第52回NHK杯1日目

第52回NHK杯1日目

 

5月11~12日に行われた全日本体操競技選手権大会(2日間)の最終得点の2分の1を持ち点とし、男子はそこにNHK杯2日間の得点を加えた総合得点でNHK杯が争われる。

6月8日に行われたNHK杯1日目の競技で首位に立ったのは、90.650の内村航平(コナミ)。持ち点と合わせた得点181.825は、2位の加藤凌平(順天堂大)に3.950差をつけての

独走状態だ。

しかし、競技終了後の会見では、「今日はとても調子が良かった」としながらも、後半2種目(平行棒、鉄棒)でミスが出てしまったことで、内村は反省しきりだった。

疲れが出てきて集中力の切れやすい5種目目を、「すごく大事だと思っていた」と言う内村だが、今日は、どうも集中力が切れてしまったらしい。

「体力的には問題なかったが、気持ちの問題」と、平行棒でのミスを、内村は振り返る。

最終種目の鉄棒では、珍しく着地で転倒するという大きなミスをした内村だが、直前まで降り技を「3回ひねりにするか、2回にするか」を迷っていたために起きたミスだという。

普段の練習では2回ひねりにしていることが多く、3回ひねりはほとんど入れていないそうだが、全日本選手権でも本番だけは3回ひねりにして、それも成功している。

2位との得点差もあり、無理して3回ひねりにする必要はない状況だったが、「点数は気にしてなかったので、見せたい、という気持ちが出てしまった」と内村は言う。

その結果、鉄棒単独の得点だと6位にあたる14.900となってしまった。着地以外の部分は、ていねいで美しく雄大な演技ができていただけにもったいないミスだった。

それでも、「自分では回復しているつもりだったが、体はそうではなかった」と語った全日本選手権時に比べて、体調は格段によく、NHK杯1日目は、「ゆかがうまくいったとき

から、今日はいい流れでいけそうと感じた」というほど内村は好調だった。「今日出てしまったミスを明日はしないようにする」と誓った王者・内村航平が、明日の2日目で

NHK杯優勝を決めれば、史上初の5連覇となる。

 

また、2位につけている加藤凌平(順天堂大)を、総合得点1.125差で野々村笙吾(順天堂大)が追っている2位争いにも注目したい。

同じ学年で、ジュニア、高校とライバル同士だった2人は、現在は順天堂大のチームメイトでもあるが、お互いにとても意識はしているとのこと。

5月の大会中につり輪が切れるという事故で肩を負傷し、練習不足のまま今大会を迎えたという加藤は、

今までに経験したことのない疲労感を感じながら「ねばって、持ちこたえての演技だった」と、終始さえない表情だったが、

1日目終了後の会見で3位の野々村について聞かれると、「(野々村とは)お互いベストの演技ができればいいと思っている」と言いつつ、

「負けたくないです」と、このときばかりは笑顔で言い切った。

ロンドン五輪での骨折後、今年の全日本選手権から復帰し、つり輪に種目を定めて、種目別ポイントでの世界選手権出場を目指している

山室光史(コナミ)と内村航平も同級生で、大学は同じ日本体育大学、卒業後はともにコナミと、お互いがお互いに力を与えあってきた

ように、加藤と野々村もまた成長していくに違いない。

 

驚きだったのは、女子での内山由綺(スマイル体操クラブ)の躍進だ。全日本選手権でも5位に入り、存在感を増してはいたが、なにしろまだ

高校生になったばかり。体操選手にしては長身で大人っぽく見えるが、まだ日本代表選手に選出されるには年齢も足りていない選手だ。

しかし、今大会では、4種目すべてに大きなミスなくまとめ、美しくしなやかな動きでは、おねえさん選手たちを凌駕し、NHK杯1日目のみの

4種目合計54.650は、2位・寺本明日香(レジックスポーツ)に0.3差をつけて堂々1位の得点だった。

もっとも、女子のNHK杯順位は、全日本選手権の最終得点の2分の1に、NHK杯2日目のみの点数を足した得点で競うという変則的な

ルールになっているため、1日目の得点は、順位に直接反映はされない。しかし、1日目の内山の健闘は、

2日目に向けての十分なアピールにはなったはずだ。

NHK杯1日目だけの得点だと、内山、寺本に続く3位は、村上茉愛(池谷幸雄体操倶楽部)、笹田夏実(帝京高校)、井上和佳奈(水鳥体操館)、

湯元さくら(ならわ体操クラブ)と、すべて高校生が続く。NHK杯の優勝と、9月の世界体操、10月の東アジア競技大会の代表選考を懸けた

2日目も、若い選手たちの伸び盛りの勢いあふれる演技に期待したい。

 

PHOTO by Yoshinori SAKAKIBARA  TEXT by Keiko SHIINA