2022高校総体男子個人優勝/本田歩夢(盛岡市立高校)

今年の高校総体男子個人は、非常にレベルが高く、また男子新体操が競技として健全な方向に進化していることが感じられる素晴らしい大会だったように思う。

この名勝負を繰り広げたのが、高校入学と同時に緊急事態宣言に見舞われ、1年時には高校総体中止など、3年間新体操を続けていくことにも困難の多かった世代だということを思うと、彼らの頑張りには本当に頭が下がる。

そして、その努力がそれぞれの形で報われた、あるいは報われつつあることに感動した大会だった。

 

競技開始直後1班で登場した太皷真啓(鹿児島実業)、2班の貝瀬壮(光明学園相模原)の2人の演技は2種目とも素晴らしい出来だった。

それぞれに持ち味は違っているものの、共通しているのは体操の美しさ、そして演技の流れの良さ、滞りのなさ。どちらの演技も「優勝してもおかしくない」と思わせる演技だったのだ。

その後、二人を超える得点を出す選手はなかなか出てこなかったが、手具操作こそはこなれていないものの、しっかりとした体操を見せる選手も多く、大会の出場機会を奪われることの多かった世代の選手たちがどれほど基礎練習に時間を割いてきたか、怠らなかったかを感じさせてくれた。

4班で登場した遠藤悠斗(宮城県名取)の演技は、大学生のような風格と表現力があり惜しいミスはあったが、高校生のトップレベルで競うにふさわしい選手だった。

そして、5班では、まず谷口央弥(丹後緑風)が、高校選抜からさらにレベルアップした演技で度肝をぬく。

続いて登場したのが本田歩夢(盛岡市立)だった。

1種目目のスティックでは、彼の持ち味である音楽との融合が際立つ演技を見せる。

使用曲は「カプリース第24番」。この楽曲が、演技を邪魔することなく、本田の流れるような演技を引き立たせ、指先までが物語る彼のオリジナリティーあふれる演技には息をのんだ。

もちろん、タンブリングや手具操作の技術も高い。が、それ以上にこれは「みんなが見たい男子新体操だな」と思わせる演技だった。

審判もそう判断したのだろうか。得点は、17.200。ここまでの最高得点が出た。

本田は、5月のユースチャンピオンシップで6位になっている。そのとき見せた音楽性の高さは印象に残った選手ではあった。

が、過去に全国での表彰台のりの経験はない。決して「勝負強い」「確実性の高い」選手ではなかったのだ。

1種目目の高得点のあと、勝ち慣れていない選手は、たいてい緊張しすぎるものだが、この日の本田は、そうならなかった。

いや、もちろん緊張はしていたに違いないが、それを振り切る強さ、しぶとさがあった。

クラブのキャッチで危ないところもあったが、それを大きなミスにしなかった冷静さもあった。

映画「パラサイト~半地下の家族」のサントラから選んだという「the belt of faith」。

この曲もまた、本田の良さをよく引き出し、また彼だから演じることができる、と感じさせる曲だったように思う。

勝ち慣れていない選手だったことで、いい意味で勝ちを意識しすぎずに、そのときのベストを出しきることができた、そんな風にも見えた。

まだ得点がどうなるかわからない演技直後の本田の笑顔は満足感にあふれていた。

「順位はどうでもやれるだけのことはやった」そんな思いに満ちていたのだろう。

そして、得点は17.175が表示され、この瞬間、本田が首位に立ったのだ。

 

午後になり、9班が優勝争いの山場だった。

高校選抜3位の井上正也(井原)、昨年度インターハイチャンピオンの岩田隼(済美)が同班でどちらも2種目とも完璧な演技を見せたのだ。

2年生の井上は、実施の美しさには際立つものがあったが、構成点が伸びず。

そして、岩田も「これは連覇だろう」と思わせる凄みのある演技ではあったが、構成点が印象ほどには伸びなかった。

難易度の低い構成のはずはないように見えたが、今年はルール改正があり、加点要素なども変更になっている。

なにか解釈の違いなどもあったのかもしれない。結果的に、この時点で岩田は、本田、貝瀬に次ぐ3位となった。

11班では、ユースチャンピオンシップ3位の葛西麗音(青森山田)が、迫力ある演技を見せたが、2種目目のスティックで惜しいミスがあり、この時点で本田の初優勝が決定的になった。

 

昨年度チャンピオン・岩田隼の演技は、十分、連覇に値するものだったと思う。

決して彼が後退したわけではないのだ。彼の連覇を阻止できるくらいに、周囲の選手たちが伸びた、進化したのだ。

それはなんと素晴らしいことだろう。

 

昨日、Yahoo!ニュースに高校総体男子個人の事前記事を公開している。(⇒https://news.yahoo.co.jp/byline/shiinakeiko/20220812-00309907

その中で、本田は「優勝候補」の次点的な扱いだった。(申し訳ない!)

が、そこが今回、彼の一番の強さだったのかもしれないと思う。上位を争った選手たちの中で、彼が一番、のびやかに、自分らしい演技を貫いた。

「勝ち」に一番とらわれていなかった、ように見えた。

なによりも、「音楽」とオリジナリティーを大切にしていたように感じた。

誰が勝ってもおかしくない勝負だった。誰もが勝ちにふさわしい演技をしていた。

そこから抜けられたのは、ほんのわずかな気持ちの差だったように思う。

そして、本田歩夢は、少なくともここ10年での最大の下剋上優勝を果たしたのだ。

PHOTO:Ayako SHIMIZU      TEXT:Keiko SHIINA