2017全日本インカレに向けて~武庫川女子大学

今日から富山市総合体育館で全日本学生体操選手権(全日本インカレ)が始まる。

1部団体、個人総合が行われるのは明日(8月9日)だが、女子に注目したいチームがある。

武庫川女子大学だ。

過去3年間の武庫川女子大学の全日本インカレの成績をたどってみると、

 

●2014年 日体大⇒国士舘大⇒中京大⇒大阪体育大⇒筑波大⇒東京女子体育大⇒武庫川女子大(7位)

●2015年 日体大⇒中京大⇒国士舘大⇒筑波大⇒武庫川女子大(5位)

●2016年 日体大⇒筑波大⇒武庫川女子大(3位)

 

と年々、着実に団体総合の順位を上げてきているのだ。

個人総合でも、2015年には、山口花帆(当時4年)が14位、杉本阿美(当時1年)が16位、夏目侑香(当時2年)が18位に入った。さらに、2016年には本田美波(当時1年)が2位、丸山珠代(当時4年)が17位、小笠原希(当時2年)が19位、杉本阿美(当時2年)が20位、上田幸美(当時4年)が27位、金田明里(当時2年)が28位と30位以内に多くの選手が入るようになった。

そして、今年はさらにすでに関西インカレ、西日本インカレで活躍を見せたスーパールーキーの2人・平岩優奈と刀根綾菜も加入。まさに今、のりにのっている武庫川女子大学は、今年は昨年よりもさらにいい色のメダルを狙えるところにきているのではないか。

7月25日、そんな武庫川女子大学の練習場を訪ねてみた。

体操部の練習場は、中央キャンパスの第2体育館の地下にある。

設備も充実しており、明るい練習場は、かなり恵まれた環境に思える。

さらに、なんと言っても指導陣が充実している。

三井正也部長は、日本体育大学大学院修了後、1982年から現在に至るまでずっと武庫川女子大学に籍を置き、36年間体操部の指導にあたっている。さらには、附属中高校の体操部も指導し、4年前からは「スポーツクラブ武庫女」を開設し、卒業生を指導者に迎えて地域の子ども達(3歳~小学生)への体操指導にも取り組んでいる。

とにかく三井部長からは、「体操が大好き!」「武庫女が大好き!」なエネルギーが溢れ出ている。

さらに、2015年には大野和邦が監督に就任した。

大野は、日本体育大学大学院修了後、日本体育大学女子監督を9年間務め、池谷幸雄体操倶楽部では村上茉愛選手を育て、国体や高校総体で村上の率いる団体を優勝に導いている。

世界選手権やユニバーシアードなどでの、日本代表コーチとしての帯同経験も豊富な大野が監督となったことで、伝統ある武庫川女子の体操部にはいちだんと活気が出てきた。

大野の指導を求めて、武庫川に進学してくる選手も増えてきているという。

大野監督は、選手が成長するために、もっとも必要なのは、「夢に向かってがんばろうという気持ち」だという。さらにその夢に対して、「周囲の大人(指導者)が本気になること」も欠かせない。

夢に向かっていくエネルギーこそが大事なのだ、それさえあれば、体操選手は「練習を辞めない限り進化していくもの」だと大野監督は考えている。

体操選手は、幼いころから体操にかなり真剣に取り組んでいる。それだけに大学生になるころには、「自分の器」を感じ取り、決めつけてしまう場合が多い。

しかし、それでは、次のチャレンジができず、伸びない。

技術を指導する力があることはもちろんだが、大野監督は、その選手たちの「夢に向かうエネルギー」を引き出す能力が長けている。

もちろん、三井部長も同じだ。

 

三井と大野。

この2人は、「武庫女の選手たちの伸びる力」を信じている。

そして、その思いを選手たちに伝えるコミュニケーション能力が高い。

常に明るく、チーム武庫女のグランドファーザーのような包容力のある三井は、どの選手にも気軽に声をかける。

大野は、練習開始前に挨拶に来る選手達全員と必ず握手をする。その握手には、「今日も頑張ろう」という激励や、「今日も元気な姿が見られて嬉しい」といった気持ちすべてがこもっている。

「部員が多いと、その日の練習で1回も声をかけられない子も出てきてしまいます。だから、この握手だけは必ずやるようにしているんです。」

こんな大人が側にいる。

武庫川女子大学の選手たちが頑張れないわけがない。

高校生は高校総体、大学生は全日本インカレが近づいてきている中での練習だったが、武庫川女子では、ランニングに始まり、体作り(基礎トレーニング)にじっくり時間をかけていた。いわゆる腹筋や背筋、柔軟など多種多様なトレーニングをサーキットのように回るのだが、回る順番は選手まかせだ。自分なりのペースで、それぞれに回っている。苦手なものや、とくに強化したいものにはとくに時間を割いている選手もいた。

