第52回NHK杯 内山由綺

 NHK杯の女子の得点の計算方法は、少し複雑だ。8日の予選と9日の決勝で構成されているが、女子は5月に行われた全日本選手権の持ち点と、今大会の決勝の得点の合計で争われる。今回の予選の得点は加算されないのだ。そうした事情もあって、予選では難度を落として演技に臨む選手も少なくない。

 

だから8日時点での順位は、純粋に実力順と考えることはできない。だがそれを差し引いたとしても、予選で若干15歳の内山由綺(スマイル体操クラブ)がトップに立ったことは、少なからず驚くべきことだった。

 優勝した寺本明日香(レジックスポーツ)、2位の笹田夏実(帝京高校)、3位の村上茉愛(池谷幸雄体操倶楽部)がいずれも高校3年生と、同世代の若手選手であることが話題になった今回のNHK杯。しかし初日トップの内山は寺本より2つ下。例え彼女が今大会で優勝したとしても、年齢制限で世界選手権の出場権も得られない。そういう年齢だ。

 

 内山の初日の勝因は、全種目をミスなくまとめたことに尽きる。予選は先の3人らと同じ組で回ったのだが、同組ではミスもいくつか見受けられた。特に3種目めの平均台では、内山より先に演技をした2人の選手が落下。連続のミスを見てメンタルに影響があるかと思いきや、ここを慎重にノーミスでまとめ、最終種目のゆかへ。

 

 このゆかが、実に彼女の魅力を感じさせるものだった。すべての着地を完璧に近い形で止め、タンブリングは高さも十分。身長も高い分、見応えがあった。しかしそれ以上に目を引いたのが、演技における表情の豊かさだ。リズミカルな曲が選ばれることが多い器械体操のゆかで、内山が演じたのは中世の舞踏会を思わせるようなクラシックの曲。表現が難しい曲だったが、それだけに彼女の表現力の高さが際立った。指先は先端まで神経が行き渡った繊細な動きをみせ、難しい曲調とも実に良くなじんでいた。体幹にも柔軟性があり、それにより動きの幅は圧倒的に大きかった。

 これに着地の正確さ、さらにまったくブレのないターンなどの要素が加わると、演技の流れを阻害するものはひとつもなかった。華麗な曲に合わせて舞う姿は、完成されたひとつの作品のように見えた。

 

 終わってみれば、初日の1組で唯一のノーミス。だが2日目、決勝になるとやはり先の3人が得点を伸ばしてきた。さらに内山からも「いつもとは全然違うところでのミス」が出た。初日のプレッシャーが大きかったのか、段違い平行棒の倒立で前へ落下。続く平均台でも落下のミスが出た。その後、一度ふっと息を吐いて再び気持ちを入れ直すようにして残りの演技を終え、最終種目のゆかへ。ここで上手く気持ちが切り替えられたのか、ゆかではノーミスの彼女らしい演技を披露。決勝を終えて、7位となった。

 

 彼女の大きな魅力はやはり洗練されたゆか運動だが、この表現力は体操とダンスをやっているという姉の影響なのだという。また、内山の体操の指導をしているのは母の玲子さん。「最初は(表現が)あまりうまくなかったんですけど」とこれまでを振り返る内山は、姉のアドバイスと母の指導で、あれだけの表現力を身につけてきた。ゆか運動といえば新竹優子(羽衣国際大学)らベテラン選手が表現力に定評があるが、内山のそれも彼女らに次ぐレベルと言ってもいいかもしれない。

 

 また内山は2日目のミスについて「2日目は(順位を)狙っていって緊張してしまって、気持ちが前に出てしまって」と話す。エース級の選手と演技をしてなお上を目指し、それで固くなってしまったのだとしたら、それは選手として良い兆候だ。

 

 しかし一方で、2日目のミスの理由はこんなところにもあったようだ。はにかみながら、内山が話してくれた。

 

「1日目はすごくうれしくて。ずっと浮かれないようにがんばったんですけど、ちょっと浮かれちゃいました。でも、ゆかはすごく楽しかった」

 

 屈託なくそう話す15歳の少女は、誰よりも純粋に、今大会を楽しんだようだ。

 

 

Text by Izumi YOKOTA