インターハイ直前情報④ 熊本県立水俣高校

インターハイ直前情報④ 熊本県立水俣高校

 

「高校の部活」に求められるのは、勝つことだけではない。

いや、それは高校に限ったことではない。

 

スポーツに打ち込む以上、もちろん勝つことや向上することを

目指すのは当然にしても、それが成し遂げられなければ無意味かと

言えば、決してそんなことはない。

私は、スポーツの価値は「置かれた状況なりに

どれだけ頑張れるか」にあると思っている。

 

勝ち目はなさそうな試合でも、最善をつくすこと。

絶対に無理だと思っていても、投げ出さないこと。

 

そういうことには、ときに勝つこと以上の価値がある。

水俣高校は、昨年、2年ぶりに団体を組むことができた。

インターハイにも出場できた。4人編成ではあったが、

選抜大会にも出場した。

 

この1年間、彼らは着実に成長していたし、チームのまとまりも

出てきていた。しかし、今、3人の新入部員をかかえ、

チームは再び、ふりだしに戻ったように見える。

4人編成とはいえ、1年以上一緒に練習してきた仲間で組んでいた

選抜大会のチームに比べると、足並みの乱れがあることは否めない。

すでにインターハイも選抜も経験している2、3年生の3人と

おそらくまだ「わけがわかってない無我夢中の1年生」の3人には

意識も技術も大きな隔たりがある。

そのことが、チームにとっては大きな課題になっており、

指導者も上級生も、そして1年生もそれぞれに苦しい思いをしている

んじゃないかと感じた。

 

今の水俣高校は、常に一定レベルの選手が集まり、常に上を目指せるチームではない。

そのときどきの状況なりに、少しでも前進するしかない。

ゴールがどんなに遠くに見えても。

こうしてメンバーが代わるたびに、「三歩進んで二歩下がる」

を繰り返しながら、少しずつ地力を上げていくしかない。

それは、あまりにも地道な作業だ。

しかし、このチームを見ていると、それも彼らにならきっとできる

と思えてくる。

なぜなら、清本監督の信念がぶれないからだ。

そして、それに選手たちが必死についていっているからだ。

 

高校始めだろうが、なんだろうが、清本監督の指導は厳しい。

怒鳴ったりするわけではない。むしろ言葉は静かで口数も多くないが、

おそらく選手の心にはずうんと響きそうな厳しさがある。

 

厳しいけれど、その指導は、間違いなく選手たちを成長させる。

技術や成績という形ですぐには表れないかもしれないが、

必ずいつかは実を結ぶ。

現に、1年前は、やや頼りない印象だった2年生が、しっかり

キャプテンを務めるまでになっていた。まだわけがわかって

おらず、少し気楽そうに見えていた1年生は、誰よりも大きな声を

出し、下級生にもアドバイスをしてチームを引っ張る存在になっていた。

1年前の彼らなら、初心者もいる1年生と同じチームで、こんな風に

頑張れただろうか? と思うほどに、上級生たちはひたすらに、

ひたむきに頑張っていた。技術もたしかに向上していたし、

チームにおける役割を果たそうという意思がしっかり見えた。

 

そんな彼らの成長があるから、チーム事情が苦しくなっても

練習の雰囲気は悪くない。だから、1年生も必死についていくのだろう。

道は険しいかもしれないが、それでも愚痴もこぼさず黙々と、

一歩一歩、前進していくこのチームの軌跡をずっと見ていたいと思う。

 

私が、新体操を好きで応援し続けているのは、こういうチームを

見ていたいからなのだ。それはもちろん、水俣高校に限らない。

こんな風に、困難に立ち向かい、道を切り拓こうとする姿が見たいからなのだ。

その道の先にあるものが、喝采や脚光ではなくても。

それでも懸命に進んでいく姿を見ていたくて、私はずっと

新体操を見続けているのだ。

 

PHOTO &TEXT  by Keiko SHIINA