「三重選抜」が起こすミラクルを見逃すな!~2024全日本選手権
2024年の全日本選手権が始まりました。
1日目の昨日は、女子団体フープ×5と男女個人総合の前半種目が行われ、男子は、社会人1年目の尾上達哉選手が暫定首位、社会人4年目(!)の堀孝輔選手が2位につける「社会人無双」の様相を呈していますが、3位には海谷燎摩選手、4位には岡本瑠斗選手の4年生コンビがつけ、「学生の意地」を見せています。5位以下にも、学生では4年生が多く入っており、どの選手にとっても全日本選手権が特別な大会であることは間違いない中でも、やはり4年生にとってはその特別感はなおさら、なのだろうと感じます。そう感じるほど、たしかに4年生たちの演技は、どれも気迫に満ち、「集大成」と呼ぶにふさわしいものが多かったように思います。
数年前までは、そういった「4年生たちの(おそらく)最後の全日本」の演技には、涙腺が緩んだものですが、最近は、そこまで思い入れることなく見ることができるようになってきました。それは、「そこが終わりじゃない」と示してくれる選手たちが増えたからです。今年の尾上選手もそうですし、昨年1年のブランクがありながらも、今年の社会人大会で復帰、今大会でも1種目目のリングでは3位に入る素晴らしい演技を見せた大村光星選手、そしてなんと言っても、社会人4年目にして、まだ18点台をたたき出す堀選手の存在があるからです。昨年の全日本終了直後から、「社会人でもやる」と明言していた田窪莉久選手も、公言通り今大会に出場を果たし、「学生のころには見られなかった」大人の演技を見せてくれました。
彼らが昨日見せてくれた演技はどれも、彼らが大学4年生がこの競技の終着点だと思っていたならば、見られなかったものです。
社会人として生活しながら、競技力を維持することは、容易ではないと思います。彼らもおそらく「学生時代ならもっとできていたのに」と、自らの衰えを感じることもあるんだろうとは思います。しかし、それでも、「社会人だからこそ身についたもの、得られたもの」があるからこそ、あの素晴らしい演技ができるのです。今年の4年生たちも、今は「これで最後!」と思ってこの舞台に臨んでもいいと思います。だからこそ、発揮できる力もきっとあります。ただ、「これで最後」と思いすぎなくていいと、先輩の社会人選手たちが教えてくれています。もしも、今年、やり切れたと思えなかったら、自分さえあきらめなければ、来年もその次も、あるんです。一度は離れたとしても戻ってきてもいいんです。
1日目の競技を見ながら、そんなことを思いました。書きたいことはたくさんあるのですが、昨年こうして書きすぎていて、競技開始に間に合わないという失態を犯しているので、このくらいにしておきます。
が、今日から男子団体も始まるので、どうしても書いておきたいことを。
1日目の女子団体競技のあとに、男子の公式練習が行われ、観客も見ることができたのですが、どこのチームもそれはそれは素晴らしかったです。今日の予選が楽しみですが、どのチームも楽しみな中で絶対に見逃せない! のが「三重選抜」です。
昨年、大垣共立銀行OKB体操クラブがジュニア選手1名を入れたメンバーで全日本選手権に団体で出場し、団体総合3位に入るという快挙を成し遂げました。それには驚きましたが、今年、ジュニア選手が2名入っているチームで全日本出場を果たしたのが「三重選抜」です。「三重選抜」の名前からも想像できる通り、今年から男子新体操が復活した国スポに向けて、三重県が組んだ選抜チームでジュニアのLeo RGと高田高校の合同チームです。
5月に行われた全日本団体選手権で2位になり、全日本出場権を獲得。本来の目標であった国スポへの出場も果たした「三重選抜」は、団体としては新参チームです。その新参チームが、男子新体操強豪地域である東海ブロックを勝ち抜けたのはなぜなのか? 国スポでの三重選抜と見て衝撃を受け、10月にとうとう三重まで取材にも行きました。そして、昨日の公式練習、さらには、個人総合に出場していた山本響士朗選手、関戸銀児選手、堀選手の演技を見て、ますます確信しました。
「三重選抜はスゴイ!」
男子新体操に限りませんが、採点競技には先入観はつきものです。
三重選抜のような新参チーム(それもジュニア選手が入っている)が、全日本団体で2位になったこと自体、奇跡なのです。東海ブロックを勝ち抜いて国スポに出たことも奇跡でした。
ただ、その「奇跡」は偶然ではなく、必然でした。そう思わせるだけの力を三重選抜はもっていました。だからこそ、審判にも認められた。
それだけの準備を彼らはしてきているのです。
たしかにジュニアの2人は、一見、小さくて華奢です。高校生~社会人の堂々たる体躯の前では少しばかり貧弱に見えるかもしれません。
しかし、動き始めると、彼らの動きの大きさ、思い切りのよさ、シャープさはまったくシニア選手にひけをとらないことがわかると思います。
そして、団体としては新参チームに見える三重選抜ですが、全員がLeo RGの生え抜き選手たちという利点があり、その同調性は際立つものがあります。
呼吸で揃える。同じ空気感を醸し出す。
それが自然体でできる。そんなチームです。
また、それぞれの選手たちの動きの美しさ、フォームの美しさにも目が奪われます。
男子新体操は素敵な競技ですが、どうしても疎かになりがちな、足先の美しさは、このチームはトップレベルだと思います。
ふと、堀孝輔選手が中学1年生のときに「キッズ演技コンテスト」に応募してくれた徒手演技を見たときの衝撃を思い出しました。
あのときの彼の演技を何度も見直して「どこも悪いところがない!」ということに驚きました。「三重選抜」には同じ匂いがします。
団体チームとしてはまだまだかもしれません。
体躯の差から迫力では見劣りする面はあるかもしれません。
ただ、「悪いところがない」。その強さは間違いなくあります。その強さは今までにはない新しい強さです。
青大のようでもなく、国士舘のようでもなく、井原とも神埼ともOKBとも違う。
三重選抜の強さ。
彼らはそれで、国スポ出場も果たし、全日本の舞台にもたどりついた。
果たしてここで、それがどう評価されるか。楽しみでしかありません。
大学生も、高校生も、社会人も、侮ることなかれ!
「三重選抜」は、男子新体操界のニュータイプです。そして、強いです。