史上初! 男子新体操に「高校生チャンピオン」誕生!

今年の全日本選手権男子個人総合は、優勝の大本命おらずおそらく熾烈な戦いになるだろうとは予想していた。

山本響士朗という高校生の絶対王者の存在もあり、ことによっては「高校生がかなり上位にくる? あるいは優勝もありえる?」とまでは想像はした。

が、高校2年生の村山颯(国士舘高校)が全日本チャンピオンになるとは!!!

さすがに、予想していなかった。それはほとんどの人がそうだったと思う。

しかし、初日から村山の演技には、「侵し難いなにか」があった。

1種目目のスティックでノーミスの素晴らしい演技を見せると、23.275という終わってみれば、今大会の男子では唯一の23点台が表示された。

内訳は、D4.700、A9.375、E9.200 

Dの4.700は他の選手たちもマークしているが(山本響士朗のスティックはD4.800、高山蓮音のリングはD5.000!)、村山がこの種目で出したA得点の9.375を上回っているのは、丸山一休がロープ、クラブでマークした9.425だけだ。

さらに村山のスティックでのE得点は、9.200でこれは本大会のE最高得点だ。Eの9点台はほとんど出ておらず(尾上クラブ9.025、葛西スティック、ロープ9.000、山本クラブ9.000のみ)、単にミスがないだけではない、ひとつひとつの実施の正確性や動きや姿勢の正しさ、美しさでの村山の優位を示していると思う。

1種目目でのこの高得点で、がぜん注目される状態になって迎えたリングでは、落下が1回出てしまったが、それでも22.675というこの種目での3位にあたる得点が出た。Eはさすがに8.700と下がっているが、Aは9.375、Dも4.600と高水準のまま。落下もすぐに取り戻せるもので、そのせいで技が抜けるようなこともなかったため、最小限の実施減点のみですんだということだろう。

この「ミスがあったリングでも22.675」という評価が、村山の強さを象徴していると思う。

 

多くの選手が、そして指導者が頂点を目指して努力を重ねてきて迎えた全日本選手権だ。

1日目の2種目をノーミスでそろえた選手もいた。

そんな中で、リングでの1回落下があった村山が暫定首位でも、異論はないという空気が少なくとも観客席にはあった。

今年から採用されている新ルールでは、今までにはなかった「A得点」ができ、一定以上のレベルの演技ができる選手にとってはこの「A得点」が残りやすくなったということが、村山のようなタイプの選手には有利に働いた面もあるように思う。ましてやスティックのように実施も完璧で揃えられれば、「納得の高得点」も出るし、1回の落下だけではE得点が少し下がるだけ、なのも合点がいくのだ。

 

そして、この1日目に見せた村山のAとEの高さは、後半種目でたとえ少しばかりのミスが出たとしても、演技自体がぐだぐだになるほどの崩れ方をしない限りは、高得点になるだろうと予測するに十分な根拠となった。

「これは、本当に高校生チャンピオン、出るかもしれない」

多くの人がそう感じていたのではないか。

 

村山に不安な点があるとしたら、「初日暫定首位」という、さすがに予想していなかっただろう展開で平常心を保てるか、そこのみだと思っていたが、2日目の最初の種目となったロープでの村山は、どこまでも冷静だった。

高校2年生。ベビーフェイスでまだ子どもっぽさも残しているにも関わらず、百戦錬磨の戦士のように、淡々と冷静に演技を進めていく。いつも通り、どこにも無駄も過不足もない「欠点のない動き」に正確な手具操作。多くの選手が苦労するロープだが、この日の村山の演技は、ロープの端を余らせる瞬間すらほとんどないくらいの正確さだった。

22.625は、この日、最初の演技者で素晴らしいロープの演技を見せた丸山一休が出した22.375をも上回ってきた。

この時点で、「高校生チャンピオンは、きっと出る」

この歴史的な場に居合わせた人たちのほとんどがそう思っただろう。

最終種目のクラブの演技に入る直前、高崎アリーナの後ろ側観客席にいる観客すべての視線が男子フロアに注がれていた。

女子側の観客席に座っている人たちもほぼもれなく男子フロアを見ていた。

それは、24時間前には誰も予想していなかった状態ではなかったか。

この注がれる視線が、選手にとっての力になってくれればいいが、重圧になっていないか、とふと案じてしまったが、「The  村山颯」な透明感のある曲が流れ始めると、観客から注がれる視線がまるで、降り注ぐ光のように感じられた。彼の動きのひとつひとつが、神々しいまでの輝きを放っていた。

2本投げが少し離れてしまい、1本落下+場外はあった。が、それも最小限のミスであり、このくらいでは彼の得点はそう下がらないことをもうみんな知っていた。

結果、22.700とこの種目で2位にあたる点数をマーク。E8.800、A9.300。ミスがなければどんな得点になっていたのか、と思うとそら恐ろしくさえある。

CD班が演技を終えた時点での暫定順位は、村山、本田歩夢、葛西麗音、丸山。丸山は、この日の2種目ともノーミスで素晴らしい演技を見せており、両種目ともA得点9.425という最高得点をマークしていたが、それでも4位というのが今大会のレベルの高さを物語っていた。

