STOP・ザ・九州!を果たすチームはどこなのか?~2023全日本ジュニア男子団体展望

じつは1年前の全日本ジュニア前にも、「九州の男子ジュニア団体は強い!」という展望記事を書いた。

そして、結果、昨年の全日本ジュニアでの九州勢の成績は、

2位:JKA芦北ジュニア新体操クラブ(熊本県)

3位:神埼ジュニア新体操クラブ(佐賀県)

4位:水俣ジュニア新体操クラブ(熊本県)

5位:佐賀ジュニア新体操クラブ(佐賀県)

9位:三桜ジュニア新体操クラブ(宮崎県)

11位:水俣RG(熊本県)

という凄まじい強さを見せつけてくれた。

優勝こそは、井原ジュニア新体操クラブ(岡山県)に譲ったものの、「九州は強い!」ということをおおいに印象づける大会となった。

そして、この大会での好成績の結果、今年の全日本ジュニア出場枠が九州からは「7」となり、出場21チーム中7チームが九州のチームになった。今年の全日本ジュニアでも、また九州旋風が吹き荒れることになりそうだ。

今年は、宮崎県から3チームが全日本ジュニアに駒を進めたが、試技順5番のえびの新体操クラブ、試技順9番の小林中学校とも、全日本ジュニアの舞台からこのところ遠ざかっていた。九州の他のチームの進境が著しく、予選を勝ち抜くことがなかなか難しかったのだ。

宮崎県は、ジュニア育成が盛んな県だった。まだ高校始めの選手も多かった時代から、宮崎県は中学から新体操を始める選手が多く、彼らが小林工業や小林秀峰高校の強さの源だった。が、2010年あたりから、各地でジュニアクラブが多く誕生し、小学校やそれ以前から新体操を始める子ども達が増え、指導方法も様変わりしてきた。そんな中で、「中学から始めておけば高校では日本トップレベルにはなれる」という宮崎の法則が崩れてきていた。近年、小林秀峰高校が一時期ほどの成績を残せないでいるのも、その所以だと思われる。

が、そのままずるずると後退していく宮崎ではない。

折しも、2027年には宮崎県での国スポ開催が決まっている。それも、男子新体操が公式競技に復活して、だ。

ここ数年、宮崎県のジュニア指導者がぐっと若返ってきた。

それに伴い、めきめきと宮崎のジュニアチームが力をつけてきている。

試技順5番、九州勢の切り込み隊長となるのは、5年ぶりの全日本ジュニア出場のえびの新体操クラブだ。

チームの中心となる内園和志は、個人でも昨年に続いての全日本ジュニア出場を決めた力のある選手。しかし、周りも負けていない。

選手はぴったり6人。しかも3年生は1人だけだ。5人制になる来年も同じメンバーのままいけるだけに、今大会で「良い経験」を積み、来年にもつなぎたいところだ。

試技順7番の神埼ジュニア新体操クラブは、昨年3位。表彰台にはのったが、全日本ジュニアでは何回も優勝しているこのチームにとっては、決して満足のいく結果ではなかったろう。

今年は、6月の時点ですでに高い完成度を見せていた神埼ジュニアは、10月1日のかささぎ杯(全日本ジュニア九州予選)でも14.150という圧倒的な得点で優勝。「今年こそは!」の優勝を狙って登場してくる。昨年3位になったときのメンバーから2人しか抜けておらず、経験値の高いメンバーが揃っていること。神埼の代名詞であるタンブリングの強さだけでなく、しなかやかさも見せられるところが、このチームの強みだ。

 

試技順8番には、佐賀ジュニア新体操クラブと佐賀県勢が続くが、ここがじつに侮れない。昨年、全日本ジュニア初出場位して5位というとんでもない快進撃を見せた佐賀ジュニアだが、なんとそのときのメンバーが今年も不動だ。年齢の低い選手が多かったため、昨年は、中3がいないメンバーで5位をつかみとったこのチームが、果たしてどこまで成長しているのか、そら恐ろしくさえある。

試技順9番の小林中学校は、最後に全日本ジュニアに出たのは2014年と、全日本ジュニアの舞台からは遠ざかっており、今回は久々の復活だ。かささぎ杯では7位通過、得点も6.600だったが、先週行われた小林市での演技会では、とても同じチームとは思えないほどの演技を披露していた。

3年生が3人のチームだが、1年生が多く、来年3年生が抜けても5人制なら団体は継続できる。来年に繋げるためにも、今回の全日本ジュニアで多くのことを経験しておきたいところだ。

 

午後になって最初の演技者となるのは試技順11番の水俣ジュニア新体操クラブだ。昨年4位になっているチームだが、昨年のメンバーからは4人が抜けているので大きくチーム力ダウンか?というとそんなことはない。昨年11位だった水俣RGのメンバーとして全日本ジュニアを経験している選手たちを加えた今年のチームは、経験値の高さでは神埼ジュニアにも劣らない。かささぎ杯では4位だったが、その後、どこまで伸びているか。注目のチームだ。

