「屋根の上のバイオリン弾き」(岡山南高校)

先日やっと記事を書けた日ノ本学園の「007」と並んで、2023年に見た団体作品でとても印象に残っているのが、岡山南高校の「屋根の上のバイオリン弾き」です。

この演技は、インターハイの配信で見たとき、途中までとてもいい! と思って見ていたのですが、中盤以降に大きなミスが続いてしまい、インターハイでは16位でした。E(実施)得点は3.850。減点も0.9ついているので、落下場外も複数回あり、選手たちにとっては悔やんでも悔やみきれない演技だったろうと思います。私も、途中までは「これはジャパンいけるのでは?」と思っても見ていただけに後半の崩れっぷりはとても残念でした。得点や順位もさることながら、途中まではしっかりと描けていた「屋根の上のバイオリン弾き」の世界が、ミスが続いてしまったことで最後まで描ききれなかったことが残念でたまりませんでした。

これはかなりの名作なのでは? と思わせるものがあっただけに、です。

そのインターハイの1か月後、鹿児島で行われた国体で岡山県チームとして出場した岡山南高校は、この舞台で見事にインターハイの雪辱を果たしました。見ていてスカッとするノーミス演技。それも、単にミスがなかっただけでなく、じつに表現力豊かで、「屋根の上のバイオリン弾き」の曲を使っているだけにまるでミュージカルでも見ているような気分にさせてくれる演技だったのです。

2022年の井原フェスティバルでの岡山南高校の集団演技を見たのですが、そのとき、選手たちの動きがとても素直で美しいこと、表情豊かなことに感心したことを思い出しました。あのときの選手たちがこの見事な団体作品を見せてくれたことがとても嬉しかったし、あのとき感じた「このチームいい!」という印象はやはり間違っていなかった、と思えました。

日ノ本学園の「007」もそうでしたが、岡山南のこの作品も曲の使い方がとても巧かったと思います。「屋根の上のバイオリン弾き」の中でも、よく知られた「サンライズサンセット」と「婚礼の踊り」を組み合わせ、曲によく合った民族舞踏的なステップや動きが効果的に使われていました。いきいきとステップを踏む選手たちが、このミュージカルに登場する娘たちのように見える、そんな演技であり作品になっていました。

「007」は、そのメインテーマをじらして後半で出すことで大きなインパクトを与えていましたが、こちらは全編通じて「屋根の上のバイオリン弾きだ」とわかる曲の使い方、そして、その世界観がより伝わりやすい振付、表現で観客を引き込むことに成功していたと思います。国体で見た完璧版のこの演技は、やはり「ジャパンに出てもおかしくない」と感じさせるもので、実際に岡山南高校はこの演技で、28.800と出場チーム中4位にあたる高得点をたたき出しました。中でもA(芸術)は、6.850と出場チーム中4番目に高い得点でした。そして、団体でのこの高得点により、岡山県は1日目の個人競技での10位から5位まで総合成績も上がったのでした。

国体での好成績も嬉しかったに違いありませんが、おそらく岡山南の選手たちは、インターハイでは果たせなかったこの作品をいい状態で観客に届ける、ということが果たせたことでかなり満足できたのではないかと思います。しかし、失意のインターハイからの1か月でここまで完成度を上げてきたこと、その力を本番で発揮できるメンタルを作り上げてきたことには感服するしかありません。

おそらく、彼女たちがそれだけの力を発揮できたのは、この作品に懸ける思いが強かったからではないかと思います。その強い思いがあったから、この演技からは「伝えたいもの」がビシバシ伝わってきました。インターハイでのミスでくさらず、国体に向けて彼女たちが努力し、この日、この演技をやり切ってくれたこと、見せてくれたことに感謝! したくなりました。

<写真提供:岡山南高校新体操部>

〇岡山南高校の演技は、以下の「国体チャンネル」で見ることができます。1:23:00~あたりからが岡山県チームです。

https://japangamestv.japan-sports.or.jp/kyougi/gymnastic/3017

(ちなみに、1:45:00あたりから兵庫県の演技です。作品は「007」ですが、兵庫県選抜メンバーのため、インターハイ、ジャパンとはメンバーが違っていますが、このときの演技も素晴らしいです)