映画「バクテン!!」公開へのカウントダウン企画①~2006大阪インターハイ

いよいよ映画「バクテン!!」の公開が近づいてきた。

思えば、男子新体操の記事を継続して書くようになったのは2010年のテレビドラマ「タンブリング」がきっかけだった。

長年、女子新体操の大会取材をし、記事を書いてきていた私に「ドラマも始まるから男子新体操の記事もぜひ!」という声がき、ドラマの放送を周知する一助になればと始めたのだった。それが、そのまま2022年まで続くとは当時は想像していなかった。

2010~2013年あたりは女子よりも圧倒的に男子の記事を書いてきた。

それは、それまでの日々、同じ会場の隣のフロアで男子も競技をやっていたのに、満足に観ていなかったこと、関心をもっていなかったことへの罪滅ぼしのような思いからでもあったし、追い始めてみたら「男子新体操」という競技、そこに関わる人達が魅力にあふれていたからだった。

今は、SNSや動画での発信も盛んになり、様々な人たちが男子新体操の情報発信をするようになった。それはとてもありがたいことだと思う。

が、ときどき、ちくんと胸が痛むのは、「今まで男子新体操の情報は発信されていなかった」という言葉を見るときだ。

すみません。足りなかったかとは思いますが、2010年からは、それなりに発信はしてきていたんですが。。。

そんな反省もあり、映画「バクテン!!」公開日まで、過去記事を含め「男子新体操」の記事を連日上げていこうと思う。

 

掘り返してみたところ、私が書いた最初の男子新体操の記事は、「スポーツナビ」のコラム(2006年8月13日)のようだ。

この年は、大阪でインターハイが開催され、井原・精研高校(今の井原高校)が連覇を達成した年だが、そのときの記事を紹介しよう。

「男子新体操」 その魅力とは?  (公開日:2006年08月13日)


男子新体操をご存知だろうか。
新体操といえば、 「技と美を競う女性のスポーツ」という印象が強いに違いないが、 ここ数年、 男子新体操への注目も徐々に集
まってきている。 男子新体操と聞くと「えー? 男が新体操?」 と奇異のまなざしを向けられることも少なくないが、 一度、 男子新体
操を見てみるとその先入観は覆されるに違いない。
特に団体は、そのアクロバティックな動きが、観客の目をひきつけ大喝さいを浴びるようになってきている。 ここ数年の全国高校
総体では 「女子をもしのぐ」 と言われるほどの人気種目になってきているのだ。
 

女子との違い


男子新体操の団体競技は、女子とは違い手具を使わず徒手で行う。 女子が5人1チームなのに対して男子は6人と人数も違
う。 女子新体操の団体の場合は、体の動きと手具の交換などが織り成す複雑なコンビネーションが見どころとなるが、 男子の場
合は手具がない。 すべて6人の体だけで表現することになる。
そのため、6人の動きのそろい方は半端ではない。 後方転回(いわゆるバック転) も跳び上がるタイミング、 空中での体のそり具
合、着地のタイミングすべてが「ぴたっ!」とそろうことが要求される。 技術の高いチームの演技では二人、 3人が並んで演技して
いても(横から見ると) 一人にしか見えないことも。 手具を持って動くことが必要な女子の新体操ではそこまでの同調を見せること
は不可能に近いが、 男子新体操にはそれがあるのだ。
さらに、 最近の男子新体操の団体では、人の上に人を乗せるアクロバティックな見せ場が増えてきた。 運動会の組体操の「やぐ
ら」を思い描いてほしい。 あれに近い、いやそれ以上のことを演技の中でハイスピードで動きながらやってのける。 チームよって
はその大技を1回の演技 (2分半~3分) の中に何回も入れているのだから迫力あることこの上ない。



「脚のライン」で群を抜く井原・精研高


徐々に注目を高めている男子新体操が8月7日 8日の2日間、 全国高校総合体育大会 (=高校総体、 大阪府八尾市総合体育館)の舞台で行われた。
トップバッターは、井原高と昨年度優勝の精研高 (ともに岡山)の合同チーム。 昨年度優勝校がいきなりの登場だった。 井原・精
研の演技は、出だしから3段やぐらの上から開脚ジャンプで跳ぶという大技で観客の度肝を抜いた。
しかし、彼らのすごさはアクロバットだけではない。 とにかく体のライン、脚のラインが美しいのである。 進化目覚ましい男子新体
操ではあるが「惜しい」と思うのは、やはり「脚のライン」である。 バレエなどを取り入れて強化しているチームも多い女子新体操
に比べると、男子はまだつま先やひざの曲がり、 内また、O脚など 「美しさ」という点では課題を抱えている。 しかし、 井原・精研の
ラインの美しさはおそらく男子の新体操では群を抜いている。
さらに、その美しい動きが見事に6人で調和している。 6人が同じ動きではなく、二人×3などのフォーメーションで動くパートで
もそれぞれのペアが非常によくそろっていた。途中、見せ場である6人倒立で一人だけふらつきが見えたのが惜しかったが、ほ
ぼパーフェクトな演技で20点満点の19.00という高得点をたたき出し、連覇へと大きく前進した。


