2015近畿総体に向けて⑤~県立坂出工業高校(香川県)
「無印良品」
高校総体を6日後に控えた坂出工業高校の練習を見ているうちに、そんな言葉が頭に浮かんだ。
坂出工業高校は、かつて男子新体操界きっての強豪だった。
現在、青森大学監督の中田吉光が率いていた時代には、全国制覇も経験。表彰台の常連だった。
現在の林晋平監督は、中田からバトンを引き継ぎ、今年で14年目になる。
「最初の2年は、中田先生の遺産があって、結果も残せましたが、3年目からは自分だけの力になって、一度はどん底に落ちました。」
と林監督は言うが、坂出の監督に就任したのは25歳のとき。指導歴もまだ浅かった彼が、すぐに「名監督」になれなかったとしても、無理からぬところだ。
しかし、試練は人を成長させる。一度、どん底を経験した林監督は、「先を見据えた指導」を心がけるようになる。そのために、自分に足りないところは貪欲に教えを乞うた。高校から新体操を始める子が多く、タンブリングを一から教えるために、器械体操の指導法も学んだ。自分の教え方ではなかなかバク転ができなかった子が、ひねりができなかった子が、器械体操の先生の指導を受けてできるようになるのを目の当たりにし、その指導法を吸収しようと必死になった。
この14年、彼は、自分の母校である坂出工業高校の男子新体操部を懸命に守り、育ててきた。が、それは同時に彼自身の成長物語でもあったのではないだろうか。
今年の坂出工業のメンバーは、3年生が3人、2年生が3人。その中に、ジュニアからの新体操経験者が2人いる。一人は、個人でも結果を出している川東拓斗(高校選抜2位)。近年の坂出工業の中では、かなり経験値の高いチームだ。高校スタートの選手も4人いるが、短い子でも、1年以上は指導してきているのだから。「高校スタートの子が多いチームですから」なんて言い訳をする気は、林監督には毛頭ない。
入部当時は、素人だったかもしれないが、1年または2年間、自分の指導を信じて、必死についてきた選手たちだ。彼らに「やればできる」ということを教えたい、その思いが林監督の指導の中核にある。
だからこそ、ここにはちょっと驚くほど多くの部員がいる。現在18名。初心者もたくさん入部してくるし、その子たちが、Bチームを組んで、すでにそこそこに見える演技をするようになっている。練習は決して楽ではない。かなりきついはずだ。それでも、「上達している実感」をもつことができるのだろう。そして、多くの先輩たちが2年間で高校総体に出ても恥ずかしくないだけの力をつけてきたことを彼らは知っている。だから、続けられるのだ。
ジュニアあがりの選手だけでチームを組める高校も増えてきた今の時代、かつて優勝争いの常連だったころのようにはいかない。それでも、限られた時間の中で、しっかり芯の通った「男子新体操」を教え、彼らが習得したものを、非常にうまい形で「作品」に仕上げる知恵が、坂出工業の演技からは感じられる。
「高校スタートにしてはうまい。」なんて褒め言葉は彼らの演技には似つかわしくない。たとえ期間は短くても、「やればできる」と体感できる指導を彼らは受けてきたし、ここで積み重ねてきたことを存分に発揮できる作品を練り上げてきたのだから。揺らぎのないどっしりした体操。スピードと重み、大きさを感じさせる動き。
選手の特性を生かした独創性のある組み技。男子新体操ならではの同調性の見せ方、などは、上位校にも決してひけをとらない。そんな作品を、今年の坂出工業は見せてくれる。
一流ブランドのパッケージに美しく並べられたお菓子を、人はありがたがり、おいしく感じるものだ。
しかし、スーパーのプライベートブランドコーナーに並んだ袋菓子には、たいしてありがたみを感じることはない。ブランド品と同じ工場、同じ手法で製造され、じつは味はブランド品と遜色ないとしても。パッケージに惑わされない消費者だけが、そのリーズナブルなおいしさを享受することができる。
今年の高校総体は、男子団体の前半に強豪校や前評判の高いチームがひしめきあっている。坂出工業の出番は、6番。まさにその強豪そろいのど真ん中にあたる。
名前だけを並べて見れば、「休憩タイム」にあてる観客もいかねない試技順だが、彼らは間違いなく、見劣りしない演技を見せてくれる。
無印良品を侮ることなかれ。
彼らの演技を見逃したら、きっと後悔する。
PHOTO & TEXT:Keiko SHIINA