松坂玲奈選手が個人総合優勝!~ポルチマン国際トーナメント

暫定首位で迎えた後半種目でも、松坂選手の演技には躊躇がなかった。

後半最初の種目リボンは、試技順1番。

点数が出にくいと言われる試技順1番、それも減点が出やすいリボンということで果たして? と思われたが、大きなミスなく松坂選手が演技をまとめると、得点は29.500。30点にはのらなかったものの、得点の出にくいリボンとしては十分な高得点だった。

 

そして迎えた最終種目・クラブはまさに盤石。

まったく難しいことをしているようには見えない(しているのに!)演技を涼しい表情で通しきり、30.650。フープに続いて2つめの30点台をマーク。後半種目は出番が早かったため、優勝が決まるまではかなり長い待ち時間となったが、終わってみればボールだけが2位だったが、他3種目で1位という限りなく完全優勝に近い圧巻の個人総合優勝だった。

しかし、ここにきての松坂選手の快進撃には本当に驚くばかりだ。

いや、驚きだけでなくおおいに感動をもらっている。

日本の選手が、海外の試合で活躍していること、高く評価されていること、それだけで感動したり興奮しているのではない。

おそらく、昨年の全日本選手権での松坂選手がとても強く印象に残っているから、だからこそこんなに感動しているのだと思う。

そもそも、昨年行われる予定だったユニバーシティゲームスやアジア競技大会に国内予選1位通過で日本代表として出場するはずだった松坂選手。

そこが松坂選手にとっては、初の日本代表としての国際大会になるはずだった。大学4年生だった松坂選手にとっては、学生最後の年に巡ってきた最大のチャンス。新体操選手は大学卒業時に現役引退する選手が多いため、もしかしたらそれが松坂選手にとっては「最初で最後の日本代表として出場する国際大会」になる可能性もあった。

が、新型コロナの感染拡大によって両大会は中止。長い時間をかけて手に入れた「日本代表」は幻になってしまった。

それでも、全日本選手権に挑む松坂選手のアグレッシブな姿勢を見る限り、「これで終わり」と思っているようには見えなかった。

おそらく、全日本選手権を上位で通過し、2023年の代表選考会にもチャレンジし、今度こそ「出るはずだった舞台」を目指すのだろうと思えた。

演技も、ミスなく精度が高いうえに、エネルギッシュで会場を巻き込む力があり、この全日本選手権に懸ける松坂選手の思いが痛いほど伝ってきた。が、ルール改正の影響なのか、シーズン最後の公式大会である全日本選手権では過去にもありがちだった「世代交代」の空気ゆえか、松坂選手の点数は意外にも伸び悩んだ。個人総合では、クラブ6位~ボール8位と、3位位以内に入れる得点はどの種目でも出ず、個人総合7位。翌年の代表選考会への予選は突破できたものの、本人が目指していただろう結果ではなかったと思う。

そして、それは会場で松坂選手の演技に惹き込まれていた観客の受けた印象とも違っていたように思う。

それを証明したのは、3~4日目に行われた種目別決勝だった。

種目別決勝フープでは6位、ボールでは5位。どちらも悪くない、十分にパワフルで表現豊かな演技を見せ、ミスらしいミスもないように見える演技なのだが(審判目線だと違うことは理解できるが)点数が伸びない。大会3日目にして、さすがの松坂選手の表情も少し曇ってきたようにも見えていた。

自分がミスして点数が低くなったときよりも、悪くない演技をしているのに点数が伸びないときのほうが選手のショックは大きいと思う。

2022年の終わり、そして大学生としては最後になる全日本選手権でのこの点数の伸び悩みは、かなり堪えているのではないかと思った。言ってみれば、「もう大学卒業だし、ルールも変わったし」と、引退勧告を受けているような、そんな風にも感じているんじゃないだろうか、と心配にもなってしまった。

大会4日目の種目別決勝。クラブでは4位。じわじわと順位が上がってはきていたがメダルには届かない。それでも松坂選手の演技には、迷いは見られなかった。おそらく「自分のやるべきことをやるしかない!」そんな覚悟が決まっているんだろうな、と感じる演技だった。

最終種目はリボン。

疲れも出てきている最後の種目。ミスも出やすいリボンだが、ここでも松坂選手の演技には大きな綻びはなかった。最後まで全速力で駆け抜けた、そんな演技からは、「あきらめない気持ち」が伝わってきた。だからこそ、会場の拍手は、おそらくどの選手に対するよりも大きかった。みんながこの4日間での松坂選手の健闘を称えていた。

このリボンの演技で松坂選手は、27.300をもぎ取り、種目別リボンの銅メダリストになった。2022年の全日本選手権で松坂選手が得たメダルはこの1つだけだった。2021年の全日本選手権では個人総合準優勝だった選手だ。春先の代表選考会では1位通過だった。たしかに2022年からのルールは、以前のルールに比べるとやや松坂選手には不利かとも思われたが、表現力の課題もかなりクリアしてきていた松坂選手にとって、この2022年の全日本選手権の結果は、苦い記憶ではないかと思う。

4日間の大会中は、気持ちを切らさず最後まで自分らしい演技をやり通し、メダルも獲得したものの、大会を終え、大学卒業を前にしたときに、果たして「来年も頑張ろう」と思えるのだろうか、全日本が終わったときに、そう案じていた。

「ここが潮時」

そう感じたとしても無理もないと思ったのだ。

しかし、松坂玲奈は、今年の2~3月のコントロールシリーズに出てきてくれた。

そこで、コントロールシリーズを通してのベスト3スコアで2位となり、ユニバーシティゲームズとアジア競技大会の日本代表の座を勝ち取ったのだ。彼女はあきらめないでくれた。その思いの強さで道を拓いたのだ。

松坂選手は、手具操作が抜群に巧みで、演技の安定感があり、技のキレがいい。能力的なアドバンテージもたくさん持っている選手であることは間違いないが、彼女をここまでの選手にしたのはなんと言ってもその「あきらめない気持ち」だ。普通ならくじけそうな、腐りそうな状況でも、投げ出さず、いわば淡々とやるべきことをやり続ける。おそらくこの選手はずっとそうやって育ってきたのではないか。

そんな雑草のような強さが、今、世界の舞台でも輝きを放っている。

ユニバーシティゲームズは、7月29日から成都(中国)で、アジア競技大会は、10月6日から杭州(中国)で開催される。

そこでも、松坂選手の演技にもおおいに期待したいと思う。

期待はしたいが、それを重荷に感じる必要はまったくない。あきらめてもおかしくない状況を切り拓いてきたのは誰でもない松坂選手自身なのだから、自分の力で手にした舞台は、彼女にとって「最高に楽しめるもの」になればそれでよい。

結果は気にせず。どこまでも自分らしく。

「自分はこれでいい」という自信は、この2つの国際大会でしっかりとつかめたはずだ。

あとはどこまでも、突っ走ればいい。

松坂玲奈選手、ポルチマン国際トーナメント個人総合優勝、おめでとうございます!

<写真提供:東京女子体育大学新体操競技部>