新ルールが求めるもの①~昭和学院高校「カルメン」に学ぶ

1月末に審判講習会が行われ、そのときに、「2022-2024ルール」の採点規則の公式の講習が行われた。

その講習を受けた方たちはもちろん、そうでない人でも最近は、情報公開が進んだことによって、かつてなく新ルールの情報は早めに入ってきていると思うが、果たしてこれが実際の演技、そして評価にはどうつながるのかは、実際に試合を見てみないとわからない。

ただ、今日の午前中に行われたシノハラ新体操アカデミー(USA)の「新体操の国際ルール(英語版)を読んでみる」の受講も終えた今、確信できたのは、

「新ルールは、音楽に合わせて踊ることを強烈に求めている」ということだ。

そして、さらに「伝えるものをもった演技が必須になる」ということも痛感した。

新体操には求められる要素が多いので、個人なら90秒間の演技をミスなく(少なく)演じ切るだけでも普通の選手たちにとっては難儀なはずだ。

せめて笑顔で踊れれば上出来だと思う。

ところが、これからのルールでは、「ただニコニコして、きれいに踊ってノーミスだった」だけでは評価されにくくなる、と感じる。

一方で、ルールを文面通りに受け取るならば、技術とは別に、「芸術性」は評価されることになりそうだ。

つまり、身体難度や手具難度がハイレベルではなく、数も多くなかったとしても、音楽によく合っていてテーマを感じさせる、いわゆる「表現力を感じさせる演技」が評価されるようになる可能性をこのルールはもっている。

もちろん、難度がほとんどとれないけれど芸術性の高い演技と、芸術性にはやや欠けるが技術は高い演技ならば、技術の高いほうが勝ちということは起き得るはずだし、それはそれでよいと思う、スポーツなのだから。

しかし、たとえば、技術力の差があまりない選手同士ならば、「少しでも難しいことをして点数を稼ぐ」のではなく、「できる範囲のことをしっかりやった上で芸術性の高い演技を目指す」という勝ち方が出てくるのではないかと思うのだ。いや、多分、そうあってほしいと、このルールは言っているように思うのだ。

ここ数年、とにかく「技(AD)をどれだけ入れられるか」の勝負になりつつあった新体操から、「芸術性」を強烈に求める新ルールへの切り替えはかなり難しいようにも思う。今日の、「英語版を読む」の講習でも、「1に音楽、2に構成(振付)、それをしっかり実施するのが選手の役割、選手が実施できるためのサポートをするのがコーチ」という話が出た。それほど、これからのルールでは音楽の選択が重要になり、またその音楽を生かした演技構成、振付がなければならないというのだ。そして、その演技は、見ている人(審判あるいは観客)に伝わるものがなければならない。

ただ、「上手」「きれい」「かわいい」ではダメだということだ。

これはなかなかの難題だ。

 

そう考えている中で、旧ルールだった昨年、または今年1月のテレビ信州杯で見た演技の中でヒントになるものがいくつかあったな、と思い出した。

あくまでも私なりの感じ方ではあるが、これから新ルールにどう対応していくのか考えている人たちのなにかのヒントになればと思うので、何回かに分けて書いていこうと思う。

新ルールの求める演技を想像したときに、思い出したのが、昨年11月、福岡県宗像市で行われたSANIX 団体選手権で見た昭和学院高校の団体演技だ。

昨年のインターハイでは7位となり、常連だった全日本選手権への出場が途切れてしまった昭和学院が、インターハイメンバーそのままに出場してきたこの大会で見せた演技は、インターハイが最後の公式試合になってしまった3年生たちとは思えない気迫のこもった演技だった。この試合の結果になにが懸かっているわけでもないのに、間違いなく彼女たちは「この1本」に懸けてきたことが伝ってきた。

そして、「カルメン」という有名すぎる曲を使ったこの作品の、少なくともこのSANIXでの演技はまるで舞台を観ているような、そんな錯覚を見せてくれたのだ。正直に言えば、「カルメン」の物語までが見えたわけではない。おそらく「カルメン」という物語は、高校生が演じるにはいささか妖艶すぎるのかもしれない。が、とくに演技中盤あたりから、カルメンの舞台であるセルビアの街の喧騒が背景に見えるような気がしたのだ。

どうしても技数が多く、やや慌ただしい演技になってしまっていたとは思うが、その慌ただしさが街の喧騒を感じさせていた。カルメンの痴情騒ぎまでは表現しきれなかったとしても、その舞台、その世界観はこの昭和学院の演技からは十分に感じられたのだ。

思えば、昭和学院は、強豪校であると同時に、毎年、表現にはおおいにこだわっていたチームだ。練習の取材のとき、あるいは大会での演技後に話を聞いたときにも、昭和学院の選手たち、指導者は技ではなく、作品を表現することへのこだわりを口にすることが多かった。そして、毎年必ず、ストーリーをもった作品作りをしていることがその話から伝わってきていた。

今回の「カルメン」も、いつものように昭和学院の選手たち、部員たち、そして指導者が一丸となって、その世界をフロア上に描こうとしていたんだろうと思う。インターハイでの演技は、生で見ることができなかったため、正直、ここまで「伝わって」はこなかった。が、いざ目の前でのその演技を見れば、こんなにも伝ってくるのか、と思った。昭和学院の演技の中には、手から放したフープの中を人がくぐるという難しい連係技が入っている。これはインターハイで優勝した2018年にも入っていたと記憶しているが、この見せ場の大技が、「カルメン」の中で描かれる決闘だったり、カルメンがホセに刺されるという悲劇的な結末だったりを感じさせた。ただ、「難しい技で点数を稼ぐ」のではなく、物語や音楽に伴う必然性のある技に見えたのだ。

高校生にとって、「カルメン」はそう共感できる物語ではないと思う。それでも、きっと彼女たちは、「カルメン」の世界を、ぐっと自分たちに引き寄せて考え、感じ、そして演じていたのだと思う。技もつまった休む間もない演技だったに違いないが、それでも「演じること」を諦めずにやっていたんだな、とこのときの演技を見て思った。

改めて、インターハイでの成績を見直してみると、昭和学院が7位だったのは、D3の得点が17.100と上位チームの中ではもっとも低いことに起因している。実施+芸術のE得点は、6.100と上位7チーム中2位(1位は二階堂高校の6.350)。全日本選手権に出場できたチームとはごく僅差であり、それもこれからのルールであればより評価されたかもしれない演技だったように思う。

3年生たちの最後、という特別な演技だったからこそより強く思いが伝わってきたのかもしれないとは思うが、どんなに難度の高い演技になっても「物語を描くこと」にこだわってきた昭和学院だからこそできた、この日、見せてくれたのはそんな演技だった。

「見る人に伝わるものがあること」を求めている、これからのルールのもとで、このときに見た昭和学院の「カルメン」のような演技が増えていくとしたら、これからの新体操はきっととても魅力的なものになってくる。そんな嬉しい予感がしてならない。

TEXT:Keiko SHIINA       <写真提供:昭和学院高校新体操部>