北の地に、九州旋風は吹くか?~2023インターハイ男子団体展望②
試技順9番で登場するのが小林秀峰(宮崎県)だ。
九州は4校中3校が午前中で出番が終わってしまう。
じつは、この春から夏にかけて一番頻繁に練習を見に行ったのが、小林秀峰なのだ。
車で1時間以内という地の利もあるが、とにかくこのチームは今が伸び盛り。見るたび伸びていくので短い間隔で見たくなるのだ。
「男子新体操の強豪校」と言われることが多い小林秀峰だが、近年は苦戦していることは現在の監督である日高祐樹もよくわかっている。
かつては、ジュニアからの育成が全国の中でもトップクラスだった宮崎県だが、他県でも多くのジュニアクラブが誕生し強化が進んできた昨今、宮崎のジュニア達にとっては、全日本ジュニア出場のハードルはかなり高くなっている。
現在の小林秀峰の選手たちは、全日本ジュニアには届かなかったり、出場はしても上位との差を思い知らされるという経験をしてきた。
それだけに、以前の秀峰の選手のような「自信」と「プライド」はない。
ただ、その代わり「ひたむきさ」はある。それはおそらく全国一かもしれない、と思うレベルだ。
彼らのひたむきさに、日高監督は彼の高い経験値を生かして、なんとか応えようと心を砕いている。
その結果、ジュニア時代は日本トップレベルだった神埼ジュニア、芦北ジュニアの選手たちで構成されている神埼清明や芦北との差をじわりじわりと詰めていっているのが今の小林秀峰だ。
少しでも上へ!
もちろん、そういう気持ちはある。
が、順位や点数とは別に、今年の演技で彼らが見せようとしているものがある。
それは、「6人制男子新体操への惜別」だ。
今年は、6人制で行われる最後のインターハイだ。来年以降は、男子団体は5人となる。
この変更にはさまざまな事情もあり、メリットが多いと判断されたために決まった。
団体が6人制のため、「メンバー不足で団体が組めない」という地区も多いため、普及という面では5人制になることのメリットは大きいと思う。
6人ではないとできない、と思われていることの多くも、創意工夫でクリアしていけることも多いと思う。
しかし、大がかりな組み技だけは、5人ではできないものが多いと思う。
一時期、小林のトレードマークだった「3段タワー」などはそのさいたるものだ。
現在の男子新体操では、以前ほど組み技は重視されておらず、時間をかけ動きを止めて高い組をすれば減点にもなりかねないので、組み技に力を注ぐチームは減ってきた。小林秀峰でさえ近年はそれほど大がかりな組みはやっていなかった。
が、しかし。
今年の秀峰は、やる。
すでに九州大会で披露しているが、今年の小林秀峰は、演技終盤に3段タワーを入れてくる。
それも、ほぼ動きを止めることなく、まさに「完成形」という3段タワーを見せるのだ。
これが成功したからといって得点が爆上がりするわけでもない。優勝できるわけでもない。
それでも、6人制最後の年に、これをやりたかった彼らの気持ちがズシンと伝わってくる、そんな組みだ。
小林秀峰の出番は、11:46~11:58の間だ。
1日中、配信を見るのは無理という人も、この時間だけでもぜひ見てほしいと思う。
これを見ておけば、男子団体は5人、が当たり前になった頃に、「6人の頃は凄い組み技もあったのよ」と語れるから。
高い組みの経験はあまりないだろう、今の高校生にこれを教えるのは大変ではなかったかと思ったが、日高監督は「思ったよりも短期間でできました」と言う。現在、小林秀峰は日高監督の他、北ノ園俊二氏(小林工業⇒青森大学⇒三桜電気工業)もコーチとして指導に関わっており、彼らは小林が初めて3段タワーを披露した2006年のメンバーだったのだ。
それまで誰もやったことがなかった「3段タワー」を完成させるためにはかなりの時間と試行錯誤を要したというが、その当事者だった2人の経験値は後輩に3段タワーを引き継ぐ際におおいに生きたわけだ。
今年、小林秀峰が見せる「3段タワー」は、今回フロアで演技する選手たちだけでなく、脈々と続いてきた小林の男子新体操の歴史の結実のようにも見えてくる。
ぜひ見逃さないでほしい。
※インターハイの配信は、こちら。
https://inhightv.sportsbull.jp/competition?id=2
※清水琢巳さんによる観戦ライブはこちら。