体作りのあとは、アップに入る。三井部長は、「どんな選手でも毎日、前転から練習している」と言っていたが、その言葉の通りに、前転や倒立など、大学で競技を続けているような選手たちにとっては簡単すぎるだろうものから順序よくやっていく。「体操は積み重ね」とも三井部長は言ったが、たしかにその通りだ。このアップを見ていると、あの有名な猿から人間への進化の図が頭に浮かんだ。見る人の度肝を抜くような難しい技も、もとをただせば前転や倒立、そこがスタートなのだとわかる。

体作りとアップ、これだけでゆうに1時間はかかっただろうか。

その後、チームに分かれ、器具を回るローテーション練習に入る。

 

この日は、インカレチームを主に見せてもらったが、段違い平行棒、平均台、ゆかの順に回っていた。

演技をしている選手の周りで、仲間たちは、試合さながらの声援を送る。

「できる!」「大丈夫―!」「持ってー!」「「見てー!」

大会会場でよく耳にするあの独特のかけ声が、練習場に響く。

調子がよくびしびし技を決めていく選手もいれば、今ひとつ思うように動かない自分の体にいらだっている様子の選手もいる。

が、総じて選手たちは明るく、練習の雰囲気はよかった。

この日は、オフの翌日で、全日本インカレまではまだ2週間あるということで、そこまで追い込んだ練習ではなかった。それだけに、どこまでやるかは選手の自主性に任されているようだったが、チームとして「より上」を目指している以上、「うまくいかないけどいいや」というわけにはいかない。どの選手も、真摯に自分の演技に取り組み、うまくいかない部分は何度も繰り返し確認をしていた。

 

昇り調子のときのチームは得てしていい空気が流れているものだが、今の武庫川女子にはまさにそんな空気があった。

息詰まるような厳しさではなく、要所要所は締めながらも、開放的で明るい。

「ここ(武庫川女子)で体操をやっていること」は、自らが選んだ道なのだ、ということを忘れさせない練習だと感じた。

何人かの選手に話を聞くことができた。

金田明里(3年/四天王寺高校)「高校生のとき、インカレで見た武庫川の演技が美しくて魅力的だったので、武庫川に来ました。今年のインカレではチームで去年より上の順位をとりたい。個人では、去年は段違い平行棒で優勝しているので連覇も目指したいです。体操は、できないことができるようになる達成感を得られるのが魅力。とくに団体戦では、自分の成長をみんなで喜べるところが好きです。」

杉本阿美(3年/羽衣学園高校)「高校まではあまり表現は得意ではなかったのが、個性を大切にしてくれる振付の方に出会えたことで表現する楽しさを知ることができました。平均台とゆかが得意で、自分の思ったとおりの演技ができたとき、本当に体操って楽しいな、と思えます。」

小笠原希(3年/浜松開誠高校)「武庫川に来たことで高校までとは大きく環境が変わり、先生方や仲間たちといっしょに頑張れることがとても新鮮でした。インカレでは2位、できれば1位をとって先生方を喜ばせたい。そして、個人でも全日本出場の権利を自力で獲りたいです。失敗しないのは当然、着地までしっかり狙っていきたいです。」

刀根綾菜(1年/中京ジムナスティック)「体操は新しい技ができるとどんどん楽しくなって、今まで続けてきました。初めてのインカレでは、自分の仕事をしっかりやって、次の選手にバトンを渡したい。演技だけでなく声出しなどでもチームを盛り上げて、笑顔で試合を終われたらいいと思います。今年は、ユニバーシアードに初の日本代表として出場するので、そこでもしっかり自分の演技をしたい。大学にいる間に、なるべくたくさん代表を経験したいと思っています。」

平岩優奈(1年/三菱養和体操スクール)「高1のとき、代表になっていた世界選手権の会場練習で怪我をして出場できず、帰国。その後は、気持ちの問題もあってなかなか体操に復帰できず、高校3年間の中で体操は1年くらいしかやっていなかった。大学で続けられるとは思っていなかったが、大野先生に誘っていただいて、その時点では思うように体も動かせなかったが、もう一度頑張ってみようと思いました。練習の内容はしんどいこともあるけど、楽しく練習できていて、感覚もかなり戻ってきました。インカレは久しぶりのチーム戦で緊張感がありますが、自分の演技をちゃんとやって、チームに貢献したい。個人的には見ている人に何かを感じてもらえたり、感動してもらえるような美しい体操を目指したいです。」

ほとんどの選手が、すでに10年以上、体操をやってきている。

2014年世界選手権の代表になりながら、大会会場での怪我のため、本番の演技をすることができなかった平岩をはじめ、つらい経験をしてきた選手も少なくない。

それでも、彼女たちは前を向いていた。

とくに、2週間後に控える「全日本インカレ」の話になると、「チームでもっと上に」と口を揃えて言った。

武庫川女子大学に大野監督が就任して、今年が3年目のシーズンになる。

「自分は勝ち方は知っているつもりです。それを選手たちに教えてはいるが、それを自分達のものにできるかは選手次第。」と大野監督は言うが、その教えは着実に選手たちに浸透してきているようだ。

 

2017年全日本インカレ。

武庫川女子大学が、「台風の目」になるかもしれない。

 

PHOTO & TEXT:Keiko SHIINA