「あきらめない心」~高﨑玲碧(熊本学園大学4年)

10月12日、この日が引退試合となった大学4年生3人の中で、私が存在を意識したのがもっとも遅かったのが高﨑玲碧だった。

2022年の西日本インカレでのリボンの演技を見たときに、「なんて表情豊かに踊る選手なんだろう」と強く印象に残ったのだ。

強豪新体操部ではない、熊本学園大学の所属。調べてみたら、熊本のみどり新体操クラブ出身の選手だった。高﨑は、現在フェアリージャパンメンバーの稲木李菜子の1学年上の選手として、2016年に全日本ジュニアに出場したみどり新体操クラブ団体のメンバーの中にも名前があった。

この年のみどり新体操クラブの全日本ジュニアでの成績は、団体が20チーム中16位、個人で出場していた稲木が15位。前年の団体20位、稲木が37位よりは上がってきてはいたが、目覚ましい活躍、というほどではない。

しかし、改めて2016年のみどり新体操クラブ団体のメンバーを見てみると、瀧本絢友(2023年度国士舘大学卒/団体メンバー)、岩永茉莉亜(国士舘大学4年/2024年東日本インカレ個人総合優勝)、福永恵子(東京女子体育大学4年/2024年東日本インカレ個人総合8位)らが名前を連ねている。なかなか凄いメンバーだ。そして、その中に高﨑はいたのだ。当時のみどり新体操クラブの練習を取材したとき、稲木選手だけでなく、その同世代に力のある選手が数多くいることに驚いたことは、今でも覚えているが、この岩永、福永そして高﨑らはそのときの「力のあるジュニア選手たち」の中にいた。

岩永、福永は、熊本県内の高校に進学し、クラブ所属のまま新体操を続ける選択をしたが、高﨑だけは佐賀女子高校への進学を選んだ。

勝手な想像だが、高﨑は、「新体操は高校まで」と考えていたのではないか。だからこそ、インターハイを目指して高校生活のすべてを新体操に懸けることができる環境を選んだ。地元の高校に残ることを選んだ同級生たちが、大学では東京の強豪校に進学し、高﨑は地元の大学に戻ってきたことからそんな風に思う。それでも、大学でも新体操を続けること、を高﨑は選んでくれた。

それはもしかしたら、彼女たちは、高3のインターハイがなくなってしまったあの学年だったことと無縁ではないのかもしれない。

 

大学生になってからの高﨑は、出身クラブであるみどり新体操クラブで指導にもあたっていた。

強豪校に進学した選手たちと比べれば「競技選手としての新体操比率」は低めの4年間を過ごしてきたのかもしれない。

それでも。

高校時代が不完全燃焼で終わったせいか、結局、大学での4年間も競技生活を続けてくれた。

そのおかげで、私は、この踊り心に溢れる選手の演技に出会うことができた。なんとまあ踊り心のある選手なんだろう、と感心しながら、ときには「あらら?」というミスが出てしまうことも含め、彼女の演技がいつも楽しみだった。

今年の西日本インカレにも行ったのだが、前半種目しか見ることができなかったため、大好きな彼女のリボンの演技が見られなかったことがとても残念だった。全日本インカレではきっと! と思っていたのが、台風による変則開催で見に行くことができなかった。

いや、私が見られなかっただけでなく、前半種目だけでインカレの順位は決まってしまい、高﨑は全日本選手権出場にはあと一歩届かなかった。過去の大会でも、どちらかというと後半種目のほうが点数が出る傾向にあった高﨑にとって、最後のインカレはまたしても不完全燃焼で終わってしまったのではないか、と案じていた。

 

だから。

この九州新人戦に、後半種目だけ出場すると聞いて、本当に嬉しかった。

どうしても見届けたいと思い、強行スケジュールでの大分行きを決意したのだ。

私がこの選手に注目したのは、彼女の長い新体操人生のほんの最後の3年間だけだ。

後は想像でしかないのだが、キラ星のごとく力のある選手が集まっていたジュニアクラブ時代、インターハイを目指して切磋琢磨していただろう高校時代、そして、高3のときにコロナ禍という災難にも見舞われ、大学時代は、競い合い、助け合う仲間はいない環境で新体操を続けてきた。

おそらく、なのだが、「自分は期待されている選手ではない」と感じることも多かったのではないかと思う。

それでも、自分が目指している演技、を彼女はあきらめることなく、最後まで追求し続けた。自分の新体操を貫くことができた。

そして、私はそれを見届けることができた。その幸運にはただ感謝しかない。

今の彼女の演技を見れば、現在のルールが求める「芸術性」「表現力」などにはとても長けた選手だということはわかる。努力して身につけた部分もあるだろうが、おそらく持って生まれたものも大きかったのではないかと感じる。「踊る気持ち」をもち、それが表に出る選手なのだ。

曲に合った振付を、その曲にしっかりのせるように動ける、そして体の動きと表情からも、音楽が伝わってくる、彼女はそんな演技をする。今のルールならなおさらのこと、評価されないわけはない演技だ。

現に、2種目とも最小限のミスで抑えた今大会では、クラブ、リボン2種目とも最高得点をマークした。集大成、と言っていい演技だった。「見にきてよかった!」と、心から思える演技だった。

 

新体操を続けている間、人はなにを求めているのだろう。

もちろん、「競技成績」もあるだろう。

でも、それだけを求めているわけではないと思う。

この高﨑玲碧選手も、「競技成績」という目に見えやすいものだけでいえば、大満足とはいえない新体操人生だったかもしれない。でも「それだけ」を求めていたわけじゃないんだ、と彼女の演技からは伝わってくる。

音楽があり、振付があり、そこで「描き出したいもの」がある選手なんだ。

その「描き出すもの」の解像度を高めるために、技術と実施力を磨いてきた。高校までではやりきれなかったから、大学でも続けた。その結果、自分のやりたかった演技、見せたかった演技にかなり近いものを、本番で出せるようになったのだ。

それを披露できたのが、全日本インカレという場ではなかったとしても、この日、彼女は、やりきった! 成し遂げた!

順風満帆ではなかったかもしれない。ときには投げやりになったこともあったかもしれない。

でも、結局は、新体操が好きで、自分のやりたい新体操を見失わず、彼女は自分の新体操を完走した。

その道が平坦ではなかったことがわかるだけに、この素敵なゴールインには大きな拍手をおくらずにいられなかった。

 

「踊り手」としてのタレントをもった彼女ならば、この先もきっと。それは競技という場ではないかもしれないし、新体操ではないかもしれないが、輝く瞬間を見せてくれるんじゃないか。そんな期待も私は、してしまっている。

※今大会に出場した4年生(左から若松芽育、高﨑玲碧、有村文里)

※演技写真は、2022年西日本インカレのもの。