「登り坂の途中」~2023小林秀峰高校

長い期間新体操を見続けていても飽きないのは、そのときその場で演じられている演技だけでなく、そこに至るまでのそれぞれのチームや選手が辿ってきた道のりが透けて見えるからだと思う。

同じチーム、選手でも、時が流れれば同じではない。

その変化を時には残酷に感じることもあるが、その変化にこそドラマがあり、心が動く。

小林秀峰高校は、宮崎県の公立高校だが、男子新体操では強豪校、そして古豪と言ってもいい歴史がある。

小林市という小さな町だが、そこには「男子新体操」が根付いており、全国的に見ても早くから中学から新体操を始める選手が多かった地区で、全日本ジュニアに地元の公立中学校名で出場していた。それも複数チームだったこともある。

まだ高校始めの選手も多かった時代に、中学生のころから全日本ジュニアまで経験している選手たちが数多く集まってくる小林秀峰高校(当時は小林工業高校)が強いのは必然だった。

そんな小林秀峰だが、インターハイでの優勝からは2008年以来遠ざかっていた。

常に優勝争いには絡んでいたものの、他の地区でもジュニアからの育成が進み、以前ほど圧倒的なアドバンテージがなくなってきた小林秀峰は、なかなか優勝にはたどりつけなくなった。かつては強い小林の代名詞だった「高い組み技」が評価されにくくなったという逆風もあった。

そこに来て、「コロナ禍」が追い打ちをかけた。

インターハイが中止になった2020年の小林秀峰は、3年生に強い選手が多く、久しぶりに「優勝も狙える」と感じるチームだった。

が、その年のインターハイは中止。一方で、九州のジュニアチームの台頭は著しく、宮崎県のジュニアクラブや中学が全日本ジュニアに勝ち上がることが難しくなってきていた。そのため、経験値の高いジュニア選手が減り、常に日本トップレベルの部員数を誇っていた小林秀峰も部員減に苦しむようになってきた。

最盛期には4チーム組めるほどの部員がいた。その中で競争があり、切磋琢磨し、もともとジュニアから経験を積んできている選手たちがますます強くなる。それが小林秀峰の強さだった。

ほかのチームでなら当然レギュラーになれるだろう力のある選手が控えに回り、レギュラーをフロアの外から叱咤激励する。

通し練習を見ると、誰がレギュラーかわからないくらい、演技面に入り込んできて控え選手が大きな声を出す。

そんなチームの一体感が小林秀峰の強さを支えていた。

しかし、現在の3年生は、部員がわずか1名。

この学年の人数の少なさが響き、ここ数年は部員が少なかった。

そして、それに伴い成績も伸び悩んでいた。

長らく神埼清明と並ぶ「九州の双璧」と言われてきたが、昨年はついに、「本気演技」できた鹿児島実業高校の後塵を拝した。

が、その「鹿実に負けた」昨年あたりから復活の兆しは感じられていた。

本番でミスが出てしまうこともあり、思うような結果には結びつかないまでも、「変わった」と感じさせる演技を、体操を彼らは見せるようになってきていた。

何が「変わった」のか。

おそらく。小林秀峰は、入ってくる部員たちが「ある程度できる(ジュニアでの経験がある)」と捉えなくなったのだと思う。

今でも、ほとんどの部員はジュニア上がりではある。

当然、バク転も鹿倒立もできる状態で入部してくる。

が、それは「できる子たちが入ってきた」のではない、「小林秀峰の新体操」を一から教える! そんな指導がされているように感じた。

小林秀峰の練習場の壁には、「基本徒手」の写真がポイントつきで掲示されている。

以前の秀峰なら、これは「ジュニアで習得してきているはず」とされてきていたものだ。

選手たちも「こんなことはわかっている」と思っていたのではないかと思う。

そこを覆し、「一から鍛え直す」ことを徹底してきたのは、現監督の日高祐樹だ。

2008年にインターハイ優勝したときの主将であり、青森大学に進学してからも4年間負けなし。

そんな輝かしい実績を持った「勝ち方を知っている」日高は、「本当の強さ」を誰よりも知っている。

多くの栄光を手にしてきた日高だが、その指導ぶりは驚くほど生徒の気持ちに寄り添っている。

もちろん、厳しさもあるが、「できない子どもをできるようにする」ための工夫をすることができ、成長を共に喜ぶことができる。

そんな日高のもつ熱は、確実に選手たちに伝わっている。

それは見るたびに見違えるようになっていく彼らの体操から、目の色からわかる。

今の小林秀峰は、まだかつてのような強豪とは言えない。

今日は、大分で行われる国体予選に出場する。芦北高校(熊本県)と本国体出場を懸けての戦いとなるが、彼らの立場は挑戦者だ。

(開催県の鹿児島、次年度開催県の佐賀はすでに本国体出場が内定している)

今年の全日本男子団体選手権で優勝し、すでに全日本選手権出場が決まっている芦北高校は、楽に勝てる相手ではないことは彼らも十分わかっていると思う。

それでも、「勝ちたい」と思える気持ちは育ってきているように、彼らの練習ぶりを見ていて感じた。

今、現れる結果がどうであれ、まだ先はある。インターハイまでも時間はある。

彼らの練習ぶりからは、まだまだ成長を止めるつもりがないことがはっきりわかる。

日高監督もそうだ。目の前の試合ももちろん大切だが、次に向けて何を積み上げていけるのか。

常にそれを考えている。

 

長い間、新体操を見てきたが、こういうチームは必ず強くなる。

それが今年なのか、1年後なのか、もっと先なのかはわからないが、彼らが今「登り坂の途中」にいることは間違いない。

時々、こういうチームに出会うことができるから、私は今も新体操を見続けているのだ。