日本女子、個人総合も大健闘!~村上茉愛(個人総合6位)

 

寺本明日香の個人総合9位も立派なものだと思うが、さらに嬉しいサプライズを起こしてくれたのが村上茉愛だ。

第2班(予選7~14位)で登場した村上は、段違い平行棒からのスタート。

かつては苦手種目で、国内大会でもよく落下していた段違い平行棒だが、今大会の村上は団体予選、決勝とも安定感のある演技を見せ続け、それは個人総合でも変わらなかった。13・800で1種目目終了時11位となる上々のスタートを切った。

2種目目も、以前の村上は苦手だった平均台。ところが、今の村上はこの種目も難なくこなし、キレのいい演技を見せて14・033をマーク。2種目終了時の順位は13位となったが、残る2種目は村上の得意なゆかと跳馬。後半の追い上げがかなり期待できる、という順位で前半を終えることができた。

 

そして、3種目目のゆか。

団体予選のときは封印し、決勝では見事に決めたH難度「シリバス」を、ここでもぴたっと決め、「村上茉愛のゆか」を存分に見せつける演技だった。さらに難度の高い技を実施するだけでなく、村上のゆかは曲をよく表現できている、と思う。正直、最初にこの演技を見たときには、村上茉愛のもつはつらつとした勢いが以前ほど感じられない気がした。彼女のよさはもっと威勢のいい曲のほうが引き立つのではないかと思ったのだ。

しかし、演じ続けているうちに村上はどんどんこの曲と演技を自分のものにしてきた。以前よりは大人びた雰囲気の曲や振りだが、それがしっくりなじんできたのだ。

2013年、世界選手権初出場だったときの村上にはゆかでのメダル獲得の期待もかかっていた。今、日本には宮川紗江という新しいゆかのホープが生まれ注目を集めているが、宮川以前は、村上こそは「日本女子のゆかで、やっと現れた世界に通用する可能性をもった選手」と言われていたのだった。

今大会を通して、村上は、ゆかでの自分の存在意義を示して見せた。

「宮川だけじゃないぞ!」と、世界に向けて知らしめた。

団体総合5位。じわじわと力をつけてきている日本の女子。それもかつては苦手だった「ゆか」にも強い選手が育ってきているということを世界に向けてアピールできた。

種目別ゆかでのメダルが期待される宮川はもちろんのこと、村上茉愛という「ゆかに強いオールラウンダー」も日本にはいるということ。それは日本にとっては心強く、ライバル国にとっては脅威だ。

第3種目を終えて村上の順位は13位。そして、最終種目・跳馬を迎える。

村上の跳馬は「ユルチェンコ2」。今大会、団体でも宮川と並んでおおいに得点を稼いできた跳馬で、村上は最後も着地までぴしりと決める素晴らしい跳躍を見せ14・966。

この最終種目での高得点で村上は上位をごぼう抜きし、終わってみれば、個人総合6位になっていた。

ほんの1週間前まで、村上茉愛は「リザーブ選手」だった。それが、世界選手権では初の個人総合に進出し、そこで6位になった。

さらにひるがえれば、4月の全日本選手権では明らかに調子をおとしており、キレのない動きでミスも連発し、「今年の村上は代表はないな」と思われていた選手なのだ。それが、たった半年でここまで蘇生した。

新聞報道によると、全日本選手権後の日本体育大学の瀬尾京子監督からの言葉が変わるきっかけになったという。

日本体育大学という大勢の仲間たちが切磋琢磨しながら自分を磨いている場に村上がいたということも幸いしたようにも思う。頑張っているのは自分だけではない、もっと頑張って、それでも報われずにいる人だっている。当たり前のようで、トップ選手になると見失ってしまいがちなことにも改めて気がついたのではないかと思う。

大学を代表して試合に出ることの意味。

ましてや日本を代表して試合に出ることの重み。

それは、「たくさんの人の思い」を背負うことなのだと、以前よりもずっと村上は意識しているように感じられた。今回は、直前での選手交代となった内山由綺の存在もあり、なおさらだったろう。

そういう「思いを背負うこと」が、プレッシャーになる選手もいるが、今大会での村上はそれを力にした。

 

思えば、団体決勝のあと、村上は言っていた。

「(1種目目も平均台でミスはしたが)他の国にもミスは出ていたので、粘っていけばあがっていけると思ってた。」

明るく元気いっぱいなキャラクターとはうらはらな冷静さと、いかにも村上らしいポジティブさを併せもっていたことで、団体決勝最初の種目でのミスを残り種目でリカバリーした村上の気持ちの強さは、個人総合でも変わらなかった。

いったんは代表入りを逃した選手が、半年後に世界6位になった。

このことは、多くの日本人選手にとっての希望となる。たとえば、今回は故障に泣いた内山由綺も、杉原愛子も。数年前の村上同様、今は「ゆかと跳馬のみ世界レベル」の宮川紗江も。もちろん、今回は代表入りしていない日本の選手たちにも、「可能性はあるのだ」と村上の健闘は教えてくれた。

男子のように「団体金」は、まだまだ遠いかもしれない。

しかし、日本の女子の体操にも新しい時代が来ている。そう思う。

TEXT:Keiko SHIINA      PHOTO:Yuki SUENAGA/Yuu MATSUDA ※国内大会のもの