なんてエキサイティング! これが芸術スポーツだっ!~全日本選手権女子団体総合

2023年の全日本選手権。

女子団体総合は、「トンデモナイ展開」になった。

 

1日目の「フープ×5」では、29.950をマークした国士館大学が1位。

2位には29.900の日本女子体育大学、3位が29.200で東京女子体育大学。

そして、4位にインターハイチャンピオンの日ノ本学園高校が29.000でつけ、上位4チームが29点台というハイレベルな戦いだった。

1位から4位までが0.950差の中にひきしめき、2日目次第で順位がどう変動するかまったくわからない。

そんな白熱した試合だった。

 

ところが2日目の「リボン&ボール」は、波乱につぐ波乱だった。

試技順1番の日ノ本学園の演技にミスが相次ぎ、18.450。

これはインターハイ種目ではない「リボン&ボール」だったことを思えば、致し方ない部分もあったと思う。

しかし、続く国士館大学の演技にも大きな破綻が起こる。芸術性が高く、強い印象を残す今年の国士館の「リボン&ボール」だが、ミスが出れば点数は伸びない。

国士館はまさかの19.850に終わる。

「リボン&ボール」は、ミスの出やすい種目であるが、この日はどのチームもかなり苦戦していた。

そんな中で、まず試技順7番だった昭和学院高校が、数年前のインターハイで使っていた曲「Origin」で、昭和らしく美しい演技を通し切った。細かいミスはあったかもしれないが、演技の世界観を損ねない範囲にとどめ、23.400をマーク。この時点で「リボン&ボール」では首位に立ち、総合得点でも51.700と、前日首位の国士館、4位の日ノ本学園を上回り、暫定首位。

その直後、試技順8番で東京女子体育大学が登場してきた。前日3位の東女にとっては昨年に続いての総合優勝のまたとないチャンスだった。

そして演技前半は、「これは東女がいくかも!」と思える、素晴らしい演技を見せていたのだが、中盤から落下が続き、まさかの大崩れで、得点18.650。

続く佐賀女子高校、駒場学園高校、武庫川女子大学の演技もミスが散見し、つくづく「リボン&ボール」は怖い種目だな、と感じる中で登場してきた試技順13番の東金RG。

強豪校の多い千葉県のチームで、クラブ団体選手権を1位通過して全日本選手権に駒を進めてきたチームだが、このチームの「リボン&ボール」は、それまでのチームがミスに苦しんでいたのがウソのように安定していた。安定しているだけに、細かい動きで音を拾い、表現できるほどの余裕があり、じつに心地よく見ることができた。

得点は24.250で、この種目のトップに躍り出た。さらに、前日との総合得点でも51.050と、昭和学院に次いで2位につけたのだ。

以前は、インターハイ種目ではないアンサンブルは、大学生の独壇場で高校生のチームは苦戦する傾向にあった。

が、今年の全日本選手権に関しては、昭和学院といい、この東金RGといい、高校生が強かった。とくに東金RGのこの種目での強さは、「インターハイ」にとらわれない時間軸で練習してきたものの強さだったようにも思う。そこには、全日本選手権への道が、インターハイ、インカレだけでなくクラブ団体選手権もある、ということの意義が感じられた。

今大会には東金RGだけでなく、千葉県からはインタークオレス、SHOIN RG(八千代松陰高校の選手たちによるチーム)が出場していた。強豪ひしめく千葉県からも、インターハイに出場できるのは1校のみ。それも、ほぼ毎年、昭和学院が出場しているとなると、なかなか他の高校生たちには全日本選手権出場のチャンスはないはずだが、クラブ団体選手権があることで、こうして多くの千葉県のチームが全日本選手権の舞台を踏めている。クラブ団体選手権は、今年で23回目だったが、その役割は大きなものになってきている。

団体総合での高校生のワンツーフィニッシュになるか?

という局面で、最後の演技者となる日本女子体育大学が登場。前日2位の日女だが、国士館、東女と大学生チームが「リボン&ボール」で優勝争いから脱落していく中、緊張感のある演技スタートとなった。

昨年の大河ドラマ「鎌倉殿の12人」のテーマ曲を使った壮大で華麗な今年の作品は、非常に難易度も高く、今回の演技でも、いくらか危ない箇所はあった。が、ミスをなんとか最小限に食い止めるしぶとさ、粘り強さを日女は見せ、大きな破綻はないまま演技を終えた。

得点21.800は、この種目では4位。前日との合計で昭和学院と並び同点優勝となった。

 

団体総合の順位は、優勝が日本女子体育大学と昭和学院。3位に東金RG。

昭和学院は、全日本選手権団体総合優勝は初。高校生チームの表彰台乗りは近年は珍しくないが、優勝となると手元で確認できる平成10年以降ではない。

「フープ×5」を終えた時点では、昨年に続き国士館、日女、東女の三つ巴か? と思われた今大会だが、2日目に大波乱が待っていた。

近年は、高校生の進境が著しく、あまり練習時間がとれていないはずのアンサンブル種目も高いレベルで仕上げてくるチームが増えてはいたが、今年もまたアンサンブル種目をまとめたチームが総合で勝ち、今年はそれが高校生チームだった。

「全日本選手権出場」だけで満足せず、そこで2種目とも自分たちの演技をやりきることを目指し、研鑽を重ね、本番で力を出し切った結果だろうと思う。

高校生おそるべし、そして、千葉県おそるべし。そう印象づけた大会だった。

 

もちろん、国士館も東女も、崩れなければ優勝できるだけの力はあるチームだった。

それだけに、本番でよい1本が出せなかったことが残念でならない。せめて種目別でリベンジを! と思ったが、「リボン&ボール」では国士館は9位、東女は11位に沈んでおり、種目別決勝で演技することができないのだ。

改めて見てみると、今大会、種目別決勝に2種目とも進出できたのは 昭和学院、日女、東金RG、日本体育大学(団体総合4位は過去最高順位ではないか?)、金蘭会高校(どちらの種目も7位! さすがだ)の5チームのみ。(国士館、東女、日ノ本学園は「フープ×5」のみ、名古屋女子大学高校、武庫川女子大学、仙台大学は「リボン&ボール」のみで決勝進出となる)

2種目そろえることの難しさを感じさせる結果となった。

 

ただ、こうしてミスが出たときには、しっかり点数が下がり、順位も変動し、番狂わせも起きるということは、スポーツとしてはかなり健全だと感じる。

だからこそ、悔しい思いをしているチーム、選手も多いと思うが、だからこそ、みんな強くなれるのだ。

10数年前までは東女ひとり勝ちだった日本の新体操団体は、こんなにもエキサイティングなスポーツに進化したんだ!

3日目の種目別決勝でも、それぞれのチームがそれぞれの持ち味を生かした演技を見せてくれることを期待したい。

※結果は、日本体操協会公式サイトで。⇒ https://www.jpn-gym.or.jp/rhythmic/event/34999/