豊田国際体操競技大会/2日目レポート

前日の種目別選手権前半種目に引き続き、本日12月15日、スカイホール豊田にて豊田国際体操競技大会、種目別選手権の後半種目が行われた。

 

本日は男子が跳馬、平行棒、鉄棒の3種目、女子が平均台、ゆかの2種目である。

そして、今大会は今シーズン最後の大会であり、1年を締めくくる大会だった。

まずは男子跳馬から始まる。

前半種目のゆかで内村選手に次ぐ3位という好成績を残していたPARK Eo Jin選手。2本ともDスコアが特別高いわけではなかったが、むしろ種目別でメダルを取るには少し設定が低いともとれるが、だからこそ、確実な実施で大過失を防いだ。どちらも着地は1歩までに留め、余裕のある実施で2本の平均は14.562とまずまず。他の選手がミスをすれば上位にギリギリ食い込めるかも、というあたりか。

 

 

同じく前半種目のゆかでも注目していたが、ミスが続いたKristian THOMAS選手。跳馬では挽回できるかとこの日も注目していた。練習を見ても、その迫力ある高い跳躍に興奮してしまう。わくわくして跳馬の演技を迎えた。しかし、今度もうまくいかなかった。高さはあったのだが、勢いがよかったためか前に手を突いてしまう。2本目のローチェも崩れ、とても悔しそうな表情を見せた。

 

 

ベトナムのCuong HOANG選手は1本目のドリッグスでラインオーバーはあるものの、1歩にまとめる着地。2本目のヨー2では少しひねりが足りないような印象を受けたが、高さのある実施で15.100をマーク。

 

 

そして最終グループはなんとも豪華な組み合わせ。五輪で怪我をしてしまう以前は、種目別では跳馬にもエントリーしていた山室選手、そして今話題である白井選手の新技のひとつ、シライ/キム・ヒフン(ユルチェンコ3回ひねり)のKIM選手と白井選手が直接対決をする。

 

山室選手は前日の会見でも「怪我をしてから跳馬はまだ恐怖心がある。でもだからこそ出場しようと思った。」と語っていたので、どきどきしながら見ていた。しかし、見せてくれた実施はなんと着地を完全に止めたものだった。会場からも声が沸く。続く2本目。1本目がよかっただけに期待してしまったが、腰が引けるような形でしりもちの着地。少し怖がっているようにも見えた気がした。1本目がよかっただけに惜しい。本人は「失敗してしまったけど、久しぶりの跳躍で1つは着地を止められたということで、跳馬自体はよかったと思う」と、ポジティブに前を向いていて安心した。

 

 

注目の集まるKIM選手。1つ目のヨー2は小さく1歩にまとめて15.250をたたき出す。2本目が話題のシライ/キム・ヒフンという技。低くなってしまうも、なんとか着地。こちらも1歩にまとめて15.125を出し、2本平均がなんと15.187。この時点で、2本とも6.0のDスコアをそろえてきているKIM選手に対し、白井選手の2本目はD5.6のドリッグスなので、KIM選手を越える得点は難しくなる。

 

 

白井選手は1つ目がシライ/キム・ヒフン。着地が横に流れてしまい、しりもち。これで表彰台も怪しくなってしまう。2本目のドリッグスはあまり失敗をしているところを見ないので安心していたが、こちらもしりもちをついてしまう。結果、2本平均13.912となってしまった。「練習からあまりよくなかった。昨日のゆかみたいに調整不足でどうなるか、と思ってやったらこの結果だった。難度の高い技にするというよりも、ドリッグスをまずは100%決め、着地まで狙えるようにすることが先」とこの先の課題を見つけたようだった。

 

 

白井選手とKIM選手とで、シライ/キム・ヒフンの違いを聞かれたKIM選手は「白井選手は高く上がる、自分はひねる力がえるので、2人のやり方を合わせたらもっとすごくなると思う。」と答え、同じ韓国で跳馬のスペシャリストのヤン・ハクソン選手については「彼を目標にみんな頑張っている。自分もヤン選手を越えたいと思っている」と語った。

 

 

平行棒では加藤選手が気迫の演技を見せる。最後の試合、ということからかいつも以上に練習からすごい集中力だった。演技が始まると、彼の放つものに圧倒された。男子でこんなにも気持ちを感じた演技は初めてだったかもしれない。見事な実施で15.475!

