「中京力」に驚嘆!~2023全日本選手権を振り返る

今さら? かもしれないが、昨年の全日本選手権の振り返りを少しずつしてみたいと思う。

昨年のノートを見ていたら、「あ~、そうだ書きたいと思っていたんだった」ということがいくつも見つかったので。

まず、そのひとつ。

「中京力」だ。

 

2023年の全日本選手権での嬉しい驚きは、萩原龍選手(高田RG)の演技だった。

社会人1年目の萩原は、大学4年時の全日本インカレでの4種目総合得点55.550(このときはリングで大きなミスがあり、リングの得点10.950が足を引っ張っていた)から、2023年の全日本社会人大会では61.200と爆上げしてきていた。

そして、社会人大会3位になり、初の全日本選手権出場を決めるとさらに練習に熱が入ったのだろう。全日本選手権でも大崩れすることなく4種目をまとめ、ロープでは16.050と16点台にのせる躍進を見せた。結果、全日本選手権では4種目総合得点61.700をマーク。おそらくこれは彼のパーソナルベストではないか。それが全日本選手権という夢舞台で出たのだ。

萩原は、群馬県出身だが、群馬の強豪・前橋工業ではなく県立渋川高校に在籍。それでも、器械体操の経験を生かし、2018年にはインターハイにも群馬県代表として個人で出場している。中京大学の進学してからも、ポテンシャルを感じさせる演技をする選手ではあった。しかし、いかんせん怪我が多く、ミスも多かった。よいときの演技を見れば、「これは伸びそう!」と期待するのだが、タンブリング抜きでしか演技できないような時期もあり、順風満帆とはいえない大学4年間だったように見えた。

それでも、4年生時は、インカレの1か月後に行われた男子クラブ選手権で、クラブ以外の3種目を15点台にのせ、4種合計59.300とインカレを大きく上回る得点をマークしている。このときは、たしかにどの種目もかなり出来がよく、本人も手ごたえがあったのか「やりきれた!」という清々しい表情をしていたことを覚えている。

大学4年生、気持ちよく終われたのならよかった! と思う反面、やっとここまで力を発揮できるようになったのなら、ここで終わるのは惜しいな、とも思った。だから、「よかったら続けて」と言ったように思う。そして、そのとき彼は「続ける」と明言はしなかったが、否定はしなかった。

2023年の社会人大会のエントリーに名前を見つけたとき、「あ~、続けてくれていたんだ」と嬉しくなった。そして、社会人大会を勝ち抜いて全日本選手権の舞台に立った彼は、「来るべきところに来た」ように見えた。

萩原龍の演技には、独特の曲線と柔らかさがある。器械体操の素地があるので、タンブリングもしっかりと美しい。爆発的な凄さを見せるのではなく、キレよく気持ちの良いタンブリングなのだ。そして、動きの柔らかさや粘りは、彼が「こうありたい!」と思う理想を追い求めて磨いてきたものだ、としっかり感じ取れる。とくに感心していたのが、甲立ちの正確さだ。軽やかに、ごまかしなくすっと立ち上がる彼の甲立ちは、理想を追求し続けてきたのだろう彼の新体操に対する姿勢を象徴しているように思える。

「これでいっか」ではなく、「これがいい!」そんな新体操をしたくて、社会人になっても彼は新体操を続けてくれたんだな、と思った。全日本くらいはいけてもおかしくないのにな、と感じるだけのポテンシャルはある選手だった。が、怪我やなにかでその道のりは思った以上に険しいものになってしまったが、それでもあきらめず、そこにたどり着けたことは本当に誇ってほしい。

 

そして、もう一人。

とても嬉しい驚きだったのが大庭梨駆選手(阿久比新体操クラブ)の躍進だ。

中京大学では萩原の1つ上になる大庭選手は、4年生時のインカレでは4種目総合得点が52.550だった。

埼玉県の西武文理高校から中京大学に進学して、新体操を続ける道を選んだ大庭選手にとっても全日本選手権出場は大きな夢だったろうが、そこにはかなり遠いまま、大学時代を終えることになった。が、社会人1年目の2022年にも、彼は社会人大会に出場してきた。そのときの得点は46.125と大学時よりも下がっているが、これは社会人1年目としてはいた仕方ないだろう。

そして、彼は2年目になっても社会人大会に出場し、そこでは48.475と前年を大きく上回る得点をマーク。社会人大会5位でついに全日本選手権の切符を手に入れたのだ。さらに全日本選手権では、53.350と大学時代の点数をも超えてきた。

これが社会人2年目の選手にとってどれほど困難なことか、社会人選手の経験がある人ならわかるだろう。

全日本選手権でのスティックの演技を見たとき、学生時代と比べてとても線が美しくなったことに驚き、感動した。こうやって大学を卒業してもなお進化し続ける選手の存在は、後に続くジュニアや高校生たちにも励みになるに違いない。

 

そして、この遅咲きだが、価値ある花を咲かせたふたりはそろって中京大学卒なのだ。

臼井優華が在籍していた時期は、表彰台も常連だった中京大学だが、このところ、なかなか上位に割って入ることが難しくなっている。が、それでも部は存続し、萩原や大庭のように息長く、粘り強く成長を続ける選手たちが育ってきた。

たしかにこのところの中京大学の男子は、「強い」とは言えなかった。だが、いつも「楽しそう」ではあった。

だからこそ、こうして卒業後も、気のすむまでやってみよう! という選手が育ったのかもしれない、とも思う。

もちろん、偉大な先輩である臼井選手が、社会人大会に出続ける姿を見せてくれていたことの影響も大きいだろう。

「新体操を続けさせる力」、、、それが「中京大学の力」なのかもしれない。

 

萩原とは中京大学での同級生である河瀬貴哉選手(高田RG)も、2023社会人大会に出場していた。

7位となり全日本選手権への出場は叶わなかったが、彼もまた、中京大時代から「自分」をもった面白い演技を見せてくれる選手だった。調子がよいと見せてくれる4回前転キャッチなど、会場をわかせる演技を見せていた河瀬選手も、きっとまだまだ伸びしろがある。彼は高田高校(三重県)出身で、偉大な先輩である堀孝輔さんにあこがれて高校から新体操を始めたのだと聞いている。

高校では、堀選手が先輩、大学では臼井選手が先輩にいる河瀬選手には、「社会人になったらやめなければ」という思い込みはないだろう。今年もまた社会人大会に出ていそうな気がしている。

もちろん、萩原選手にも、大庭選手にもそれはおおいに期待している。

<撮影:naoko> ※2023全日本社会人選手権にて撮影