第52回NHK杯 優勝 内村航平

 6月8日から9日にかけて代々木第一体育館で第52回NHK杯体操が行われ、男子はコナミの内村航平が優勝。史上初となるNHK杯5連覇を成し遂げた。

 試合は圧倒的、という言葉にふさわしい展開だった。ゆかから始まった初日は1本目のタンブリングから、その高さと着地の完璧さで会場を沸かせた。その後も好調で安定した試合運びで、演技の合間、内村からは度々笑顔がこぼれた。そうした調子だったから、初日の最終種目・鉄棒でのかなり予想外のミスは、多くの観客にとっては驚きだった。

 

鉄棒ではダイナミックな離れ技を確実に決めた内村は、そのままラストのひねり技へ。しかしその着地でバランスを崩し、そのままバタン、と後ろに倒れ込んだ。周囲や、恐らく本人さえも驚いたであろう彼らしからぬミスだった。実はこの時、内村はラストの技を2回ひねりにするか3回ひねりにするかで迷っており、演技をしている最中にもまだ決めかねていた。結果、手を放した瞬間にはひねりが追いつかず、着地の乱れにつながってしまったという。

 

 しかしそれでも、初日を終えて2位の加藤凌平(順天堂大)との点差は実に7.5点。ミスしてなお、圧倒的な実力差があることを見せつけた。この時点でそう簡単にはひっくり返らない点さということもあり、2日目は難度を落として臨んだ。

 

 2日目は全種目を確実にミスなく、着地までしっかりきめて、出来に関しては「理想に近い演技ができた」という。難度を落としたことで達成感は薄かったというが、それでも「こういう戦い方もあるんだな」という発見があった。さらに今後についても「2020年には東京五輪が実現すると思っているので、そこまでは現役を続けたい」と話し、リオの先まで見据えていることを明かした。

 また、これまで数々の記録を打ち立ててきた内村。5月に行われた全日本個人総合選手権でも史上初の6連覇を達成した。しかしこれまで記録に対して強い意欲をみせることはなく、先の6連覇の際にも「記録に関してはあまり意識してはいない」といったコメントを寄せていた。だが今回に関しては学生時代の思いもあり、感慨深い部分もあったようだ。

 

「学生の時に具志堅(幸司)先生に『NHK杯で5回優勝しろ』って言われていて。今日試合が終わって先生におめでとうって言われた時にその言葉がよみがえってきて『ようやく5回優勝したんだな』って思って、すごくうれしかったですね」(内村)

 

 日体大の恩師である具志堅さんは同大会を4連覇している。5連覇という数字そのものよりも、恩師の言葉を実現し、思いに応えることができたことに喜びを感じたようだった。

Text by Izumi YOKOTA