 

 

平行棒ではベトナムのPhuoc Hung PHAM選手の構成に驚いた。大技を次々と繰り出し、演技全体としても大きさを感じた。なんとDスコアは7.0!が、やはりリスクも高く、バータッチが見られたりしてEスコアはあまり伸びず15.225。

 

 

そして平行棒のスペシャリスト、Marcel NGUYEN選手。序盤で多少足割れが見られるものの、倒立はとても美しかった。直前の練習で難度の高い下り技のカトウヒロユキを決めていたが、本番は実施せず。それでも綺麗な演技を見せた。

 

 

そしてこの種目、内村選手がエントリーしている。倒立に収める位置が何かで決められているかのように、毎回全く同じ位置で倒立を収める。その脚の動きは機械のように見えるほど。着地は小さく跳ねたが圧巻の演技で、大歓声を浴びる。

 

 

最終種目となる鉄棒。

この種目にもTHOMAS選手はエントリーしていた。ここまで悔しい実施が続いてしまっていたので、最後うまく締めくくれるといいなと思っていたが、ここでもミスを連発してしまった。スタートはとても高さのある離れ技で会場を沸かす。しかし停滞があり、なんとか続けようとするも体勢を崩して落下。その後も落下が続いてしまった。

しかし、会場から自然と「がんばー!」の声が次々にあがり、温かい拍手が場内を包んでいた。この鉄棒の時間には女子の種目は終わっており、客席が皆鉄棒を見ていたために起こった現象かもしれない。または、最後の最後で会場の雰囲気がひとつになっていたのかもしれない。いずれにせよ、海外から来てくれた選手に対して、そういったあたたかみを持てることはとても大事だと思った。

 

そして、第1グループ最終演技者である内村選手の演技に会場のボルテージは一気に上がる。難度の高い技を美しくこなす彼の演技には、観客の心を奪ってしまうものがある。おそらく観客も彼の鉄棒の演技を楽しみにしていたのではないだろうか。そのことを全て感じ取り、期待に応えるどころか、それを上回るものを「どうだ」と言わんばかりに演技していたように見えた。着地も刺さるように止めて、拍手喝采。やはり彼が「キング」であることを再確認した。

 

 

このあと第2グループの1人目には山室選手が出場した。しかし、鉄棒では落下が相次いでしまった。それに対して会場の掛け声や拍手はどんどん大きくなっていった。ここでも前日に比べ、かなり会場があたたかい雰囲気になっていたと実感した。「鉄棒は散々だったけど、新たな課題が見えた。」と、山室選手は、こちらも前向きに捉えていた。

 

 

女子は平均台から。

前半種目の段違い平行棒では見事優勝したVictoria MOORS選手は、平均台でも素晴らしい演技を見せた。ひとつひとつの技に対して、着地をしっかり決めようとする意識が表れていた。練習ではあまりうまく決まってなかったターンも見事に成功させて14.350の演技。

 

 

それに続く笹田選手。彼女の平均台といえば、まずは上りの技。見事に成功させ、好スタートを切る。それ以降もほとんど完璧な実施をしていたが、ひとつだけ、ひつじ跳びの部分だけが足割れがあり、少し雑に見えた。会見でも「最高だとDスコアは6.3になる構成だが、ひつじ跳びのところでいつも引かれて下がってしまうので、今回もそこを引かれたのかも」と話していた(この日の演技はDスコア6.2)。しかしそれ以外は完璧。本当に素晴らしい実施を見せられて感動した。

 

 

日本女子選手で平均台といえば美濃部選手。笹田選手がほぼ完璧な実施をしたが、彼女はどうか。彼女も笹田選手に引き続き素晴らしい演技を見せてくれた。個人的な感想だが、振りつけの表現が良くなっていた気がした。かなり「表現」になっていたことに驚いた。本人も「今のベストな演技ができたと思う」と言っていた。

 

 

女子最終種目はゆか。

第一演技者はオープン参加となる内山選手。すごく近くで見ていたせいか、いつもよりやや固い表情だと感じた。タンブリングも含め、僅かだが精彩を欠く。前の平均台では落下が相次いでしまったのだが、その影響も少しあったのかもしれない。しかしそれをぱっと見は感じさせない演技だった。このあたりが彼女の持つ素晴らしさなのでは、と思う。

