「みんなが主役、みんなで輝く!」~岡山南高校集団演技
昨年の12月、井原市で開催された井原新体操フェスティバル。
男子新体操のジュニアチャンピオン・井原新体操クラブや、高校のトップチーム・井原高校、さらには
昨年の全日本選手権で団体3位となった倉敷芸術科学大学。個人でも全日本チャンピオン・堀孝輔、大学生チャンピオン・大村光星らが揃った男子新体操の豪華絢爛な演技会だった。
しかし、今回の見どころは男子だけではなかった。
このフェスティバルに出演していた女子選手たちもかなり見ごたえのある演技を見せてくれた。
ゲストの柴山瑠莉子選手(日本女子体育大学)や町田RG団体の演技が素晴らしかったことはもちろんだが、そんな中でも輝いていたのが
地元岡山県の岡山南高校の集団演技だった。
部員全員での集団演技は、前半がモアナと伝説の海から「How Far I'll Go」、後半はグレーテストショーマンの「This is Me」で構成されており、なんとも自己肯定感の高さを感じられる演技だったのだ。
岡山南高校は、岡山県では新体操のトップ校で、毎年インターハイに出場しており、近年は、かなり上位の成績を収めることもある力のあるチームだ。しかし、公立校でもあり、部員確保も決して楽ではない。
ここ2年は、新型コロナの影響もあり、満足に練習できなかったり、目指していた大会がなくなったりというモチベーションを保ちにくい中で新体操を続けてきたそんな部員たちにとって、この3年間は振り返れば「こんなはずじゃなかった」ことのほうが多かったのではないかと思う。
しかし、そんな思いをしてきただろう彼女たちが演じるこの集団演技からは、そういった悔いのようなものはみじんも感じられなかった。
思い通りにはいかなかったことが多かったかもしれないが、「やってきてよかった!」そんな思いがズンと伝わってきた。
1人1人の部員に輝く場が設けられているこの作品の中で、みんな笑顔で輝いていた。
簡単ではなかったこの3年間を乗り越えてきた自分たちを誇らしく思えている、そんな顔だった。
作品の構成がじつによく練られており、「みんなが主役」に見えた。
かなり構成力のある先生が指導されているんだな、と感心して見ていたが、後で聞いてみると構成は生徒たちが考えたそうで、手直しもほとんどしていないとのことだった。つまり、それだけ自立した生徒たちだから、自分たちの良さを自分たちで十分引き出せる作品を創り上げることができたのだろう。そして、そんな生徒たちを信頼して任せられる指導者の胆力もまた素晴らしいと感じた。
もともとは同校の創立120周年式典で披露するために創作した作品だとも聞いた。
自分たちの学校の節目を祝う、言われてみればそんな晴れがましさや、未来への希望、そんなものも込められているような演技だった。
先日、記事を公開した立教大学の発表会もそうだったが、この岡山南高校の集団演技も、ここまで新体操を続けてきた選手たちが、「やってきてよかった、続けてきてよかった」という気持ちで踊っていることが感じられ、見ているほうも幸せな気持ちになれた。
本当は苦しいことや悔しいことのほうが多かった新体操人生だったとしても、最後がこんな風に締めくくれるならば、きっと彼女たちの糧になるし、新体操を離れたあとでも、おそらく「良い思い出」として新体操のことを思い出すことができるのではないかと思う。
「五輪に出たい」「日本一になりたい」などの野心をもって新体操を始める子どもはそれほど多くない。
もちろん、親もいきなりそんなだいそれた夢は見ないはずだ。「新体操」というスポーツをすることで自分なりに「なにか」を実現でき、達成感を得たい、ほとんどの選手がそんな思いで新体操を続けているのではないか。その「なにか」は、傍から見たらささやかなものだったとしても。
親もまた、我が子がそうして「なにか」に向けて夢中になっている姿、達成感で輝く顔を見ることができたならば、「応援してきてよかった、支えてきてよかった」と思えるんじゃないかと思う。
新体操に限ったことではなく、なにかに打ち込むというのはそういうことだ。
現在の高校生は、その「打ち込む」ことが難しい環境に長くいた。
それでも。
岡山南高校の集団演技は、こんなにも感情を揺さぶる輝きをもっていた。
おそらくそれは、困難な中でも新体操をあきらめず、投げやりにならず「できること」に全力を尽くしてきたのだろう彼女たちの3年間がそこには透けて見えたから、に違いない。
「男子新体操の祭典」という印象が先行している井原フェスティバルだが、男子フロアだけでなく女子用のマットも会場に用意されており、女子のこんなに素晴らしい演技も見られる。男子だけでなく女子の新体操も尊重し共に伸びていこうという意思を感じさせるフェスティバルだった。
だからこそ、岡山県の女子新体操も、じわじわと存在感を増してきているのだろう。
倉敷芸術科学大学の男子新体操の躍進もあり、岡山南高校出身の渡辺きらり選手もインカレで頑張っている。
フィギュアスケートではすでに多くの名選手を輩出している岡山県だけに、今後にもおおいに期待できそうだ。
TEXT:Keiko SHIINA <写真提供:岡山南高校新体操部>※創立120周年記念式典時のもの