北の地に、九州旋風は吹くか?~2023インターハイ男子団体展望③
九州勢で唯一、午後に出番が回ってくるのが鹿児島実業(鹿児島県)だ。
終盤のそれも、井原高校の後、地元・恵庭南高校の前という盛り上がり必至の試技順。
ここに鹿実のコミカル演技がはさまればどんなに盛り上がるだろう、と思うが、今年の鹿実は昨年からの真面目路線を継続中だ。
昨年の鹿実は、マジメ演技で団体選手権優勝、インターハイ3位という結果を残した。
コミカル演技を封印した最大の理由を、樋口監督は「コロナ禍」と答えていた。
それまでは、インターハイという大舞台で、コミカル演技を披露し多くの感性や拍手、笑い声に包まれることが選手たちのモチベーションになり、大きな自信を得られていた、が、2020年のインターハイ中止、2021年は無観客開催と「観客に見せる」ことができない中で、コミカル演技を続けることの意味が失われていったというのだ。
そこに、昨年、一昨年のメンバーが非常に強かったという条件も重なった。
一気に強豪校の仲間入りをした昨年のメンバーが強かったことは明白だが、じつはその前の年(コナンの年)もかなり強かったのだ。
それなのに、「こな~~~ゆき~~~」をやっていたわけで。
コロナ禍で、各チームが戦力を落としている中、まじめにやれば上位もいける、という力をもった鹿実がガチ勝負を決意する流れはできあがっていたのだ。
しかし。
その強力メンバー4人が抜けた今年、果たして鹿実はどうするのか?
と思っていたが、県大会、団体選手権、九州大会では引き続きマジメ演技だった。
インターハイでも変える予定はない。
なぜなのか?
今の選手たちにも十分力があるからだ。
(いや、もちろん、様々な逡巡の結果の選択ではあると思うが)
強かった代が抜けたら、マジメ演技ではどうしようもない、という選手しか残っていなければ、あるいは
コミカル演技復活! の目もあったかもしれない。
が、今の鹿実の選手たちは、強かった昨年、一昨年の選手たちと一緒に同じトレーニングを積んできている。
新体操を始めたのは高校からという選手もいるが、この1~2年でしっかりと力をつけてきているのだ。
以前、鹿実が急速に力をつけてきたのはなぜか?
と樋口監督に聞いたことがある。そのときの答えは、「コロナ禍がいいほうに働いた」だった。
鹿実も当然、コロナ禍で十分な練習ができない苦しい時期もあった。が、それ以上に、それまでは頻繁にあった演技会などのオファーがほとんどなくなり、落ち着いて練習を積める時間がぐっと増えたというのだ。
もともと、近年の鹿実の練習は、「上位校レベル」のハードさだった。基礎トレーニングの多さ、厳しさは過去に見てきた多くの強豪校にひけをとらないものだった。そうして鹿実は確実に「コミカルだけじゃない」チームを作り上げてきたのだ。
そこには長い時間がかかっている。
その長きにわたる研鑽が結実したのが、昨年のマジメ演技での好成績だった。
今年の選手たちもまた。
ある意味、昨年の良さを受け継いでいる。
タンブリングの難度などはやや落としてはいるが、合わせ方のうまさ、まとめ方などは本当にうまい。
チームとして、減点の少ない完成度の高い演技を見せてくれる。
インターハイ出発前日(台風のため出発が1日早まったため結果的に前日になった)、練習を見てきたが、そのとき驚いたのが補欠に入っている3年生2人のレベルの高さだった。2人だけでの分習や通しを何回も見たが、これで補欠? というレベルだった。
つまり鹿児島実業の選手たちは今、それだけ層が厚いのだ。
長年、コミカル演技で話題をさらってきた。
県の観光キャンペーンに起用されるほどの人気も得た。
しかし、鹿実が、樋口監督が本当に目指していたのはこれなんだな、と思った。
力のある選手でも補欠に回さざるを得ないくらいの部員数。
それだけ多くの人たちに「男子新体操をやってもらうこと」「続けてもらうこと」
「頑張ろうと思える環境をつくること」「頑張れるモチベーションを与え続けること」
あのコミカル演技もすべてそこに続いていたんだ。
今年の鹿実の演技は、面白くはない。笑うところもない。
でも、美しいと思う。
強かった先輩が4人も抜けて、それでもここまでのチームに育ってきた。
選手たちの頑張りと監督の粘り強さを思うとが胸がいっぱいになる、そんな演技だと思う。
※インターハイの配信は、こちら。
https://inhightv.sportsbull.jp/competition?id=2
※清水琢巳さんによる観戦ライブはこちら。