2014体操ワールドカップ東京大会 記者会見/加藤凌平

昨年は、東日本インカレでつり輪の器具破損という思いがけないアクシデントによる故障に悩まされたが、そんな中でも、初出場となった世界選手権で個人総合銀メダルを獲得。ちょうど1年前のワールドカップ東京大会でも、内村選手が出場を見合わせたことによる急な出場だったにもかかわらず銀メダルと、加藤凌平は、苦しみながらも充実した1年を送ったように見える。

 

公開練習でも、相変わらずのマイペースな練習ぶりで、気になることがあるととことんつめてやっている。この日は、つり輪にずい分長く時間を割いていて、なにか不調があるのか? と心配になるほどだったが、会見でそこを突っ込まれると、

「最初の輪のにぎりかえがうまくいかずに何回も確認しました。技には問題ありません。」とさらりとした返答だった。

父であり、コナミの指導者である加藤裕之氏が、なにか話しかけていたが、どんなアドバイスだったのか、と聞かれたときも、

「父からは、よかったところを“いいんじゃない”と言われたり。そのくらいの会話です。」

と、ここもクールな受け答え。

 

しかし、大会への抱負を聞かれたときは、これまでの加藤からは聞かれなかったような強気な発言も飛び出した。

「今季初の試合なので、結果よりも内容を重視したいと思っていますが、その中でも、優勝も狙いながらやります。

(勝てば)代表内定もありますが、そこはあまり気にしていない、代表は、NHK杯で勝ちとろうと思っているので、ここでもしもとれたら、それはボーナスみたいなもの。でも、試合の流れで、自分が狙える位置にいるとなったら、しっかり狙っていきます。」

 

ロンドン五輪代表に決まったとき、感想を聞かれても、「まだ信じられない」「実感がわかない」を繰り返していた選手が、わずか2年後(正確にはまだ2年たっていない)、こんな風に、自信を表に見せるようになるとは。伸び盛りの選手、おそるべし、だ。

 

加藤の自信を裏付けは、着実にDスコアを底上げできてきていることにある。

大学での練習で挑んでいる構成だと、6種目合計のDスコアは38.6だという。これは、今回の試合で内村航平が予定している38.7とわずか0.1の差だ。

もっとも、この構成で6種目を安定して通すことは、まだ難しいそうで、「個人総合は体力的に余裕をもたせないときつい」と考えて、加藤は、Dスコア38.1に抑えた構成で今大会には臨む。あん馬と平行棒のDスコアを下げて、いわば安全にまとめていく、という戦略だが、大学での試技会では、「(内村選手と差がついてしまう原因になっている)あん馬もつり輪も、得点があがってきているので手ごたえは感じています。今回は、無理はしませんが、代表のかかったNHK杯では試合の流れによって、攻めるか抑えるか、考えてやります。」

と、ここでも、より難しい構成でも、やれそうという自信をのぞかせた。その堂々たる受け答えに、記者から「昨年の世界選手権銀メダルでどんな変化があったか?」という質問がとぶと、

「去年は、故障など厳しい状況の中で、練習を積んだ結果が銀メダルだった。そのときは、達成感や満足感を得ることができたし、しっかり練習していけば結果もつくんだ、という自信はつきました。」

と、回答した。

 

会見の最後には、「内村航平選手との距離は今、どのくらいだと感じているか?」と、少し答えにくそうな質問も飛び出したが、

「確実に近づいている、と感じています。自分の演技を完璧にやれて、航平さんが1つでもミスをしてくれれば、張り合えるというところまではきていると思います。少しずつプレッシャーをかけていきたいです。」

と、これも堂々と言ってのけた。

 

絶対王者・内村航平と「張り合える」可能性がある、と思えるところまで、加藤凌平は、急成長を遂げているのだ。

そして、なんと言っても、内村のライバル候補という立場から逃げることなく、加藤がそのポジションにふさわしい選手になろうと覚悟を決めていることが、会見での言葉からも、フロアでの落ち着いた練習ぶりからも感じられた。

期待していいと思う。

 

●加藤凌平

 

PHOTO & TEXT  by  Keiko SHIINA