「手負いの青大」はやっぱり強い!~2023全日本インカレ男子団体

今年の全日本インカレの男子団体優勝は青森大学だった。

じつにインカレ22連覇。

現在の大学4年生が生まれた年から始まった連覇は今年も途切れることがなかった。

いわば、青大が全日本インカレで勝つことには驚きはない。「やっぱり、ね」と多くの人が思うだろう。

だが、今回の優勝はいつも通りというわけではなかった。

5月に行われた東日本インカレで、青森大学は国士舘大学に負けた。

おそらく東日本インカレで勝てなかったことは、青大史上初ではないか。

それだけにこの黒星は衝撃的だった。

たしかに、昨年までの青大団体の強さは尋常ではなかった。高校時代から世代トップの力をもっていた選手たち(松本健太、田口将、野口勇人)が抜けた今年のチームは、前年と比べると力が落ちると言われていた。

とは言え、全国から有力選手が集まってくる青森大学のことだ。決して弱いわけではない。ただ、昨年があまりにも強かったために、「落ちた」と言われてしまう。そして、東日本インカレでは、そんな重圧に潰されたかのごとく、青大らしからぬミスも散見する演技で、敗北を喫したのだ。

東日本インカレ後には、「青大のインカレ連覇に黄色信号!」と多くの人が思っただろう。

そして、誰よりも選手達自身が「このままではまずい」という危機感をおおいにもったに違いない。

 

ただ、一方で、長く男子新体操を見てきている人達は、こうも思っていたはずだ。

負けた後の青大は強い。

全日本インカレでは見違えるような姿を見せてくれるに違いない。

果たして、全日本インカレでの青森大学は、そんな期待に見事に応えてくれた。

「今年の青大は弱い」なんて誰にも言わせない!

そんな彼らの思いが爆発するような、力強く、正確で、美しい。

青森大学の真骨頂とも言える演技で、18.625。

2位の国士舘大学に0.625の差をつけるぶっちぎりの高得点で22連覇を飾ったのだ。

青森大学の全日本インカレ初出場は2002年。この年いきなり優勝し、そこから今年までインカレでは連覇が続いているが、2002年の全日本選手権では青森大学は3位だった。

全日本インカレでは、22年間負け知らずの青森大学だが、全日本選手権では4回負けている。

それが、この2002年と2008年、2013年、2020年だ。

全日本選手権初出場だった2002年を除くと、2008年はすでに全日本インカレ6連覇、全日本選手権でも5連覇を成し遂げ、向かうところ敵なしになりつつあったが、国士舘大学に敗れた。

2013年は、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだった花園大学が青森大学に一矢を報い、2020年は、再び国士舘大学が青森大学を凌駕した。

負けた年は、青森大学にもミスが出ているが、「青大が負けた!」という事実は、衝撃的であり、その年の最後を締めくくる大会である全日本選手権での敗戦によって、翌年以降の青森大学の強さに翳りが出るのでは? と案じるむきもあった。

ところが。

負けた翌年の青森大学は、本当に憎らしいほど強かった。

2009年の全日本選手権では、伝説にもなっている「BLUE」を演じ、その動画が世界中に拡散され、シルク・ドゥ・ソレイユに採用されるきっかけとなった。

2014年以降の青森大は、それまでの「重厚感のある徒手の美しさ」「完璧なまでの同調性」に加え、お家芸だった組み技「ブランコ」を年々進化させていくアクロバティックな見せ場をこれでもか! と入れ込んだ破壊力のある構成で、他のチームを寄せつけなくなった。

2020年は、現在、青森大学で指揮を執る斉藤剛大監督の初年度だった。

全日本選手権でのいきなりの黒星は、斉藤監督にとっても重かったのではないかと思うが、ある意味、そこでスイッチが切り替わったようにも思う。2021年からの青森大学は、じつに緻密で正確な演技を高いレベルで完遂し、「男子新体操のお手本」のような演技をするようになった。

もちろん、タンブリングなどの強さは健在なまま、より正確さを上げていったのだ。

隊形移動の多さ、移動距離の長さなどは青森大学の特徴だが、2021年以降、その隊形移動の狂いのなさはいちだんと磨き上げられてきた。

以前、青森大学の取材に行ったとき、斉藤監督は団体の指導中に「もったいなかった」という言葉を多く発することに気がついた。

分習のあとに、選手たちから意見を求められたとき、斉藤監督は、まずよかったところを挙げる。そして、その後に「あそこがもったいなかった」と改善すべき点を指摘するのだ。

そうして、ひとつひとつ、自分たちの演技の穴を埋め、歪みを直し、整えに整えたものを本番で出す。

今年の東日本インカレでは、そこまで仕上げる時間がなかったのか、と今となっては思う。

その綻びが本番で出てしまえば、負けることもあると身をもって知った選手たちが、その後の3か月間どれほどの練習を積んできたのかは、想像に難くないし、その成果は今回のインカレで存分に発揮された。

少々メンバーが入れ替わったくらいでは揺るがない青森大学の強さは、今年もやはり健在だった。

そして、「負けた後の青大は強い!」を今回も体現して見せた。

 

斉藤監督は、青森大学の強さは、「本気で日本一を目指して、新体操に懸ける気持ちの強い選手たちが集まってきていること」に起因していると言う。そんな選手たちだから、なんとかして日本一にしてやりたい! そんな選手たちに新体操を教え、ともに過ごせることが幸せだと言った。

監督4年目。

斉藤監督にとっても、今年のインカレでの勝利は格別なものになったに違いない。

<写真提供:青森大学新体操部/naoko>