「続ける人たち」~2024テレビ信州杯
私ごとだが、2024年2月11日、福岡で行われた『滑走屋』というアイスショーを観に行った。
フィギュアスケートは、子どものころから大好きで、かなり熱心に見ていた時期もある。
2010年のバンクーバー五輪のころはかなり好きだった。とくに高橋大輔選手の演技にはいつも心を揺さぶられていた。
その後、一度は現役引退しながらもアイスダンスで競技に復帰。2022年の全日本選手権ではアイスダンス選手として金メダル獲得までした高橋選手だが、2023年にアイスダンスも引退。その高橋大輔氏がプロデュースするアイスショーがこの『滑走屋』なのだ、
ショーは本当に素晴らしく、高橋氏が思う「フィギュアスケートの良さ」を思う存分、見せてもらったという気がした。
そして、そのショーの中で、高橋氏自身も演技を披露してくれたのだが、これがじつに素晴らしかったのだ。
アイスダンスを引退した理由は膝の故障だと聞く。3月には38歳になる高橋氏の体はすでに、競技としてのスケートは続けられないくらいにボロボロなんだろう。個人選手として五輪に出場していた頃のようにはいかない面もあることは想像に難くない。
それでも。
「やっぱりこの人は違う!」と思わせる滑りや空気感はたしかにあったのだ。
37歳というフィギュアスケーターとしては高齢になったことで、衰えた部分もあるのだろうが、かえって良くなったり、凄みを増した部分もおおいにあったと思う。スポーツではあるが「表現」が重きを占めるフィギュアスケートにとっては「年を重ねる」のは悪いことばかりではないのだ、と高橋氏の演技を見て確信した。
翻って、新体操。
先月のテレビ信州杯で、嬉しい驚きだったのが、男子社会人選手の多さだった。
●松田知志(東播RG)
●安藤庸介(草加ジュニア新体操クラブ)
●野渕 昂(キートス新体操クラブ)
●小橋史宏(WingまつもとRG A)
●吉森健人(東播RG)
●大村光星(WingまつもとRG B)
●谷本竜也(ソルクス体操クラブ)
中には大村選手のように昨年大学を卒業したばかりの社会人ルーキーもいるが、30歳を超えている選手もかなりいる。
それでも、彼らの演技が「見るに堪えないか」と言えばそんなことはなかった。
ルールも大きく変わった今の時代の新体操とは趣が違うかもしれないが、それでも彼らが大切にしてきた「新体操の良さ」は損なわれていなかった。そして、なによりも楽しそうだった。
学生時代には、「勝つこと」「点数を上げること」にとらわれていたかもしれないが、今は違う。やりたくてやっている、あるいは「子どもにとってかっこいいパパでいたい」「教え子に背中で見せたい」などなど、それぞれがこの舞台に対して思いを持っている。「全盛期の自分」よりも劣るならば、やる意味がないとか、見せる価値がないとか、そんなことはないんだ、と彼らの演技が教えてくれる。
競技の世界でよい結果を得られるのか、と言えばそれは難しいかもしれない。
だが、彼らの演技は多くのものを私たちに与えてくれる。
それはおそらく、高橋大輔氏が『滑走屋』で見せたかったもの、成し遂げたかったことと重なっているかもしれない。
社会人は、コンスタントに練習することが難しい。
だから、なにもずっとじゃなくてもいい、休み休みでいいから。
「今の自分はこんなです」と演技で見せてくれる選手が、もっともっと増えたならば、「新体操」というスポーツはもっと面白くなる!
そして、選手自身がもっともっと楽しめるようになるはずだ。
谷本竜也選手のこの笑顔を見て、そう思わずにはいられなかった。
9月に行われる全日本社会人選手権はもちろんのこと、テレビ信州杯のようにシニアの部が設けられている大会ならば、社会人選手の出場は可能なはずだ。今後、ますます様々な大会への社会人選手の出場が増えることを期待したい。
学生までで終わるスポーツではなくなれば、新体操はより成熟していくに違いないから。