第67回全日本体操団体選手権:女子優勝「朝日生命」
2013年11月3日、午前中に行われた女子決勝は、最後の瞬間まで優勝の行方がわからない
ドラマチックな展開となった。
前日に行われた予選では、首位が4連覇のかかった日本体育大学。
6-5-4制(登録メンバー6人の中から1種目につき5人が演技を行い、その中の上位4人の合計点×4種目)
で行われた予選での日本体育大学の総得点は、210.850。
2位のレジックスポーツは、209.350と、1.500差の健闘を見せたが、
3位国士舘大学は、206.300、4位朝日生命は206.200と、その差は大きいように思えた。
しかし、決勝は6-3-3制で行われ、演技する3人全員の得点が生きるため、1つのミスが大きく勝負に関わってくる。
また、少なくとも3人、強い選手がいればチーム得点を下げずにすむ、ということにもなる。
4番目の選手の得点能力までがチーム成績に反映される予選と「3番目まで」の決勝では、じつは大きな違いがあるのだ。
予選の得点を持ち点として残すこともないため、決勝は、各チームの「トップ3」対決となり、予選順位はあまり
参考にならない。そこが団体選手権の面白さであり、厳しさだと、今大会で再認識させられた。
団体選手権決勝では、予選1位チームと2位チームが同じローテーションで回る。
そのため、日本体育大学は予選2位のレジックスポーツと同じ1組で回ったが、予選ではジュニアならではの
「こわいもの知らず」の勢いのある演技で快進撃を見せたレジックスポーツは、決勝ではその力を
発揮し切れなかった。2種目目で迎えた段違い平行棒で、寺本明日香以外の2人に大過失が出て11点台。
試合後の会見で、寺本は「(自分以外は)みんな6-3-3制が初めてだったので、とても緊張していて
チームの雰囲気がどよんとしていた」と語ったが、その緊張が2種目目で悪いほうに出てしまったのだ。
最終種目のゆかでは、3人の合計得点で1位という巻き返しを見せたが、決勝順位は4位と予選よりも後退してしまった。
そんなレジックと同じローテーションの日本体育大学は、1種目目の跳馬でトップの得点をマーク。
2種目目の段違い平行棒では、今大会が復帰戦となった鶴見虹子が14.450と貫禄の高得点をあげ、勢いがついた。
鶴見自身も、「平行棒あたりまでは、(団体優勝)いけるぞ、という雰囲気だった」と試合後に語ったが、
3種目目の平均台が鬼門となった。第1演技者の永井美津穂は、13.350とまずまずのスコアでまとめたものの、
続く鶴見、池尻麻希と落下が続いてしまう。本来なら鶴見の平均台で突き放したかったところで、まさかの失速。
日本体育大学とレジックがゆか、2組の国士舘大学と朝日生命が跳馬を最終種目に残した段階での4チームの得点が、
日本体育大学119.9、朝日生命119.7、レジックスポーツ118.1、国士舘大学116.75という大混戦となった。
こうなると、高得点の出やすい跳馬を残している朝日生命と国士舘大学ががぜん有利になる。
選手達がどの程度、得点経過を意識しながら演技をしていたかはわからないが、仮に知っていたとしたら、
ゆかの演技に向かう日体大の選手達にかかるプレッシャーは大きかったに違いない。
しかし、この極限状態で、寺尾唯、永井、池尻の3人は、しっかりと自分の役目を果たす地に足のついた演技を見せた。
日体大の最終演技者であり、キャプテンの池尻の演技が終わったあと、日体大の選手達は、一様にホッとしたような
表情を見せ、池尻は感極まって涙を見せた。団体優勝も、「いけたんじゃないか」そんな空気がたしかにあった。
「12.900」
池尻のゆかの得点が表示されると同時に、すでに2組は跳馬の試技を終えていたため、総合順位が日体大の
総合得点「158.900」の横に表示された。
(2)
最終種目の跳馬で、スーパー助っ人・Chusovitina Oksanaの14.600を含む40.100をマークした朝日生命が、
得点の伸びにくいゆかで健闘したものの、39.000だった日体大を逆転したのだ。
日体大のゆかは、決して悪くなかった。そのため、「日体大の連覇かな」という空気になっていた会場は、
この (2) という数字にどよめいた。
日体大の選手達の「頑張った、やり切った」という感動の涙は、敗戦の悔しさにくれる涙に一瞬で変わった。
そして、朝日生命応援席から歓喜の声があがり、フロアには、朝日生命の選手達が抱き合って喜ぶ姿があった。
「常勝軍団」というイメージある朝日生命だが、団体選手権で24回の優勝を果たしている「朝日生命体操クラブ」は
朝日生命が運営するジュニア体操クラブで、社会人選手でチームを編成した「朝日生命」としては今回が初優勝。
決勝では、美濃部ゆう、野田咲くら、Chusovitina Oksanaの3人が全種目に出場したことを見ても、予選時の
4番手の選手の得点に上3人との開きがあったことを見ても、「層が厚い」とは言えないチームかもしれない。
それでも、跳馬以外の3種目で高得点をマーク、得意の平均台では出場選手中唯一の14点台と気を吐いた
美濃部。4種目ノーミスでまとめ、「予選では段違い平行棒でミスがあったので、決勝は緊張したが、練習とおりに
やろうと自分に言い聞かせて、そのとおりにできた」と、会心の笑顔で語った野田。そして、跳馬で今大会最高得点となる
14.600を出して試合を決め、「自分に期待してもらえるのは嬉しい」という言葉通りの活躍を見せたChusovitina Oksana。
「2日目になると、どの選手も疲れが出る。気持ちの強さで勝ったと思う。
Chusovitina Oksanaにも、来てもらっているからには、私たちも頑張らなければいけないという
意識もあった。」と美濃部が語ったように、少数精鋭軍団・朝日生命の選手たちの自覚とプライドが
この優勝をもぎとる原動力となった。
個人総合では、悔しい思いをすることも多かった美濃部が、試合後の会見で見せた晴れやかな笑顔と、
「団体優勝できて、今はすごくうれしいです。」
という正直な言葉の前には、ただ、「おめでとう」という言葉しか浮かばなかった。
じつにスリリングで劇的な試合展開に、改めて「体操はスポーツなんだ」と感じた。
前評判や過去の実績や期待値ではなく、その場、その時の演技の評価で勝敗が決まる。
そんな清々しさと残酷さを併せもっている。
しかし、それが「スポーツ」というものだ。だからこそ、今回のようなドラマが生まれるのだ。
PHOTO by Yoshinori SAKAKIBARA TEXT by Keiko SHIINA