映画「バクテン!!」公開へのカウントダウン企画②~2008埼玉インターハイ

2006大阪インターハイの翌年、2007年の佐賀インターハイには取材に行けず、1年あいて2008年、埼玉インターハイでの記事が、私が書いたおそらく2つ目の男子新体操の記事だ。

掲載媒体は、「高校生新聞」。

このときは、「高校生新聞」のほうから、「鹿児島実業の記事を書いてほしい」というオファーがあった。

が、問題がひとつあった。このころすでにコミカル演技で人気だった鹿実だが、九州の他校も力をつけてきて、なんと2008年のインターハイには団体での出場を逃してしまったのだ。しかし、個人には村田慎也選手が出場していたため、「樋口監督の記事を」ということになり、このとき初めて樋口監督に正式に取材させてもらったのだった。(2006年は会場での立ち話だった)

なんと14年前の記事だが、鹿児島実業の人気が大ブレイクするのはこの数年後。いわばブレイク寸前の鹿実の貴重な記事とも言える。

 


「楽しむ」がモットーの『エンタメ新体操』

(2008年11月10日「高校生新聞」掲載)
 

監督の肖像~鹿児島実(鹿児島) 男子新体操部  樋口靖久監督

■樋口靖久 (ひぐち やすひさ) ■1971年4月28日、 鹿児島県生まれ。中学3年から新体操を始め、 鹿児島実、 国士舘大時代を通じて競技選手として活躍。 大学4年の時は国士舘大の全日本選手権10連覇のメンバー。 大学卒業後、 96年に母校である鹿児島実に体育教師として赴任し男子新体操部のコーチに。 2001年、 恩師の後を受け監督就任。02年インターハイでの 「夏祭り」をBGMにした演技で注目を浴び、 04年インターハイではピンクレディーのヒット曲 「UFO」 に合わせて演技し人気を確立した。


 今年を最後に国体の正式種目から外れた男子新体操。 しかし、近年はテレビ番組での露出が増え、 全国高校総体(インターハイ) や国体でも女子新体操をしのぐほどの人気を誇っている。 男子新体操ブームの火付け役となり、「人気ナンバーワン」 といわれるチームが鹿児島実(鹿児島) だ。 軽快なアニメソングに合わせたコミカルな演技が特徴で、 インターネット動画サービス 「You Tube」 に投稿された同校の演技は1年間に40万回以上も再生されている。 多くの人の心をつかんだ新体操の生みの親は、 現在も鹿児島実を率いる樋口靖久監督 (37) だ。


「昔から、人を楽しませる企画を考えるのが好きでしたね。結婚式の余興とか」 と笑う樋口監督に自身の競技歴を聞いてみると、しばしば 「日本で初めて」という言葉が出てくる。

 中学3年で新体操を始め、 インターハイや国体、インカレ、オールジャパンなどの全国大会に軒並み出場した。 華々しいキャリアだが、どの大会で何位だったということよりも 「2回宙返りを日本で初めて演技に入れたのは」 「組み技を取り入れた初めての作品は」 という思い出を誇らしそうに話す。見ている人が楽しめるから~、 ほかのチームがやっていないことを実践する樋口スピリットは現役時代から培われていたのだ。

 

●「サザエさん」などがBGM

 鹿児島実の演技は、アニメソングや歌謡曲などを使っている。 荘厳な曲を使うことが多い男子新体操では型破りだ。 例えば 「サザエさん」 「キューティーハニー」、モーニング娘。 やピンクレディーの曲を使ったこともある。

 斬新なのは選曲だけではない。 思わず笑いを誘うユニークな振り付けは、それまで「ダイナミックさ」 「美しさ」を競っていた男子新体操では異端である。しかし、「よそとは違う」 演技が多くの支持を集め、 観客からは優勝チーム以上の大きな拍手と歓声を受けることになった。
 

●印象に残る演技をしよう


 独特な演技に行き着いたのは「うちが強いチームではなかったから」と樋口監督は言う。 鹿児島実は3年に1回程度しかインターハイ出場のチャンスがないチームだった。 出場しても強豪校のような演技も成績も望めない。これでは、誰かが大会を記録したビデオを見直すときも、とばされてしまう。それが悔しかった。「もう一度見たいと思わせる、人のやらない演技なら早送りされないだろう。」技術よりも成績よりも、印象に残る演技をしよう。その思いから鹿児島実の演技が生まれた。

 しかし、2008年、鹿児島実は九州大会で5位に沈み、7年連続出場中だったインターハイの切符を逃してしまう。大きなミスを犯したわけではなかったが、独特の演技構成への評価が分かれ、今回は悪い結果に出てしまった。

 

●「うちのカラーは変えない」


 「新体操らしくない動き、無駄な動きが多いと言われ、 笑いをとる必要があるのかとも言われた」 と樋口監督。 しかし、 「技術をもっと磨くことは必要だが、うちのカラーは変えない」と言い切る。
 「うちの選手は、 高校から新体操を始める子も多くて、 決してうまくはない。 下手でも堂々と演技して、歓声を受けられる経験を子どもたちにさせてやりたい」
 そんな樋口監督の試合前の指導ぶりは、拍子抜けするほど穏やかだ。 「試合前は緊張するのが当たり前。 監督のやるべきことは選手をいかにリラックスさせるかだから」と説明する。 人を楽しませるのが好きな樋口監督は、「選手も新体操を楽しんでほしい」 と思っている。 だから、伸び伸びと演技をさせることに心を砕く。
 自分たちも楽しみながら、見る人も楽しませる。そんな『エンターテインメント新体操』を、樋口監督はこれからも発信し続ける。

 

◆監督のモットー◆

 選手が楽しみながら、 見る人も楽しませる新体操を目指す樋口靖久監督。「部員たちの堂々とした姿を見ると、こっちもうれしくなる」「鹿児島実で新体操をやっていたことが、 生徒たちの一生の宝物であってほしい」。 その思いが樋口監督の原動力だ。 「のどが渇いていないときにジュースをもらってもありがたみがないが、ただの水が命を救うこともある」 と、 必要なタイミングで適切な援助をすることに最大の気を配る。 自分を奮い立たせるために 「おれは天才だ」と選手に言い放つこともあるが、 実は「監督は生徒から信頼されてなんぼ」と肝に銘じている。


◆教え子の声◆「先生の話を聞くと安心できる」

 「練習中は怖いけど、普段は冗談を言って笑わせてくれる面白い先生」とは、埼玉インターハイの男子個人に出場した村田慎也(3年)=鹿児島・西陵中出身=の樋口監督評。主将の宮園雷太(3年)=同・星峯中出身=も「先生の話を聞くと安心して試合に出ていくことができる」と信頼を寄せる。「やったことしかできないんだから」という監督の言葉が、伸び伸びとパフォーマンスする力になっていることを教え子たちは身をもって知っている。

※2008年インターハイの結果はこちら。 ⇒ https://www.jpn-gym.or.jp/rhythmic/database/results/2008%e5%b9%b4%e5%ba%a6%e6%96%b0%e4%bd%93%e6%93%8d%e7%ab%b6%e6%8a%80%e6%88%90%e7%b8%be/

 

~映画「バクテン!!」公開まであと30日~

※映画公式サイトはこちら。 ⇒ https://bakuten-movie.com/

TEXT & PHOTO:Keiko SHIINA