2014体操ワールドカップ東京大会 男子後半種目レポート

45日に開催されたTOKYO CUP 2014 FIG体操競技・個人総合ワールドカップ東京大会。
続いて男子後半種目をレポートする。

◆跳馬
1人目はFabian Hambuechen(GER)選手。跳馬はいつも安定した演技を見せる選手だが、この日は着地で後ろに大きく1歩。その1歩がラインオーバーとなってしまった。こらえただけにもったいない実施だが、大きなミスにはならなかった。


2人目Daniel Purvis(GBR)選手は、着地でしりもちをついてしまう形に。動きを確認してみると、どうやら開きが間に合わずに着地に向かってしまったためかと思われる。本人も残念そうな様子を見せた。
跳馬は演技時間が短いため、次の選手までの回転も早いのだが、3人目のFabian Gonzalez(ESP)選手のときには運悪く女子の採点に時間がかかっていた上に、その後の女子選手の演技も待つことになり、いつも以上に待ち時間が長くなってしまった。しかし、彼はそんな空気を断ち切った。会心のドリッグス。彼の魅力である脚の長さを存分に生かした跳躍。高さもあり、本人も満面の笑みを見せる。価値点(Dスコア)が5.6の技なのだが、トータルスコアは15.033とハイスコア!

続いて加藤選手。練習でも上手くいっていて調子がよさそうに見えたロペスに期待が高まる。跳躍自体は余裕もあってよかったのだが、着手したあたりから大きく左にそれてしまった。そのまま着地も大きくラインオーバー。練習では何度も決まっていたので、おそらく力が入りすぎてしまったのではないかと思う。本番、よし!と思うと誰だって力が入りすぎてしまうことはある。スポーツに限らず、そういった経験はあるはずだ。そこのコントロールがしっかりできるようになると、成功率だけでなく、完成率もあがってくると思う。今回の跳躍は先を見せてくれる跳躍だったと思う。
前半種目でも繊細なつま先をもちながらも雄大な演技を見せてくれていたSam Oldham(GBR)選手。跳馬でも大きな実施を期待したが、着地で右側に大きく崩れ落ちてしまった。ひねりきれずに着地にいったためのミスに見えた。右足に全体が乗るような形で着地をし、その後も足を引きずる素振りを見せていたので、もしかしたらここで足を負傷してしまったかもしれない。今後の演技に影響がでないといいのだが……
内村選手は見事なヨー2。空中姿勢も抜群に美しく、そのまま着地も1歩でまとめた。もう誰も追いつけない。



◆平行棒
5種目目の平行棒。終盤にさしかかり、体力も奪われてくるころだ。ここで踏ん張れるかどうかがひとつのポイントだと思う。
1人目、平行棒が得意のDaniel Purvis選手。彼の持ち味である美しいつま先が特に光る種目でもある。練習から一際きれいだったつま先は、本番で「待ってました!」と言わんばかりの鋭さを見せる。跳馬で大過失があっただけに、この種目でどう対応するのかが気になっていたが、全く引きずらず、むしろ跳馬のミスを忘れさせる演技をする。こんな演技が1人目、続く選手がどれだけいるのだろうか。
いい雰囲気の中、加藤選手は自分の演技をむかえる。彼も跳馬で少しミスがあったが、そんなものは全く感じさせない。自らで描いた流れの通りできたのではないだろうか。あまりにもスムーズすぎて、もう終わってしまったのか……と何か物足りなささえ感じた。最後の着地も抜かりなくピタリと止め、1人目のPurvis選手を上回る15.533を叩き出す。

Sam Oldham選手。あん馬と跳馬でミスが見られたこの日だが、この平行棒はどうか。同じイギリスの先輩であるPurvis選手に続く良い演技をしたいものだ。などと思いながら演技を見ていたら、なんとも素晴らしい実施を見せてくれた。やはり彼は彼自身の持ち味を自覚しているし、それを明確に提示してくる。迫力のある大きな演技と同時に見せるべき足先を見せてくる。倒立はきっちりとはめ、最後の着地まで決めてきた。直前の跳馬で足を痛めたそぶりを見せたのに関わらず、だ。ぜひ今後も注目していきたい選手の1人である。
内村選手はここでも完璧に決めてくる。もちろん着地も止めた。きれいで丁寧な、もうたまらない演技だ。多少力を使う場面も見られたが、やはりこの程度なら他の選手でもよくある小さなミスだ。そういった、言うなればあら探しをしてしまいたくなるほど、彼の演技はあまりにも完璧すぎるのだ。


ここで注目のShixiong Zhou(CHN)選手。平行棒を得意としている選手だ。今大会前半種目からミスが続いており、なかなか得点をあげられていないが、ここではきっと決めてくると期待していた。そしてその期待通りの素晴らしい演技を見せる。やはり平行棒が得意な選手は国内国外限らず、倒立がまず美しい。彼もまずぴたりとはまる倒立で見せてくる。ぶれのない安定した演技は、今までの他の種目でのミスが嘘のように思えるほど。下り技は他の選手よりも難度を上げてくるが、着地で大きく乱れてしまった。着地こそ乱れたが、それ以外は完璧の実施。これで他の種目も揃えてくるようになると手強い選手だ。