AB班では、山本響士朗(高田高校)が、最初の種目ロープで、凄まじい完成度の演技を見せる。最後の足キャッチがわずかに緩いか、くらいしか齟齬が見つけられないこの演技は、22.900で終わってみれば種目1位の得点だった。点数の出にくいロープでの限りなく23点に近い得点は見事としか言いようがない。山本が村山との得点差を意識していたかどうかはわからないが、仮に知っていたとしたら、とにかく後半2種目を完璧すぎるほど完璧に演じるしかない、それでも届くかどうかという状況だった。その追い込まれた局面で、一時期は苦手意識もあったというロープで、この演技をやり切る。高校三冠は伊達じゃない! そんな底知れぬ強さを見せつけた。

高山蓮音(青森大学)も、ロープの曲として珍しいしっとりとした曲で、自身のもつ体操の美しさを存分に伝える演技をノーミスで演じ、山本、高山とも表彰台もあり得るという位置につけた。

そして、迎えた最終種目。

山本のクラブは神がかっていた。間違いなく難しい演技構成なのだ。それなのに、まるでこれは「基本中の基本」とでもいうようにひとつひとつをていねいに、正確に、そして冷静にこなしていく。ただ、こなすのではない。そこには音楽を感じさせる抑揚と緩急のある動きがついているのだ。手具操作に追われるのではなく、踊るように動きながら正確にキャッチする、そんなことができるんだ。非の打ちどころのないノーミス演技に、22.800という得点が表示された。A9.300は、この大会での山本の演技に対して出された得点の中ではもっとも高く、Eも9点台にのった。会場中が静まり返り、ただ彼の演技に見入っていた、その空気が反映されたかのようなA9.300だった。この2種目で、山本は一気に暫定3位まで順位を上げる。このままいけば、「表彰台に高校生が2人」という大快挙もあり得るか? という展開になった。

男子個人総合の最終演技となった高山のクラブは、これもまた「よくこの状況で」と称えるしかない素晴らしい演技だった。クラブという小さな手具だけに、彼のもつ体操の力が最高に発揮された作品で、リスキーな技もふんだんに入っているのだが、それ以上に、胸後反のあと、上体をそらした姿勢での静止、それが見ている者の心を揺さぶる。A得点は山本と並ぶ9.300。得点は22.600で最後の最後に高山が2位に飛びこんだ。

3位の本田とは総合得点では、わずか0.050差。本田と4位の山本の差も0.050差という大激戦だった。

 

今大会を前に、「男子新体操は進化している」と主張してきた。

個人総合に関しては、まさにその進化を多くの人が感じ取れた大会ではなかったかと思う。

「加点要素」がルール化されて以降、やや「加点」偏重気味になり、体操の良さや演技の流れ、緩急などが損なわれていた時期もあったが、もはやそれでは上は目指せないという時代が、はっきりここに幕を開けた。

かつて、男子新体操は「いいとこ勝負」な面があった。

手具操作、タンブリング、表現力などなにかずば抜けたものがあれば、苦手な部分は「ごまかし」が効く。強い部分で点数を稼げばいい。

それが個性や工夫にもつながっていた面もある。もちろん「強み」で勝負することも間違ってはいない。

ただ、これからは「高み」を目指すのであれば、欠点をそのままにしないということは必須になってくると感じた。

 

今大会で優勝した村山颯の最大の強みは、その「穴のなさ」なのだ。

体操、タンブリング、手具操作、表現。。。高校生だけあってどれも一番ではないかもしれない。

しかし、すべてが高いクオリティにあり、「残念」「惜しい」というところがない。実施でミスが出た場合は、そこだけが欠点となるが、それだけだ。

男子選手にはありがちな、姿勢欠点、足先のゆるみ、膝の曲がりなども当たり前のようにない。

手具の扱いも、正確でていねいで無理がない。

国士舘ジュニアで幼いころから練習してきた選手だけに、はじめから正しいやり方を覚え、それが身に付き、熟成されて今があるんだな、と思うと、まだ高校2年生とはいえ、十分に長い時間をかけて育てられてきた男子新体操の理想形なんだ、と思う。

もちろん、そこに至るまでは本人の努力があったことも間違いない。ただ「環境に恵まれた」だけで誰もがそうなれるわけではない。

が、彼はその努力を「楽しくやれる」環境には恵まれていたように思う。幼いころから、国士舘のアリーナで見る彼は、いつも楽しそうだった。練習することも、その場にいることも楽しくてたまらないという雰囲気をもった子どもだった。小学生にはつらいだろいうと思うような、反復練習も飽きずにやっていた。

いつも「もっとうまくなりたい」「もっとできるようになりたい」そんな思いを、ずっと持ち続けてこれたこと、それが彼の最大の才能だったんじゃないか。

「男子新体操の理想形」を体現する高校生チャンピオンが現れた今、この先の男子新体操は、より理想に近い形に進化していくに違いない。

2025年、それはもう確信に変わった。

<写真提供:naoko>