全日本選手権に向けて~社会人たち

今年の全日本選手権でも存在感を示してくれそうなのが社会人選手たちだ。

9月の新体操フェスタ岐阜で開催された全日本社会人大会での優勝者・森谷祐夢(KOKUSHIKAN RG)は、社会人1年目。

大学4年生だった昨年は全日本インカレも制している。

国士舘ジュニアの会員番号1番を有する森谷は、ジュニア時代から美しく繊細な動きと表現、そして華奢な印象の見た目からは意外なほどのタンブリングの強さ、手具操作の多彩さを見せることのできるハイスペックな選手だった。全日本ジュニア、インターハイなど主要大会での優勝経験もあり、いわば「王道」をひた走ってきた選手だが、じつは案外、「悲運」に見舞われてきている。

高2のときに、インターハイで優勝。連覇が期待された高3のインターハイは、新型コロナの影響で中止になった。

やっと大会が開催されるようになった2021年、大学1年生のときは東日本インカレでの大乱調で全日本インカレに進めず。

2022年、初出場となった全日本インカレでは、同部屋の選手の発熱によるコロナ感染の疑いのため、初日出場できず。特別措置で1日に4種目を演じることになる。このとき、国士舘大学の山田監督が、「ひろむの全日本インカレはなかなか始まらない」と、苦笑いしていたことがとても印象に残っている。

そして、大学4年だった昨年は、インカレチャンピオンとして迎えるはずだった全日本選手権を前に、大きな怪我をし出場を断念。当時から「このままで終わってほしくない。社会人でもぜひ」という声は多かったが、果たしてそれが実現するのかは、ふたを開けてみないとわからない。そう思っていた。

2025年9月19日。

社会人大会に出場した19人の中で最初に試技を迎えたのが森谷だった。変則開催のため、最初の種目はクラブ。

学生時代と、そして昨年の怪我をする前と、なんら変わりのない美しい演技で、森谷選手の「いつも通り」に会場を静まりかえらせ、感嘆のため息をつかせた。どうしても練習時間には制約がある社会人としてはなかなか出せない20点超えをいきなり果たした。それも、今年から男子新体操に導入された芸術点が9.100というハイスコア。終わってみれば、社会人選手の中で、芸術点を9点にのせたのは森谷選手だけ。森谷祐夢は、じつに「森谷祐夢らしい」演技とスコアで、完全復活を果たしたのだ。

 

2位には、昨年の全日本インカレ準優勝、男子クラブ選手権優勝と、学生最後の年に大ブレイクを果たした海谷燎摩(江別RGクラブ)が入った。海谷も社会人1年目。生活の変化もあり、練習時間を確保することは難しかっただろうと想像するが、4種目中3種目を20点にのせ、さらに、江別RGクラブの団体選手としても出場し、社会人団体で優勝という八面六臂な活躍を見せた。男子新体操選手史上最高とも言われる抜群のスタイルも健在で、その伸びやかな体操は、誰もが大好物だろう。今年もまた全日本選手権で彼の演技が見られる僥倖を享受したい。

 

3位の堀孝輔(高田RG)は、今年の社会人大会ではいくつかのミスを見せた。長年、競技での堀を見ているが、傍目にもわかるようなミスはほとんど見たことがないが、今回は違った。それもそのはず、もともと練習時間も十分ではないだろうに、ここにきて高田RG(高田高校)に力のある選手が増えている。新体操フェスタ岐阜では、監督業務もこなしつつ、自身も競技に出場という、常人ではあり得ない離れ業をやってのけていたのだ。普段の練習量も多くはないだろうが、おそらく本番の日も、自分のための練習時間はごくわずかだったのではないかと想像する。いくらかのミスは出ても2種目は20点超え、残り2種目も19点台。この地力の高さが、社会人5年目になっても変わらない堀の強さの根拠だろう。

堀の演技を見ると、体力や気力の限界を感じての競技引退は、永遠に来ないのではないか、とも思えるが、それでも高田高校の教員になって5年目、おそらく仕事上の責任も重くなってきているだろうことを思うと、いつかは来る終わりを覚悟意識せざるを得ない。「堀孝輔」という確実に男子新体操の歴史に刻まれる選手の演技を、今年はまだ見ることができる。その幸運に感謝したい。

 

4位には、尾上達哉(清風RG)が入った。あの尾上選手が4位? と驚くむきもあるだろうが、社会人2年目の尾上選手の社会人大会は、スティック、リングでミスが目立った。しっかりまとめられたクラブでは、この種目の2位にあたる高得点もマークしているが、4種目をまとめることができず、この順位にあまんじた。

ここ数年、いつ頂点に立ってもおかしくない充実ぶりを見せてきた尾上選手だが、優勝には案外縁がない。昨年の全日本社会人大会が「全日本」と名のつく大会での初優勝だったと記憶している。それでも、尾上選手にこれだけのカリスマ性があるのは、彼が昨年、一昨年と全日本選手権の種目別決勝で見せた「鬼神のような強さ」の印象があるからだろう。昨年も一昨年も2位と個人総合での優勝には惜しくも届いていないが、種目別決勝ではここ2年、3つずつ金メダルを獲っている。まさに「決勝番長」なのだ。

果たして今年もその強さを全日本で見せてくれるのか? 期待したいと思うが、それ以上に、たとえミスは出たとしてもいつも通りの尾上選手らしい、芸術性とアグレッシブさが見事に融合したエネルギー溢れる演技で魅せてくれること、それを望みたい。

 

5位の鈴木孝之輔(CLARO Jr)は社会人1年目。学生時代から、線の美しい体操と、安定したタンブリング力をもった選手で昨年の全日本選手権では12位。社会人になってもその体操の良さは損なわれていなかった。大学時代には、年を追うごとに表現力にも磨きがかかっていた選手だが、社会人になってそこにはさらに進境が見られたように思う。昨年の田窪莉久に続いての青森大学⇒Bakutenパーソナル講師としての全日本選手権出場は、後進たちの励みにもなるに違いない。

 

以前は、社会人枠「5」は多すぎる? と言われたこともあったが、今は「5」では少ないのではないかという声も上がっている。

それだけ、社会人になっても新体操を続ける選手が増え、レベルも上がってきたということだ。堀選手ほど長く続けられる選手はそうそう出てこないだろうが、今年も社会人1年目の選手は3人も全日本まで駒を進めている。

大学や高校を卒業して社会人になったからと言って、いきなり競技を離れなくてもいいんじゃない? まだやれるんじゃない?

今の社会人選手たちは、身をもって後進たちにそう問いかけてくれる存在だ。全日本での活躍をおおいに期待したい。

<写真提供:naoko>