演技ですが、 2009年全日本選手権でのそれは、 また格別なものでした。 この年の青森大学のメンバーは、例年以上にがっちりしたタイプの選手が多かったように思います。 ライバルである国士舘大や花園大学にスラリとした選手が多いのに比べると、 体型では不利 (一この感覚は女子新体操的かもしれませんが)、そう感じたのですが・・・。
 しかし、そのがっちり系チームが、この全日本選手権で見せてくれた演技は、 もしかしたら青森大学史上最高かもしれないほどに「美しく」そして、 「哀しみ」が伝わってきました。


 

 その場で、演技を見ていたとき、 私は、ピアノ単楽器の演奏だったと思っていました。 改めてビデオで確認するとそうではなく、 別の楽器も使われてはいたのですが、印象としてはどこまでもやさしいピアノの音だけ、がフロアに響いていたように感じられました。 本来は、静かな曲では合わなそうなタンブリングもすべて、どこまでも静かな曲で彼らは踊りました。 ともすれば単調で盛り上がりに欠ける演技にもなりかねない そんな曲で、曲のイメージとはかけはなれた体型の男たちが踊ったのです。
 一歩間違えば「こっけい」にすら見えそうな、そんなミスマッチがまったくミスマッチではなく、美しくて美しくて、心臓がぎゅっとなるくらいの感動を私は覚えました。 新体操が大好きな私は、 新体操を見て「感動」することが多いのですが、 ここまでのレベルの感動は、そう何回もはありませんでした。


 最高レベルの感動。

 それを与えてくれたのが、 2009年全日本選手権での青森大学の演技でした。
 優勝するために。 ただ高い得点を得るために。 ではきっとこんな演技はできない。 とそのとき感じました。 この演技には、伝えたい想いがある、 きっと成績ではない 「なにか」のために、選手達は踊っていると感じました。 演技を見ているうちに、 本当に涙があふれてきました。
 なんだか、不思議な空間にいるような、そんな気分にさせられた3分間でした。
 そこで私が見ていたものは、 「新体操の演技」ではなかったのではないか、そんな気さえしたのですが、あとになってその理由がわかりました。
 彼らは、この年、若くして急逝した青森大学男子新体操部創設時の部員だった大坪政幸さんへの追悼の思いを込めて、大坪さんが生前演技で使用していた曲「BLUE」を使って演技をしていたのでした。

 こんな思いがこもった、こんな意味のある演技だったのですね。 あの 「なにか新体操ではないものを見ている感じ」は、やはり間違いではなかったのだ、と思いました。


 そんな偉大な先輩達の築いた礎のもと、 青森大学は、 これからも強く、美しく、そしてせつない新体操を見せ続けてくれるに違いありません。

 

~映画「バクテン!!」公開まであと27日~

※映画公式サイトはこちら。 ⇒ https://bakuten-movie.com/

TEXT:Keiko SHIINA