「4年目のリベンジ」~小林秀峰高校

4年前。

2020年の今ごろ、高校生たちは絶望のどん底にいた。

新型コロナの感染拡大によってインターハイをはじめ春~夏のほとんどの大会は中止になり、練習もままならない日々が続いていた。

あの年は誰にとっても辛かったに違いないが、あの年に、強いメンバーがそろっていたチームの無念さはひとしおだったのではないかと思う。2020年の小林秀峰は、そんなチームの1つだった。

2017年のインターハイでは、限りなく優勝に肉薄した準優勝を飾った小林秀峰だが、2018年6位、2019年4位と表彰台を逃している。

しかし、2020年のチームは、1年生時からレギュラーを務めている選手も多く、いわゆる「上が狙えるチーム」だった。

まずは3月の高校選抜、そしてインターハイでは久しぶりの頂点狙いもできるんじゃないか、そんな期待がもてるメンバーがそろっていたのだ。

しかし、高校選抜もインターハイも中止になった。このときの3年生の中で、大学でも新体操を続けたのは長友快成(現在、福岡大学4年)だけだった。インターハイがあったなら、そこで良い結果が得られていたなら、もしかして新体操を続ける道を選んでいたのではないか、と思う選手たちも高校までで現役引退を決めてしまった。それだけ喪失感が大きかったのだろうと思う。

2020年はそんな年だった。

そして、小林秀峰は、この2020年を境に苦しい時期が続いた。

インターハイでは、2021年8位、2022年11位、2023年10位。

かつては部員数も日本で1,2を争う多さだったのが、徐々に部員も減っていき、キャリアの浅い選手でもレギュラーに入れざるを得ない、そんな時期もあった。

2010年から、全国にジュニアクラブが立ち上がり、2015年あたりから、インターハイ出場チームにおける「高校始め率」は大きく減少してきた。複数の公立中学に男子新体操部があり、いち早く「中高一貫育成システム」が出来上がっていたことがアドバンテージだった小林秀峰だったが、その優位はジュニアクラブの台頭によって揺らいでいた。

かつての小林秀峰の選手たちは、たしかに強かった。同世代の中で強いだけでなく、大学に行っても当然通用するだろう、と思わせる強さがあり、自信に溢れている選手が多かった。そして、実際に大学でもほとんどの選手がレギュラーとして活躍、日本一の称号を得た選手も大勢いた。

現在、小林秀峰の監督を務める日高祐樹も、そんな「新体操エリート」だった。

高校時代にはインターハイ優勝、青森大学でも負け知らず。

そんな日高監督にとって、近年の選手たちの「自信のなさ」はおそらく理解しがたいものだったのではないかと思う。

ジュニア時代に実績がなくても、高校での指導で力をつけることはできるはず。強いチームにすることも不可能ではない。

現役時代、「勝ち方」を熟知していた日高監督だけに、それはわかっていたはずだし、実践しようとしてきたのだろうが、いかんせん「自信のなさ」を払拭することが難しかったように見えていた。自信がなければ、本番で力を出し切ることは難しい。そして、自信のなさは焦りにつながり、怪我を招く。

ここ数年、少しチーム状態が上がってきたかと思えば、怪我人が出て大会本番にベストメンバーが組めない、そんな状況に陥ることも多かった。

九州総体は、神埼清明と小林秀峰の一騎打ちの時代が長かった。

しかし、近年は、芦北高校が力をつけ、鹿児島実業もマジメ演技で上位争いに食い込んでくる群雄割拠の様相を呈し、小林秀峰はその中でとり残されかけていた。

今年の九州総体も、選抜優勝の神埼清明、昨年インターハイで3位の芦北、5月の団体選手権で2度目の優勝を果たした鹿児島実業と、ハイレベルな戦いになることは間違いない。そこに小林秀峰はどう立ち向かっていけるのか。

九州総体1週間前の6月8日に小林秀峰高校を訪ねてみた。

まず、嬉しかったのは、部員数がぐっと増えて、秀峰らしい活気のある練習風景が見られたことだった。

今年の新入部員は7人。この日も、2チームを組んで練習していた。

そして、レギュラーチームの練習を見ると、はっきりと「変わった」と感じられた。

力強さ、大きさ、深さ、柔らかさなどすべてが数年来一番の仕上がり具合に見えた。

彼らは確実にレベルアップしていた。

ここ数年、「よくなってきている」と思わせるものはありながら、本番では力を出せなかったり、怪我でメンバーから外れざるを得なかった選手たちが、やっと揃ってきた! と思える演技をしていたのだ。

この日は、朝から1日練を予定しているとのことだったが、長い練習にもかかわらず、だれることもなく、とにかくひたむきに練習する。この時期、どこのチームも一生懸命練習しているのは普通のことかもしれないが、それでも秀峰の選手たちの「生真面目さ」は、特筆もののように感じる。

これは、「持たざる者」だけが持ち得る真面目さなんじゃないかと思う。

思うような結果に恵まれたことがない。だから、ここまでやれば十分、と安心できない。

だから、手を抜くことなく、気をゆるめることなく、頑張り続ける。そうするしかないのだ。

今まではその生真面目さが、本番では裏目に出ていた。

でも、今の彼らにはそんな過去の自分たちを払拭できるだけの力がついている。

いよいよ今日(6/15)行われる九州総体団体競技。

男子の試技順は、福岡舞鶴、鹿児島実業、芦北、そして小林秀峰と続き、神埼清明がトリになる。

鹿実、芦北も間違いなく強い。その後に登場する小林秀峰は、果たしてそれを上回るインパクトを与える演技を見せられるのか?

その可能性はおおいにある、と思う。

今年の小林秀峰のメンバーには、2020年に本来ならインターハイに出場していただろう選手の弟が2人入っている。

4年前に兄たちが立てなかった舞台に立ち、この4年間で積み重ねてきた悔しさを吹っ切るために、彼らは懸命に自分達の新体操を磨いてきた。

まずは九州総体、そして、インターハイでも。

小林秀峰は侮れない!