◆鉄棒
最終種目はワールドカップルール適用で、それまでの得点が低い方から順番に演技をしていく。
1人目となるのはFabian Gonzalez選手。やはり手足の長い選手なので、車輪はとても大きく見える。車輪をしただけでここまで大きく見えるというのは利点ではないだろうか。演技全体を通しても雄大で、多少雑さはあるもののノーミスでまとめてきた。何よりも彼の演技中に、隣のゆか付近から同じスペインの女子選手、Roxana Popa Nedelcu選手の「Go Fabi!!」の声が何度も聞こえてきたことがとても印象に残っている。どうしても海外の選手のときは会場が静まり返ってしまいがちなのだが、そんな空気でも、同じ国の選手を大声で応援する姿は素晴らしいと思う。もちろん、国など関係ないのが1番だが、現実そうもいかない。性別は違えど、同じ国の代表として出場している選手同士が讃え合っているのは、よい光景だった。そのお返しに、実際彼もPopa選手の最終演技のときにはゆかの方へ駆け寄っていた。
ロンドン五輪、2013年世界選手権ともに種目別鉄棒で2位を獲得しているFabian Hambuechen選手。個人総合ではいつも得意の鉄棒で他の選手を突き放すので、今回も順位をあげられるか気になるところ。しかし、2位の加藤選手とはこの時点で約1.4点もの差が開いていた。通常、この差を残り1種目で埋めるのは不可能だ。どんなに完璧な演技をしても、どうしても相手のミス待ちという形になってしまう。それでも彼はスペシャリストならではの演技をする。さすがに個人総合だったため種目別の構成よりは落としたが、ノーミスどころか完璧な演技。ここ最近、本番で着地を止めることはなかったのだが、今大会では着地までピタリと止める。さすがの演技だった。本人も嬉しそうで、恒例の雄叫びが見られた。

さて、会心の演技のあとの加藤選手。カッシーナを入れた構成に注目が集まる。残すところ日本人2人となり、会場の温度もぐっと上がる。そんな中の演技。ひとつめのカッシーナ。どうか。思わず目を覆いたくなるほどの近さ。あまりにも鉄棒に近かったため、バーを握れずに落下してしまった。スローで見ても、顎や鼻などがバーに当たらなくてむしろよかった、と思ってしまうほどの近さだった。落下の後は難なく演技をこなし、最後までまとめたが、あのミスをしない加藤選手がここで大きなミスをしたことにも驚いた。ただ、これはきっと大きな飛躍の伏線にすぎないのでは、と直感でそう思った。むしろ、ここで挑戦して、ここでミスしたことがプラスに働いていくように感じる。この後の全日本選手権が楽しみである。

ここで加藤選手がミスをしてしまったことにより、Hambuechen選手が1位をキープ。加藤選手も2位に入ったので表彰台が確定となる。

さて、絶対王者内村選手。いつもよりかなり長い試合で、最後の最後にフェドルチェンコを決めてくるのか。まずは直前で加藤選手が失敗してしまったカッシーナを見事に決める。演技で語るかのように。続いてコールマンではやや鉄棒に近づくも難なく掴み、流れるような演技を見せる。Hambuechen選手とは違った鉄棒だが、やはり美しい。そして、最後の着地は、刺さるように決めた。他の選手よりひねりが1回も多いはずなのに、いとも簡単に決めてしまった。着地の先取りも余裕でできているし、開きもとてもきれい。無理にやって足先が割れているということもない。そもそも、無理にはやらない選手だ。会場も一気に沸き、Hambuechen選手も讃えるような笑顔で内村選手を迎える。幸せな空気で会場はいっぱいになった。

今大会は男女お互いに演技を待ちながら進行していく大会だったため、選手は体力を奪われて辛い大会になったと思う。

だが、そんな中でもキングはキングだった。そんなことでたいした影響はなかった。

 

確かに内村選手は素晴らしかったが、加藤選手も未来を感じさせてくれた。加藤選手としての未来と、日本の未来。今回の演技を踏まえてどう対応してくるか。まずは世界選手権代表選考を兼ねている全日本での演技が楽しみだ。

 

そして、他の海外選手も同様に素晴らしかった。今大会ではミスが目立ってしまった選手や、上手くコンディションを合わせられなかった選手もいたが、そんな中でも選手それぞれの個性を感じた。こういった大会は海外の体操の迫力を感じられるいい機会だ。これをきっかけに国内だけでなく、海外の選手にも注目して見てくれるファンがもっと増えてくれることを願いたい。

 

TEXT by Umi  PHOTO by Katja / Yuki SUENAGA