第32回全日本男子新体操社会人選手権大会<個人総合>
今年の社会人大会は、予想通りいや予想以上にハイレベルな大会でした。
上位5名が11月に行われる全日本選手権への出場を決めましたが、とくにTOP3の突き抜け感には、感動すら覚えました。
優勝した尾上達哉(花園大学RG)は、昨年の全日本選手権の個人総合では3位、全日本インカレでも3位と意外にも「無冠」でした。
が、多くの人がそのことを忘れているのは、全日本選手権の種目別決勝で金メダル2個、銀メダル2個という怪物ぶりを見せつけてくれたから。
その怪物にとって「全日本選手権個人総合優勝」は、いわば「飛田給(昨年のJAPAN会場)の忘れ物」その忘れ物を取りに行くために、おそらくこの1年間は、社会人生活1年目という環境の変化にも負けず、トレーニングを続けてきたのだろうと思います。
今大会での演技は、4種目中3種目がノーミス。なによりも、演技中に会場中を巻き込んでいく力の強さは、学生時代と変わらず、かそれ以上になっていて、見事な千両役者ぶりでした。
優勝:尾上達哉(花園大学RG)
2位には、「もうさすがに今年は出ないのでは?」とまで言われていた堀孝輔(三重選抜)が、やっぱり入りました。社会人4年目。母校である高田高校で教鞭をとりながら、新体操部顧問、さらに今年は、国スポ出場、全日本選手権団体出場を決めている三重選抜の監督も務めるという激務ぶりから、選手としての出場はさすがに無理か? と見るむきも多かったのですが、それでも出てくるのが堀選手の凄み。そして、ロープだけ落下があったものの、ほかの3種目は安定のノーミス。それだけでなく、おそらく例年以上に練習はできていないだろうに、その分、まるでそこで演技していることを楽しんでいるかのような伸びやかさのある演技で、全盛期(今もですが)に比べると精度は落ちているのかもしれませんが、違う魅力は増すという進化を見せてくれました。堀選手の優勝は社会人大会でも全日本選手権でももう何回も見てきましたが、一番見たかったのは、今大会でのような堀選手の演技だったように思います。凄まじいハードスケジュールの中で、社会人大会に出場までしちゃった自分を面白がっているような、終始笑顔での銀メダル。この選手はまた「堀孝輔史上最高」を更新してくれました。
2位:堀 孝輔(三重選抜)
驚きの3位に入ってきたのは、大村光星(花園大学RG)でした。
2022年インカレチャンピオンですが、大学卒業と同時に現役引退。その後も故郷の長野でのテレビ信州杯や、演技会などに出場することはあっても、「本気の競技」からは距離を置いているように見えていたのですが、まさかの社会人大会エントリー。故郷でもなく、母校である花大からも離れた関東で仕事をしていると聞いていたので、練習する場所はあったのか? と案じましたが、今大会での演技はそんな不安を払拭するものでした。もちろん、「これでもか!」と練習を積んでいただろう大学生のときに比べたら落ちている部分はあるのだろうと思います。ミスが出た種目もありました。それでも、やはりここでも社会人になり、「新体操最優先」というわけにはいかない環境にいてこそ生まれる「余裕」や「遊び」が、生きていました。そして、この選手はやはり運動能力が高い! その持ち前の運動神経の良さは、こういった十分とは言えない練習量のときにこそ大きな強みとなるのだな、と改めて感じました。全日本選手権まではあと2か月あります。練習環境の確保には苦労があるとは思いますが、あと2か月少しでもよい準備ができたなら、全日本選手権でも十分期待できると思う演技でした。
3位:大村光星(花園大学RG)
今から10数年前、男子新体操の記事を掲載してもらいたくて、しきりに出版社に営業をかけていたときに、某スポーツ雑誌の編集者から言われた言葉があります。
「大学卒業と同時にほとんどの選手が辞めてしまうようなスポーツは思い出つくりでしかない。そういうスポーツに追いかける価値はない。」
現代は、どのスポーツも科学的トレーニングや医学の進歩によって、選手寿命が長くなる傾向にあります。新体操も精神的にも成熟してくる20代後半や30代前半くらいまでは十分、選手としての進化も期待できるはずです。それでも、メジャースポーツと違ってプロの道がなく、続けていくことが難しい。そのため、社会人選手になるとレベルの維持がやっと。そして、ひと昔前の選手たちは「社会人になって無様な演技を見せるのはいやだ」と言って、新体操からは離れていっていました。これでは「追いかける価値はない」と言われても仕方ないのかな、と長い間、思っていたのですが、かつては臼井優華さん(現在、朝日大学新体操部監督)が、そして今は堀孝輔選手が繋いできてくれた「社会人選手」の存在意義は、今回優勝の尾上選手にもしっかり引き継がれているように思います。
久しぶりに、血沸き肉躍る興奮を与えてくれた今年の社会人大会。
この盛り上がりが続いていくように、「よし自分も!」立ち上がってくれる選手が増えることを期待してやみません。
※今大会のDVDは以下の方法で購入できます。社会人のレベルがとてつもなく高かった今大会の映像は「永久保存版」です。ぜひ手に入れてください!
【注意!】社会人個人総合はA班になります。