北の地に、九州旋風は吹くか?~2023インターハイ男子団体展望①

新体操の神様の悪戯なのか、北海道の神様の意地悪なのか。

今年のインターハイ、男子団体の試技順は、九州勢にとっては「まさか?」だった。

九州ブロック大会チャンピオン・神埼清明(佐賀県)が試技順1番。

高校選抜は3連覇中の神埼清明だが、じつはインターハイ優勝は2018年が最後だ。

名将・中山智浩監督も今年、定年退職を迎え、現在も新体操部の指導にはあたっているが、今年が中山監督にとっては「最後のインターハイ」になる可能性も高い。また、今の高校3年生は、中3のときの全日本ジュニアがコロナ禍で中止になっている世代で、戦わずして3連覇を阻まれた神埼ジュニアの選手たちだ。

「今年のインターハイこそは絶対に優勝を!」という思いは、強かったはずだ。

その思いは、6月に見た神埼演技会での演技からも痛いほど伝わってきた。

「神が宿る」レベルの神埼のタンブリングはもちろん健在なうえに、今年の神埼の演技からは「神は細部に宿る」という言葉が浮かんできた。

動きの軌道など細かい部分での合わせ方、見せ方に例年以上のものがあると感じたのだ。

もともと強いチームが本気で「もっと上」を目指したときにのみ到達できる域を今年の神埼清明は見せてくれそうな予感がした。

それができれば「インターハイ優勝」はぐっと現実味を帯びてくると。

しかし、まさかの試技順1番。これは不運、ではあると思う。

が、今の神埼清明なら、この不運も幸運に変える力を持っているんじゃないかと思う。

「誰も追いつけない演技」を朝一でぶちかます! 

スーパー先行逃げ切りも、今年の神埼にならきっとできる。

 

5月の男子団体選手権で初優勝。九州ブロック大会2位の芦北高校(熊本県)は、神埼清明に続いて試技順2番で登場する。

九州のワンツーがはじめから出てしまうという今年の試技順。多くの人に早起きを強いている(笑)。

今年の芦北の強さは、5月の団体選手権ですでに多くの人に伝わっていると思うが、インターハイ出発直前に練習を見た正直な感想は、

「5月とは別人(別チーム)」だ。

たしかに、春先から演技はまとまってきていたし、タンブリングも徒手もジュニア時代から鍛え抜かれていた選手たちなので地力は高かった。

他のチームの仕上がりもまだまだな団体選手権でなら優勝も納得、な程度の力があったことは間違いない。

ただ、あの時点では、インターハイ優勝、とくに九州ではまず高い壁である神埼清明に勝つことは、

まだ難しいかな、という印象はあった。

それが。

わずか3か月足らずで化けたなと感じたのだ。

ひとつ大きな変化は、曲の変更だ。九州大会まで使っていた曲も力強く迫力があり、今の芦北にはよく似合っていると思っていたが、インターハイに向けて曲調を大きく変えてきた。これが功を奏していると感じた。

芦北の選手たちは身長も高く、とにかくスケール感のある演技をする。それは誰しも認めるところだが、春先まではその美しさが今ひとつ見えにくかった。インターハイに行けば、「美しい新体操」の代名詞のような井原高校とも戦わなければならない。それを思うと、芦北もより美しさに磨きをかけ、かつそれが伝わる工夫をする必要があった。

曲変更は、それを見事に叶えていると思った。

芦北はタンブリングの強いチームだが、そのタンブリングは速い、強いだけでなく、美しい。

脚割れが少なく、空中姿勢もまっすぐで、かかえ込み姿勢でも脚が割れずきゅっと小さくまとまる。

タンブリングの強いチームは少なくないが、この美しさは、かなり卓越していると思う。

春先にはまだぱらつきがちだった振りも、見事にまとまっていた。これは強い。そして美しい。

そして、一番いいなと感じたのは、チームの持つ明るさだ。

団体選手権優勝もあり、自信はついていると思う。「優勝を」という野心もあるだろう。

が、その度合いが程よいのだ。「負けられない」というプレッシャーになるちょっと手前。

純粋に自分たちがどこまでいけるかな、と自分自身に期待している、そんな空気がある。

2011年、井原高校がインターハイで優勝したあの年の井原はこんな雰囲気だった。

この空気を作っているのは、今年から芦北高校の監督になった清本大介氏に負うところも大きいと思う。

かつては常勝時代の水俣高校を率いたこともある、部員不足に悩み初心者しかいない状態の水俣高校でも監督を務めたこともある。

指導の現場からは離れ、審判部として全国レベルの大会の審判も数多く務めてきた。

そんな経験を積んできた清本監督は、「以前の指導はどちらかというと調教。」と自戒を含めて言う。

時代も変わり、今ではそれではいけないということを痛感している清本監督はこうも言った。「今の時代は、選手が主体。勝ちたいという気持ちも選手がもってこそ。指導者はその伴走者なんだなと思う。」

この監督のもとに、ジュニア時代から多くの経験を積んできた力のある選手たちが集ったとき、「熊本県の男子新体操」が真の復活を遂げるかもしれない。たとえ試技順2番でも、そんな期待は膨らんでくる。

 

とにかく今日のインターハイ団体競技は、10時の競技開始から見てほしい!

それだけは伝えておく。

※インターハイの配信は、こちら。

https://inhightv.sportsbull.jp/competition?id=2

※清水琢巳さんによる観戦ライブはこちら。

https://www.youtube.com/@ImrginternationalizeMRG