華麗に変貌した「女子ゆか」の驚き~ワールドカップ東京大会

華麗に変貌した「女子ゆか」の驚き~ワールドカップ東京大会

 

「寺本明日香、優勝!」にわいたワールドカップ東京大会が終わって、すでに2週間になろうとしているが、明日からは、女子新体操の頂上対決となる「ユニバーシアード&アジア選手権代表決定戦」が2日間にわたって行われる。

 

今回の代表決定戦は、勝敗はもちろんのこと、今シーズンから新体操もルールが改正され、「より芸術性を重視」したルールになったため、そのことが選手たちの演技にどう反映されているかも気になるところだ。

 

正直、「芸術性」という抽象的なものの評価は、非常に難しいため、「芸術性重視」とは言っても、それほど変化はないんじゃないか? という予感もあった。

が、じつは体操ワールドカップでの「女子ゆか」を見て、その予感は吹き飛んだ。

いや、吹き飛ばなきゃ困る! と思った。

 

体操も、今シーズンからルールが変わっており、種目ごとに様々な変更があるのだが、「女子ゆか」に関しては、まさに「芸術性重視」が強く打ち出されているのだ。

新体操ならまだしも、体操で、だ。

 

新体操と比べてしまえば、体操の「ゆか」は、芸術性では劣る、という印象が昨年まではあった。音楽も流れてはいるが、多くの選手にとってそれはBGMに過ぎず、音と動きが合っていない、ということもそれほど問題視されていないように見えた。

なによりも、昨年までの「ゆか」は、フロアにのっている選手は、体操選手そのものでしかなく、「何かを演じている」という印象はなかった(もちろん、一部には表現力豊かな演技をする選手もいたが、少数派だった)。

女子といえど、男子顔負けのタンブリングを、あれだけ繰り出すのだから、まあ、それも無理はないのだろう。と今までは思っていた。ところが・・・だ。

 

ワールドカップ東京大会2日目。女子の最終種目となった「ゆか」最初の演技者は、美濃部ゆう(朝日生命)だった。

これは、素晴らしい演技だった。音楽がよく聴こえてくる演技で、体操選手の中ではベテランの域に達してきた美濃部ならでは、の深みが感じられた。

こういった表現力を見せてくれる「ゆか」の演技は、あまりないので、これはとてもよかった! と思った。今大会では力を出し切れず、悔しい思いをしただろう美濃部が、最後の種目を笑顔で終われたことにもホッとした。得点も13.225と、まずまずの点が出た。

 

続くエリーザ・メネギーニ(イタリア)は、「天国と地獄」にのせて、弾むようなステップがふんだんに入った楽しい演技を見せる。おまけにタンブリングも強い! 得点は13.275。

3番目に登場したのは、チャーリー・フェローズ(イギリス)。この選手は、着地がやや落ち着かず、場外もあり、バタバタした演技になってしまい、得点は12.925。それでも、振付はかなり凝っていて、腕をぐるぐる回すラスト近くの動きがとても印象的だった。曲にも声が入っており、斬新だった。

フォアン・チューショアン(中国)は、フロアに入ってくるところから、演技に入り込んでいた。大人っぽく妖しい雰囲気の曲だったが、中盤は転調して明るい雰囲気で軽快な動きも見せ、ドラマチックな演技で、13.100。作品としての面白さ、美しさも十分にあるうえに、タンブリングの着地もぴたりと止まっているのだから、高得点にも納得だ。

続いてもう1人の中国選手が登場する。シャン・ツンソン(中国)は、1996年3月18日生まれで、寺本明日香と同じ17歳。寺本同様、かなり小柄な選手だが、前日の段違い平行棒、2日目の平均台と、すさまじいまでの高難度の演技を見せていた。そして、ゆかでも。

3回ひねりも軽々こなし、おまけに切り返しで前宙をつけるほど余裕がある。ターンもなんと4回ターン! スピード感にあふれ、攻めに攻めた演技だった。若い選手なだけに、表現力という点では今一歩、動きがそっけないようにも感じたが、それをうまくカバーするユニークな曲と振付でチャーミングな作品に仕上がっていた。得点は、13.850!

エルザベス・ブラック(カナダ)は、とにかく脚力が強い。その強さは、跳馬2位という実績からもわかるが、案の定、このゆかでも、脚力の強さを見せつけた。さらに、大人っぽい容貌をいかした、女性らしい表情と動きもふんだんに見せる大人の雰囲気の演技で、強さだけではない魅力全開。13.625という得点をたたきだす。

7番目に登場したのは、この時点で寺本と熾烈な優勝争いを演じているペイトン・アーネスト(アメリカ)。まだ16歳で、今回が国際大会初出場というアメリカの新星だ。

この選手は、もともと美しいラインや華やかさをもっているので、フラメンコ調の曲にのって踊れば、それだけで美しく見えてしまう。とくに表現力に恵まれた選手、という印象はないが、それでも観客に感嘆のため息をつかせるだけの美しさは十分にある演技で、13.875。空中でさらにふわっと浮き上がるような高いタンブリングは、華麗だった。

そして、最後に寺本明日香(レジックスポーツ)が登場し、どこまでも落ち着きはらった演技で、着地もぴたりぴたりと止め、13.800をマーク。2位との差はわずかに縮まったが、逃げ切って優勝を決めた。

寺本のゆかの演技は、ロンドン五輪のときと同じ曲と構成だった。新ルールに対応して、かなり振りを入れ込み、表情豊かに「表現」を見せた外国人選手に比べると、「従来のゆか」という印象は否めなかった。が、それは、ロンドン五輪後の怪我、手術にともなうブランクを思えばやむを得ないことだし、それでも、抜群の実施で、ゆかでも3位に相当する得点をキープできたことを褒めるべきだろう。

 

ただ、今回の外国人選手達の演技を見る限り、「ゆかは芸術性重視」というルール改正は、思った以上に浸透していた。旧ルールのときの、「ゆか」とはまるで別モノに私には見えたほどにだ。

あれだけの技をこなしながら、芸術性や表現力を求める、というのはないものねだりなのでは? という危惧を見事に吹き飛ばす演技を見せてくれた選手達、関係者には、ただただ敬意を表したい。

 

そして、これを見て思ったのは、「新体操も頑張れ!」ということだった。

半年前までは、「音楽がバックに流れている運動」にしか見えなかった女子のゆかは、見事に「Artistic Gymnastics」に生まれ変わっていた。こんな短期間で、こんなにも変われるんだ! という驚きを与えてくれた。

 

まさに、「やればできる!」を実践したのだ。

 

新体操にもできないはずはない。

 

2013年。

体操も新体操も、見る側にとっての魅力はぐっと増すことになりそうだ。

 

【お知らせ】

ワールドカップ東京大会の様子が、4月20日(土)26:25~27:25(つまり、土曜の深夜、日曜早朝)に日本テレビで放送されます。1時間の枠なので、女子のゆかはほとんど映らないかもしれませんが、ぜひご覧ください。残念ながら放送は関東ローカルです。

photo by Tatsuya OTSUKA   text by Keiko SHIINA