SAGAアリーナを熱くした九州女王決定戦~九州高体連ブロック大会(女子団体)

6月15日に行われた九州高体連ブロック大会、団体競技の出場チームは、男子5チーム、女子13チームだった。

女子2チーム→男子1チームと交互に進行はしていたが、男子のほうが先に終わる。

男子団体のトリを務めた神埼清明高校(佐賀県)は、「あなたたち、本当に高校生ですか?」と年齢確認したくなるようなスーパー演技で、16.050をたたき出し、圧巻の優勝。

演技冒頭の高い組み、中盤での4バック(うち1回はテンポ)、そして終盤でのダブルブランコなどに、SAGAアリーナの観客たちはどよめき、息をのんだ。

 

神埼清明の直後には、女子の折尾愛真高校(福岡県)の試技が行われ、神埼清明の演技の興奮の余韻がやっと収まったところで、今年、初のインターハイ出場を決めた県立佐賀北高校(佐賀県)が登場してきた。

この時点で会場のボルテージはかなり上がり、ちょうど神埼の演技終了後のような熱をもっていた。

そして、その熱気の中で、佐賀北高校は、見事に期待に応える演技を見せた。

毎年、佐賀北の演技は、パワフルで元気にあふれている印象があるが、今年はなおさらだ。演技の中に、飛び蹴りのように見える片脚を横に出すジャンプがあるが、その威勢のよいジャンプがこの作品の雰囲気、チームカラーにとてもよく似合っているのだ。演技終盤は曲が「キル・ビル」に変わり、最後までかっこいい。

が、今回の試技では最後の最後にミスが出てしまった。フープを1本こぼしてしまい、おそらくラストポーズも予定通りにはいかなかった。それでも、今のこのチームの持つ勢い、たたみかけてくるような演技のパワーは十分に示す演技となった。

得点26.750は、ここまでの11チームでの最高得点。

佐賀北の応援団だろうか。観客席から歓喜の声が上がり、会場は騒然とした雰囲気になった。

 

そして、その騒然とした雰囲気の中で、次のチームがコールされた「佐賀女子高校(佐賀県)」だ。

果たしていつ以来なのだろう。インターハイ出場を逃すという、久しく記憶にない事態に陥ってしまった佐賀女子高校の選手たちは、インターハイ予選からこの九州大会までの間、どんな思いで練習してきたのだろう。

おそらく、「九州大会では絶対に勝つ!」そんな気持ちもあったに違いないと思う。

が、目の前で佐賀北が素晴らしい演技を見せ、ここまでのトップにつける得点をたたき出した。試技順がつながっていたせいで、選手たちはそれを目の当たりにしてからフロアに向かわなければならなかった。

「やってやる!」とエンジンがかかった選手もいたかもしれないが、「また負けてしまうかも」と、不安に襲われた選手もいたんじゃないかと思う。

そんな選手たちのことを思うと、「いい演技ができるように」と祈るような思いになった。

佐賀女子の演技は、非常によかった。

交換などの投げが狂った場面も少しはあったが、しっかり反応して落下にはせず、じつに集中力を感じさせるよい演技だった。

この作品は、ショーナンバーのような華やかさ、楽しさが魅力ではあるが、1月のテレビ信州杯や3月の高校選抜前に取材に行ったときには、まだ踊り切れていない印象があったのだ。

この作品のもつ魅力を存分に見せるために必要な「余裕」があのころはまだなかった。おそらくインターハイ予選もそうだったのではないかと思う。

が、この日の演技は、この曲、この振りで見せたいと思っていただろう「キラキラ輝くような華やかさ」を放っていた。

佐賀北のときも会場の盛り上がりがすごかったが、ノリのよい曲調もあいまって佐賀女子のときもすさまじい盛り上がりだった。

26.750の佐賀北を上回ってもおかしくないかも、と思える演技だったように見えた。

採点には少し時間がかかり、表示された得点は25.800。

佐賀北を上回ることはできなかったが、かなり迫る得点で、暫定2位となった。

この結果に、選手たちは満足していないかもしれない。悔しい思いはきっと残っただろうと思う。

でも、インターハイ出場がなくなってからこの日までの間も、気落ちしたり投げやりになることなく、本当にこの九州大会に懸けて必死にやってきたんだ、ということは十分伝わる演技だった。

そして、本番の演技中にはそんな必死さをみじんも見せずに、キラキラと楽しそうに踊り切った選手たち、本当に素晴らしかった。

常勝チームが負けたときは、多くの雑音が耳に入ってくる。本来なら誰だって経験する可能性がある「負け」が、まるで取返しのつかないことにように感じるだけの重圧もかかっていたと思う。

おそらくそんな中で、彼女たちはこの日に向けて頑張ってきた。

いつもならば、「インターハイに向かうステップの1つ」の九州大会にも、今年はもっと重い意味があったに違いない。

「演技がよくても結果が伴われなければ意味がない!」競技者である以上、そう思うかもしれないが、じゃあ、「どうせ負けるなら、演技なんてどうでもいい」わけではないはずだ。

勝てないかもしれないからこそ、「よかった!」と思える演技をしたいはずだし、見せたいはず。

表現スポーツ、芸術スポーツと呼ばれるものをやっている人たちはそうだと思う。

佐賀北の得点で会場が騒然とする中で、あれだけの演技ができた。そこに至るまでの選手たちの努力、気力は尊敬に値する。

今大会での佐賀女子は、勝てなかったかもしれないけれど、これは「最高の負け方」だ。

 

「佐賀勢のワンツーフィニッシュ」がかなり濃厚となったところで、最後の演技者・鹿児島純心女子高校(鹿児島県)が登場してきた。

佐賀勢の熱い戦いの決着がついた直後の会場には、少し気が抜けたような空気が漂っていたが、鹿児島純心の演技は、その空気を再び熱く燃えさせた。

おなじみの「マトリックス」の曲を使った今年の純心の演技は、従来、純心がこだわってきた「純心らしい美しさ」からは少し逸脱した色の作品だ。

純心が得意としてきたたおやかで曲線的な動きで美しさを見せる部分がほぼないのだ。マトリックスだからあくまでも強く、かっこよく!

それが長身の選手が多く、スケール感のある今年のチームにはとてもよく似合っていた。序盤の交換で惜しい落下があり、得点は24.250にとどまり、24.900をマークしていた中村学園女子高校(福岡県)を上回ることはできず4位に終わったが、ここからインターハイに向けて楽しみが増えた、と思える演技だった。

 

九州高体連ブロック大会は、全国でも屈指の男子のレベルの高さで注目されていたが、神埼清明の優勝が決まったあとの、女子団体後半3チームの名演技の応酬がこの日一番の盛り上がりだった。

昨年できたばかりのSAGAアリーナは、まだ新築の匂いもする素晴らしい会場で、ここで9月には国スポがあると思うと、わくわくしてきた。

会場の大きさに対しては、今日の観客数は決して多いとは言えなかったが、それでも、女子後半3チームのときの盛り上がりは凄かった。

9月の国スポでは、全国のトップレベルの選手たち、チームの演技がここで見られるのだ。

そのときは、できれば満員の観客席でおおいに盛り上げたいものだ。

※写真は今大会のものではなく佐賀北高校、佐賀女子高校取材時に撮影したものです。