豊田国際体操競技大会/隠れた快挙(ドイツ選手団)

今回の豊田国際では男子2名、女子1名の計3名が出場したドイツ。

 

2007年世界選手権の団体3位入賞が「シュツットガルトの奇跡(Wunder von Stuttgart) 」と呼ばれ、ファビアン・ハンビューヘンやフィリップ・ボーイ、それに今回の来日メンバーでもあるマーセル・ニューエンのようなスター選手が台頭して来たあたりから「体操競技発祥の国」としての誇りを取り戻したようにも見える。

 

(ところで「シュツットガルトの奇跡」というとまるで日本のサッカー界における「ジョホールバルの歓喜」のような通称なのかと思われるが、実はドイツに存在するレタスの一種の名前になぞらえただけである)

 

マーセル・ニューエンはつり輪と平行棒に出場。つり輪ではザネッティ(ブラジル)に及ばなかったものの、安定性のある静止技と確実な着地で観客を沸かせた。

 

平行棒では降り技の「カトウヒロユキ」で知られるが、本番では2回宙返りに留めた。

つり輪では15.375、平行棒では15.250でどちらも3位。

 

怪我などの大きな故障がなかったにも関わらず、来年のオリンピックに向けて新技の習得に集中するために今年のアントワープ世界選手権を欠場したニューエン。その技が完成するのはいつになるのか、ファンをやきもきさせる事になるだろう。

 

もう1人の男子選手、アンドレアス・トバはあん馬、つり輪、跳馬、そして鉄棒に出場。

あん馬では僅差でメダルに届かず、つり輪では最後に尻もち。跳馬も着地を決めたもののやはり4位止まり。

 

一方では女子床で、大会1日目に誕生日を迎えたピア・トーレが2位となり、ドイツ勢ではまだトバだけがメダルを持っていない状況になった。そして最後の出場種目・鉄棒。

ロンドン五輪日本水泳チームの「(北島)康介さんを手ぶらで帰すわけにはいかない」ではないが、ニューエンとベレンキコーチも加わってトバの演技準備をする姿に、似たような思いを感じたような気がした。

先週のグラスゴー国際では失敗したコールマンも含めた4つの離れ技を成功させ、19.925点で2位。これで出場したドイツ選手全員がメダルを獲得したことになった。

表彰式ではドイツ選手団がこぞって表彰台前に陣取り、トバの勇姿をカメラに収めようとしていたのも、彼らの嬉しさが感じられる場面だった。

 

ところで現地では池谷幸雄が技の数々などを解説し、その中で笹田夏美選手などが親も体操選手である事に言及していたが、このトバ選手の父親も元体操選手のマリウス・トバ。88年ソウル五輪のルーマニア代表だったが後にドイツに移住。96年アトランタ五輪、シドニー五輪のドイツ代表であり、95年の世界選手権鯖江大会でも来日している。

そんな父親のルーマニア人脈が生きているのか、帯同していたコーチもアドリアン・カタノイウ。89年・91年世界選手権のルーマニア代表だった人物だ。

 

 

日本からは内村、白井を始めとするトップ中のトップ選手が揃い、特に1日目においては常に表彰台の上に日本の誰かが立っていた。そんな中、出場選手3人が全てメダルを獲得するという快挙をドイツが成し遂げたのは、大健闘ではなかったのだろうか。

 

それに、国際試合なのに日本選手の活躍ばかりが目立つのは却って寂しいから…。

平均台では序盤の台に近い動きや確実性が高く安定した技で魅了したトーレ。「素晴らしい演技」はドイツ語で「Tolle Übung」というが、地元の新聞や雑誌ではそんな見出し記事が踊っているに違いない。

 

PHOTO & TEXT by Katja