2013全日本新体操選手権大会/紫野高校団体

大会二日目
その団体予選の練習フロアで異質な空気を放つチームがあった。京都府 紫野高校である。


紫野高校を率いるのは木学健監督。彼は同校のOBであり数年前まではこの全日本選手権に出場していた。保持タイトルも素晴らしいが それよりも、長年出場しつづけていた事の方が印象深い、パワフルで重厚かつ切れ味抜群の動きが特徴の名物選手。


木学にかぎらず紫野高校OBには、個人の名選手が多い。
・朝野健ニ(国士舘大学) ⇒1995年~1997年まで全日本選手権 個人総合優勝 3連覇
・杉本清志(花園大学) ⇒2001年 2004年 全日本選手権 個人総合優勝
・木学健(福岡大学) ⇒紫野高校監督
・坂本匡(花園大学) ⇒NPO法人ぎふ新体操クラブ
・林 ゆうき(東洋大学) ⇒伴奏曲制作
・北村将嗣(花園大学) ⇒2007年 2010年 2011年 全日本選手権 個人総合優勝
・廣庭捷平(福岡大学) ⇒2013年社会人大会優勝


しかし、これらの輝かしい成績も全て個人の成績で、実は団体成績は特筆できるものが一つも無い。紫野高校出身者本人たちも「個人は才能ある選手がいたけど団体はからっきしダメ!」と笑って言うほどであった。


そんな紫野高校が今回は団体で出場している。


思えばOBである木学が赴任した数年前から団体は着実にテコ入れが進められていた。


今回 団体で使用した曲は、「MAN WITH A MISSION」というアーティストの “Emotions”



このMAN WITH A MISSINONというアーティスト、メンバー全員が体は人間で首より上が狼という一風変わった風貌のバンドである。


そう、紫野高校はいつだって個人の「一匹狼」ばかりのチームだった。


個人の演技が得意な選手は得てして団体が苦手である。
自分一人の演技ばかり練習しているので他と同調する必要がない。
むしろ他の選手とは変わった動きを目指す個人選手は、団体演技の「同時性」「協調性」に矛盾する。 


6名の一匹狼が群れを成した時 一体何が起こるのか?その集大成とも言えるのが今回の全日本での演技。


これから挑む団体予選で決勝に残るための演技、決勝に少しでも有利な状態で進むための演技をするため どのチームも表情は固い。その空気の中にあって紫野高校はとにかく笑顔が目立つ。


ただただ、この全日本選手権に出場出来た事、この代々木体育館で他の強豪チームと肩を並べて演技出来る事が嬉しくて嬉しくて仕方ないように見えた。


紫野高校の練習が始まると、6人の選手が緑の練習フロアに放たれると同時にまるでじゃれあうようにフロアを駆け巡る。


選手の何人かがインターハイのルールでは禁止技に指定されている2回宙返りに挑戦していた。


挑戦である。


土壇場に来て なお 調整ではなく挑戦といった言葉がふさわしい状態であった。


お世辞にも安定している技には見えなかった。


ある時は回転が足りずに前のめりに着地し、ある時は回転しすぎで後方へ流れ場外へ。


安定しない高難度の技の練習は見ていてヒヤヒヤするものだが、不思議と安心して見ていられたのは監督も選手も笑顔だったからである。


例えば、サッカーのPKの場面での監督から選手に対する「絶対に外すな!」という指示と「決めてみろ!」という指示では、同じ「一点を取る」という意味でも選手への伝わり方が違う。


選手のメンタル特性にもよるが前者の指示は多くの選手にとってプレッシャーになりやすいが、紫野高校は練習全体が後者の空気であふれていた。

全員の動きや表情から「必ずやってやる!」という意気込みが演技によって具現化されて行く様が伝わってくる。


個人の名選手を多数輩出しながら団体でも結果を出すチームの例として、本大会にも出場している井原高校が代表としてあげられる。
元々バラバラである個人の能力を精巧に考えつくされた構成の力によって一挙手一投足の限界まで引き出し演技に反映させるのが井原高校 長田監督の名将たる所以だが、これに近いものを今回 紫野高校の演技からも感じられた。


見ていると5人の選手の動きとは別に1人の選手が動いているが最終的には6人の動きが揃うといった構成が随所に見て取れる演技で、
例えば演技冒頭一人がブレイクダンスのトーマス旋回からの最終的に全員が揃ってのバランスへの動き。このトーマス旋回、新体操選手の身体能力であればそれほど難しい技ではないが背中や首で回るので最終的なポジショニングが難しい。そもそも旋回後のポジショニングなんて想定されていない技だが、旋回を終えた選手は、最終的に他5人と完璧なタイミングとポジショニングで次のバランスに移っている。


ロンダートには箸やバットのスイングのように「きき」がある。これも今回のチームではかなりバラつきがあるが、タンブリングの構成によって違和感を消していた。
試技順は17チーム出場の中の最後。
本番での演技は、それぞれが持てる全ての技量を、監督である木学の構成の中で余すこと無く出し切る会心の出来で終えた。


順位など彼等の満足気な表情の前には意味を持たない。


彼等はこれから この大会で得た経験を栄養にしばしの冬ごもりに入る。
今年の成長を来年の成長の糧として来年さらに大きくなって帰ってくるであろう。
演技後 フロアを降り、整列して客席を見上げる選手たちが高らかに吠える。
「したッ!」(※ありがとうございましたの意)


彼等の達成感に満ちた咆哮が館内に響いて消えた。

TEXT  &  PHOTO by 二見 準