内村航平~recovery 第67回全日本体操個人総合選手権

 5月12日、第67回全日本体操個人選手権。前人未到の同大会6連覇という偉業を達成した内村航平(コナミ)は、会見での「演技を振り返ってどうだったか」の質問に「振り返る余裕もないほどに疲れてます」と苦笑交じりに答えた。それも道理で、五輪後から右肩と右足首の痛みをうったえていた内村は、昨年11月の全日本団体・種目別選手権以来、戦線を離れていた。2カ月ほどの休養の後に練習こそ再開していたが、それでも感覚は元通りとはいかなかったようだ。

 

「体操は1日休むと戻すと3日かかるといわれている中、何もしない期間が2カ月あった。自分の中では戻ってると思ったんですけど、体はすごく素直で『まだまだ戻ってませんよ』という感じがあって。今日はそれを凄く感じました」(内村)

 決勝である2日目はそうした体力面も考慮して、あん馬などで急きょ構成を変えて臨んだ。調整の甲斐もあってか、2日間を通じてミスがあったのは1種目のみ。これからのシーズンに向けて好スタートを切るかたちとなった。当分は現在の演技を「より楽に」こなせるようになることを念頭におくが、すでに先を見据えてもいる。

 

「今後は周りの選手の構成なんかを見ながら、演技も変えていきたい。Dスコアは(全体の合計で)1.5か2点は上げられるんじゃないかと思う」(内村)

 

 一方で、自分の後に控える存在についても常に意識は持っている。準優勝には、急成長を続ける順天堂大の加藤凌平。3位にはコナミの田中佑典、4位には順天堂大の野々村笙吾と、若手が名を連ねる。加藤との差は3点以上もあったが、それでも彼を「怖い存在」だと認識している。

 

「凌平はまだ二十歳にもなってない。これからどんどん技を入れても、体力的に問題はない年齢。このまま順調に進化されると、すぐに抜かれてしまう気がします」

 

 同時に、彼らは内村のモチベーションの源でもある。疲れを感じながら臨んだという2日目、その最終種目の鉄棒。もっとも体力的に厳しい局面でも、降り技で3回ひねりを決めて見せたのは、加藤の存在があったからだ。

 

「直前に(同グループの)凌平がバチッと決めたので、自分がそこで2回ひねりで止めても面白くないなと思って。そこは意地でも3回ひねってやろうと思いました」

 

「凌平だけじゃなく、野々村笙吾もいい選手。次の世代を引っ張っていくのは彼らだと思う。もし負けるなら、2人のうちどちらかにと思ってます」

 

 今シーズン初となるこの大会は、6連覇という結果もさることながら、体力面や調整の感覚を取り戻すうえで、大きな収穫になったはずだ。そして久々の大会は、内村にもうひとつの感覚も呼び戻してくれた。

 

「やっぱり五輪メンバーと一緒に試合ができるのは楽しい、というか……こういう風にやるのが、自分らしくていいな、と。試合やらないなら体操じゃないな、という感じがします」(内村)

 

 約半年ぶりの公式戦にして、リオ五輪へ向けたスタートでもあった今大会。彼が、もっとも自分らしくいられる場所に帰ってきた。

Text by Izumi YOKOTA