 

 

続く2人目の松村選手もオープン参加。やはり彼女の持つ魅力は表現力。曲がかかると主役になれる。開始10秒ほどで感動により目に涙が浮かんでしまった。2本目以降のタンブリングでは失敗が続いてしまったが、それでも彼女はヒロインのまま。得点は11.050だったのだが、得点を見ただけでは伝わらないことを伝えたくて彼女を取り上げた。

 

 

日本人3人目となるのは先ほど平均台で優勝した笹田選手。練習からも調子は悪くないのでは、と感じていたのだが、小さなミスがあったのがもったいない。構成をかなり変えており、「難度を上げられるように合宿で基礎から見直していて、基礎の技が使える構成にした。」と言っていたが、まだ慣れていないのではないかと感じた。

 

 

続く井上選手。急性の腹痛により棄権となった村上選手に代わり、オープン参加から正式に出場することになったが、終始笑顔で演技していたことが印象に残る。前半種目の段違い平行棒でも姿勢が美しく身体のラインに見惚れてしまったのだが、このゆかでも他の選手にはない姿勢の美しさに目がいった。これまでの日本女子のゆかはミスが続いていたのだが、井上選手の演技は完璧だった。最後のタンブリングまでは。惜しいことに、最後の3回ひねりの着地で転倒してしまう。それでも笑顔を崩さなかったところは良かったが、それまで完璧だっただけにもったいない実施となった。

 

 

そして、初めてのI難度に自らの名前をつけたMOORS選手。世界的にも定評のある彼女のゆかを日本で見られる日がくるとは。注目の演技は、やはり群を抜いて高いタンブリング。1本目から見せてくれた、MOORS選手のムアーズに会場はどよめく。更に彼女の素晴らしいところは、タンブリングだけでなく、表現も突出しているところ。新しい曲での演技だったにも関わらず、ノリノリで全身、いや、それ以上を使って表現しているのだ。彼女の素晴らしさを日本で体感できる、なんて贅沢なんだ、と幸せを感じた。

記者会見では「優勝するつもりではなく、今までやってきたことを試してみたかっただけなので、運良く優勝することができたことに驚いている。ムアーズ(伸身の新月面)は今年の夏の初めに練習を始め、8月の大会ではもう使っていた。」と話し、他の新技はあるのかという質問には「段違い平行棒と平均台で小さな技を含め、いくつかある。これからについては特にオリンピックなどの目標は決めておらず、毎日の練習を徹底していくこと、1日1日を一生懸命にやっていくことが目標だ」と答えた。

 

 

この大会女子の最終演技者となるドイツのPia TOLLE選手。彼女は体操選手にしては珍しく、背の高い選手だ。それも男子選手よりも高い。その身体をふんだんに使った演技を見せてくれた。彼女自身が大人っぽい体格と雰囲気をもっているため、そこを引き出すような構成と振り付けだった。妖艶でほとんどの動きが曲線的であり、こんなにも「女性らしさ」を全面に出している演技はわたしは初めて見た。ただ女性らしいだけでなく、それが作品としての表現に仕上がっているのが素晴らしい。もう一度見たくなるゆかの演技だった。

 

 

今大会を振り返ると、日本選手では寺本選手や村上選手の棄権があり、他の海外選手も棄権が多いような気がした。やはりシーズン最後の大会ということもあって、選手には負担が大きいのではないかとも思った。

しかし、ザネッティ選手のゆかとつり輪や、白井選手とKIM選手の競演、MOORS選手の演技など、なかなか見ることの出来ない演技が見られたのは、とても素晴らしい体験だった。そしてファンの温かさを再確認できた素晴らしい大会だった。

 

今大会は開会式、開始式、閉会式と、地元の体操クラブの子どもたちが選手と手を繋ぎながら入退場する演出があったのだが、閉会式の後、最後には子どもたちが選手に風船でできたプレゼントを渡すサプライズまであった。

演技をしているときの温かい声援や拍手とともに、大会全体として温もりを感じた場面でもあった。

 

 

TEXT by umi   PHOTO by  Katja