2015全日本ジュニアに向けて~大村光星(WingまつもとR.G)
WingまつもとR.Gといえば、長野県では強豪クラブの1つに数えられるクラブだ。
近年は競技成績もすばらしいが、なんと言っても会員数の多さ、選手の多さがすさまじい。
一般会員を含めると、「500はいないと思う」と言うが、それだけいれば全国でも有数の大規模クラブといえる。
2012年、テレビ信州杯に「男子キッズ選手権」が創設されたとき、Wingまつもとからも何名かの男子選手が出場していた。
が、当時、Wingまつもとには男子コースはなかったため、ほとんどが女子選手の兄弟だったと聞いている。
せっかく立ち上げた「男子キッズ選手権」を盛り上げるために、少しでも出場選手を増やしたいという思いからだった。
ところが。
それをきっかけに、Wingまつもとは正式に男子コースを設けることになる。
やりたいという子どもがいるのならやるしかない!
せっかく芽生えた長野県の男子新体操のジュニアの芽を摘んでしまうことはできなかった。
はじめは、キッズ選手権だけの出場だったが、徐々に手具をもっての競技にも出場。団体も、と着実にチームは成長し、北信越ジュニアにも出場するようになった。
そして、ついに昨年は、大村光星が全日本ジュニアに出場。
長野東高校に古くから男子新体操部があるため、インターハイには毎年出場している長野県だが、ジュニアを育成するクラブはなかったため、これは長野県初の男子の全日本ジュニア出場だった。
その大村は、今年、中学3年生になり、今年最後の全日本ジュニアに出場が決まっている。
大村が、全日本ジュニア前の最後の練習をしているという松本市総合体育館を訪ねてみた。
この日は、女子の競技クラスの練習もあり、広い体育館の3分の2が新体操が占めていた。その一角に、男子がいた。
圧倒的な人数の女子と比べれば、男子の数はごくわずかにも見える。
しかし、発足してまだ3年だということを考えれば、立派なものだと思う。
現在、週1回の基礎クラスと週3~4回練習の競技クラスがあり、20名近くの会員がいるそうだ。
試合にはまだ出ない子も、地域のイベントなどでの演技披露には出たりしているそうで、この日もその作品練習をしていた。
「ダンスともバレエとも違う、男子新体操の動きをかっこいい! やりたい! と思う男の子は思った以上に多いんですよね。」と、現在、男子コースを担当する百瀬奈津代コーチは言う。現在は、長野東高校から花園大学へ進学して新体操を続けてきた村山勇希をコーチに迎え、長野県での男子新体操のすそ野を広げ続けている。
そんなWingまつもとR.Gの男子選手たちにとって大村は、希望の星でありあこがれだ。
初出場だった昨年の全日本ジュニアでは35位だったが、「出るだけで満足」だった昨年とは明らかに違う演技を今年は見せてくれそうだ。
男子には珍しいことではないが、大村もまた男子用の四角いスプリングマットの上で練習できる機会はめったにない。この日もタンブリング練習は1本のタンブリング板とエバーマットの上で行っており、通し練習は女子用のマットの上で数本行うだけ、という練習だった。それでも、手具の投げ受けもずい分うまくなっていることはわかったし、動きに勢いもある。
いい演技をする選手になった、と思う。
いわばゼロからのスタートだったこの環境で、彼がここまでになったのは、間違いなく「新体操が好きだから」なのだろう、とわかる演技だった。
聞けば、ほとんどの練習会場に彼は自転車で通っているという。家族に負担をかけないために、かなり遠くまでも自転車で通い、送迎を頼むことはめったにないのだそうだ。秋~冬の松本は、夜ともなればかなり冷え込むだろうと思うが、それでも自転車で練習に通ってくるだけの気持ちをもった選手なのだ。
今年は、骨折という大きな怪我も経験し、満足に練習できない時期もあったというが、そのブランクは感じられない。それも彼の強い気持ちがあったからこその回復なのだろう。
今よりも男子新体操の注目度もずっと低く、競技人口も少なかったころから、男子用のマットを敷いてテレビ信州杯の男子の部を続けてきた長野県。「男子小学生の目標となる試合をやりたい」という男子新体操関係者の思いに動かされ、「男子キッズ選手権」を始めた長野県。
今や全国一の規模を誇るテレビ信州杯は、ただでさえ運営することに並大抵ではない労力が要る。そこに新たな部門を設けるのは、簡単なことではなかったはずだ。
それでもやったこと、それでも始めたことは、男子新体操全体にとっても大きな意味があったが、長野県にとってもひとつの財産になりつつある。
Wingまつもとの男子コース、そして大村光星は、その象徴だ。
一足飛びにトップクラスにはなれないかもしれないが、長い時間をかけて女子新体操を強化してきた持続力を思えば、いつの日か男子新体操でも長野は侮れない存在になる日がくるのではないかと思う。
全日本ジュニアでの健闘を期待したい。
PHOTO & TEXT:Keiko SHIINA