激戦の大会 0.5差に6校


その後、試技順8番目に登場した神崎清明高校(佐賀)も、ラインの美しさでは井原・精研に劣らない。 倒立のそろい方や角度
などは井原・精研をしのぐものもあったがラストに選手同士がぶつかるミスがあり、 わずかに及ばず18850で3位。 小林工業
(宮崎) も独特の陣形のタンブリングやラストで見せた今大会いちばんのリスキーな大技と、見せ場たっぷりの演技で18,800で
4位をマーク。 試技順16番の鹿児島実業(鹿児島) が これも大会名物となっているコミカルな演技で会場を沸かせる。しかし、こ
の演技も面白さ、目新しさだけでなく技術的な裏付けもある素晴らしいもので18.425の9位。 地元の大声援をうけての清風(大
阪)の演技は、 同調性では大会随一とも思える一体感があり、5位となる18. 725の高得点をマークするが、 井原・精研には及
ばず。 続いて登場した青森山田(青森) は、 男子新体操では最高レベルと思われる情緒的な表現力を見せ、会場を魅了。 井原・
精研を超えるチームがあるとすればおそらくここだろうとだれもが思ったに違いないが、 18.900の2位で涙をのんだ。 構成点で
は9.575と井原・精研の9.550を上回ったものの実施で及ばず、さらにラインオーバーの減点が大きかった。
この結果、 試技順1番という一般的には不利とされる出番にもかかわらず、他を圧倒する演技と点数を見せつけた井原・精研
高校が2連覇を成し遂げた。 しかし、 この連覇は決して楽なものではなく、多くのチームが井原・精研に迫る演技を見せ、 男子新
体操の魅力を強く印象付けた。


「美しい新体操」の青森山田


惜しくも優勝を逃した青森山田の荒川栄監督は「減点される原因を作ったのは自分たちですから仕方ありません」と淡々と語っ
た。しかし、青森山田特有の「美しい新体操」には、これからもこだわり続けたいと言う。 青森山田の繊細な表現は、男子が取り
組むには、照れや抵抗があるのでは? という質問には「ジュニアのころから新体操をやっている生徒も増えてきたので、高校で
も続ける気持ちを持っている生徒は、そこはクリアしてきています」という答えだった。 さらに、 男子新体操の名門である青森大学
にも近いことから、より美しい新体操、良い演技に触れる機会も多く、そこからたくさんのものを吸収するようにしているとのことだ
った。


コミカルな演技が人気の鹿児島実業


また、今回は9位に終わった鹿児島実業も着実に力を付けてきている。 これまでもピンクレディーやモーニング娘。の曲を使っ
たコミカルな演技で会場の一番人気だった鹿児島実業。 樋口靖久監督に、あの独特な演技はいつからどんなきっかけで始めた
のか聞いてみると「うちは強いチームではなかったのでインターハイも毎回は出られなかった。 だから、たまに出たときくらい印象
に残る演技をしたいと思って考えました」 という答えが返ってきた。
会場の笑いを誘うような選曲や振り付けに、 当初部員たちは躊躇(ちゅうちょ)したという。 しかし、いざ観客の前で演技したとき
の観客の反応に自信を付け、今では自分たちでもよりアピールできる動きを考え、提案してくるようになったのだそうだ。 その一
方で「鹿実で新体操をやりたい」という生徒も増え、 それがレベルの向上にもつながってきた。「せっかく力のある選手たちがいる
のに、あまり笑いに走るとちゃんとしたことをやっても点数もらえなくなるから今回は控えめです(笑)」と樋口監督は言った。 確か
に笑いに走らなくても十分印象に残る、 レベルの高い演技をする力を今の鹿児島実業は持っていた。
しかし、個性を捨てたわけではない。 キューティーハニーに始まりキャッツアイで終わるアニメソングメドレーにのせた今年の演
技も、やはり会場での人気は一番だった。 会場を沸かせるコミカルな動きに加えて、さらに音をよく生かした細かいキレのいい動
きと絶妙の間が素晴らしいパフォーマンスを生んでいた。 「ビデオを早送りされない演技をしたかった」と言う樋口監督の思いは
生徒たちにも浸透し、 男子新体操をエンターテインメントの域に近づけてきたのだ。
2008年度を最後に国体種目から姿を消すことが有力な男子新体操。 大きな目標となっている大会が一つ減ることで競技全体
が受けるダメージは大きい。しかし、 その逆境がさまざまな個性を生み、この数年の男子新体操を飛躍的に進化させている。 テ
レビ出演などでも、 積極的に男子新体操メジャー化への熱意をアピールし、なによりも演技を通して男子新体操の素晴らしさを伝
えようという思いが感じられる。
エンターテインメント性と個性にあふれた男子新体操、これからぜひ注目してほしいスポーツである。

※2006年インターハイの結果はこちら。 ⇒ http://chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.jpn-gym.or.jp/wp-content/uploads/2013/07/06r_ih.pdf

 

~映画「バクテン!!」公開まであと31日~

※映画公式サイトはこちら。 ⇒ https://bakuten-movie.com/

TEXT:Keiko SHIINA