 

試技順15番の三桜ジュニア新体操クラブは、近年、ジュニアが苦戦していた宮崎県の中で、唯一、3年連続で全日本ジュニア出場を果たしたチームだ。しかも、昨年のメンバーから1人しか抜けておらず、先日の小林市演技会でも、基礎力が高く、同調性に長けた演技を見せていた。現在、小林秀峰高校や福岡大学でも活躍する選手を数多く輩出しているクラブであり、宮崎県の新体操の新しい潮流となっている。

宮崎県の中では、選曲や振りに独自性を感じられる三桜ジュニアは、宮崎県ジュニア育成の大きな柱の1つであり、今大会でも虎視眈々と上位を狙っている。

 

九州勢のトリにして、今大会の男子団体競技のトリでもあるのが昨年2位のJKA芦北ジュニア新体操クラブだ。

このチームは、昨年2位になったメンバーからは4人が抜けている。今年のメンバーには小学生が2人入っているというから、決して選手層が厚いわけではないことは想像できる。が、その小学生2人が急伸した。1年前に見たときは、チームについていくので必死だった2人が、今年は、小学生ならではの軽やかさとしなやかさで、チームの武器となっている。さらに昨年も全日本ジュニアを経験している中学生たちは「強い」! メンバーが大きく変わったにも関わらず、かささぎ杯では13.975で2位。優勝した神埼ジュニアとも僅差だったことを見ても、このチームのポテンシャルがわかる。

男子新体操の団体競技は、来年から5人制になる。

今年が最後の「6人制団体」であり、6人制で行われる公式試合は、この全日本ジュニアが最後になる。

その「6人制のラストパフォーマンス」に、このチームのこの作品が当たったことは、新体操の神様の粋な計らいかもしれない。

そう思う。

 

出場21チームの3分の1を占める強い九州勢を止めるのは果たしてどこなのか?

最有力といえるのは、もちろん、ディフェンディングチャンピオンの井原ジュニア新体操クラブ(岡山県)だ。井原高校ともども、その「美しさ」では頭ひとつ抜けた存在と言われる井原の強さ、美しさが今年も健在ならば、九州勢にとっては高い壁になりそうだ。

 

さらには、一昨年の覇者であり、昨年は6位の国士舘ジュニアRG(東京都)も侮れない。現在、個人競技で優勝争いをしている村山颯選手を擁し、美しく、基本に忠実な体操は清廉で観る人の心をつかむ力をもっている。

クラブ選手権からの出場を果たしたAJH(愛知県)と合わせると2チームでの出場となる阿久比ジュニア新体操クラブ(愛知県)も、昨年の12位から大きくランクアップを狙っていそうだ。このチームにはなにしろ勢いがあり、いつ見ても選手たちがじつに楽しそうなことが印象的だ。「新体操を楽しめること」は最大の才能であり、最高の環境だ。この先ものびのび、楽しくどこまで伸びるのか楽しみなチームだ。

 

昨年は、13位とふるわなかった北海道新体操クラブ恵庭(北海道)だが、先日の全日本選手権での恵庭南高校の充実ぶりを見ただけに、期待せずにはいられない。もちろん、ジュニアと高校生は別だ。それはわかってはいるが、高校生が伸びや活躍は、ジュニアにも確実に刺激になる。今大会の個人競技でも北海道の選手たちは、かなり健闘しており、これも団体によい影響がありそうだ。

 

同じく全日本選手権の団体で悲願の表彰台のりを果たした大垣共立銀行OKB体操クラブ(岐阜県)のジュニア団体にも期待が膨らむ。全日本選手権でその基礎力のたしかさを証明して見せたOKBの選手たち。以前は、「タンブリングは強いが体操が粗い」と苦言を呈されることもあったが、今の選手たちはまったく違う。タンブリングの強さは健在なまま、体操や四肢に大きな欠点のない「穴のない選手」を数多く育ってきている。全日本選手権3位になったシニア団体の選手たちを見れば、ジュニアもそうなっていくだろうことが想像できる。

かつては、「ジュニアでは敵なし」だったOKB(当時はNPOぎふ新体操クラブ)。しかし、各地でジュニア育成が進んでいく中で、現在は、以前ほど圧倒的な結果を出すことは難しくなってきた。しかし、それだけに、すぐに結果は出なくても粘り強く努力し続け、着実に進歩し続ける選手が今のOKBには多いような気がする。

今回のジュニア団体も、きっとこの先そんな風に育っていく選手たちなのだと思う。おおいに期待したい。

 

さあ。いよいよ明日。

最期の6人制団体の公式試合「全日本ジュニア」を制するのはどのチームか? 注目しよう。

<写真提供:naoko>※神埼ジュニア新体操クラブ、国士舘ジュニアRG