映画「バクテン!!」公開へのカウントダウン企画㉚~2021堀 孝輔

 2012年の男子キッズ選手権の記事を読み返していたら、この選手のことを思い出した。

 2021年度全日本チャンピオン・堀孝輔選手。

 彼の存在を強烈に印象づけたのが2012年の男子キッズ選手権だったのだ。当時、堀は中学1年生だったため、小学生までしか出場できないキッズ選手権にはエントリーできなかったのだが、キッズ選手権に先立ち2011年秋にYouTubeで開催した「キッズモデル演技コンテスト」に彼は応募してくれたのだった。今も忘れられない「宇宙戦艦ヤマト」の曲を使った徒手演技は、その時点で「どこにも欠点がない」と言えるほど美しく、また音と動きがじつに気持ちよく合っていたのだ。すでに強豪ブロック・東海を勝ち抜いて全日本ジュニアに駒を進めている選手ではあったが、まだそこまで目立った成績ではなかった当時の堀だが、徒手で見せたこの演技は衝撃だった。

※2011年「男子キッズモデル演技コンテスト」での堀孝輔選手の演技 ⇒ https://www.youtube.com/watch?v=V-WAi8AQuXo

 このときから、大会で堀孝輔を見るたびに、「あ、ヤマトの子だ」とモデル演技コンテストに応募してくれたことへの感謝の気持ちもあり、注目してはいたが、まさか10年後に全日本チャンピオンになるなんて! これだから観戦は止められないのだ。

 じつは、2020年の全日本選手権の後、年末に私は堀孝輔に会っている。鹿児島実業高校に招かれていた堀を、鹿児島空港で待ち伏せし、鹿児島実業までの移動時間に話を聞かせてもらったのだ。全日本選手権で準優勝したほぼ2か月後だったが、全日本選手権の1種目目スティックで落下したときの心境を聞くと堀は「絶望ですね」と答えた。「日本一になるためにやってきたのになぜここで?」と自分に腹が立ったと。そのときもまだ悔しさが忘れられないという面持ちだった。

 そして、彼は、「僕はまだ新体操を辞めるとは言ってない」とも言った。その回りくどい表現でも、私には「来年は日本一になってみせる」とたしかに聞こえた。果たして、その9か月後、岐阜で行われた社会人大会に堀孝輔は出場し、「今まで見た中でも最高の安定感」のある凄まじい演技を見せた。社会人大会は通過点であり、全日本選手権で日本一を獲る! そのための準備をしてきたことは明白だった。

 「全日本優勝を狙っているの?」と大会後に聞くと、彼は否定しなかった。そして、社会人大会の2か月後、11月27~28日に開催された全日本選手権で彼は本当にチャンピオンになった。2011年の暮れに、宇宙戦艦ヤマトの徒手演技で鮮烈な印象を残したあの男の子は、ちょうどその10年後に男子新体操の頂点に登りつめたのだった。

 以下の記事は、新聞に載った記事の下書きだ。実際の新聞記事とは少し違っている部分があるが、これをここに掲載しておく。

「全日本新体操 堀が初V ~ 社会人、10年ぶり制す」

(「赤旗」2021年12月1日掲載)

  1年前、堀孝輔(当時・同志社大)は全日本新体操選手権で2位になりました。同志社大学は新体操部の活動環境が整っておらず練習場所や時間の確保にも難儀する中でも、堀は大学の4年間で全日本選手権での順位を6位→4位→3位→2位と上げており準優勝は十分に称賛に値する成績でした。
 新体操という競技は、大学までで現役引退する選手がほとんどです。しかし、この「全日本準優勝」が、堀に現役続行を決意させました。「16年間新体操続けてきて日本で2番では納得がいかなかった。ここまでたどり着けたのなら1番もいけるはず、昨年の全日本の後、その思いが強くなった。」と、堀は言います。
 大学卒業後は、母校である高田高校(三重県)で教職に就きました。週6日勤務で保健体育を教え、部活の指導にもあたっているが、その後、3時間ほど自分の練習を行ってきました。この1年間の練習環境は「学生時代に比べるとはるかに恵まれていた」と言います。
 堀孝輔は、三重県のジュニアクラブで小学生のときに新体操を始め、高田高校に進学しました。ジュニアのころから全国大会にも出場する有望選手で、高校生のときはインターハイ覇者にもなっていますが、男子新体操の強豪校にはたいていある競技用のマットのある環境には無縁でした。女子用の薄いマットか、たいていは体育館の床の上で練習していました。演技の通し練習はめったにできず、部分練習を繰り返し、大会会場で初めて通す、そんな練習環境ながらトップレベルで戦ってきたのです。
 そんな堀だから、大学も同志社大学を選びました。同志社にも恵まれた練習環境はありませんでしたが、「どんな環境でも新体操をやれることを証明して、後進の選択肢を広げたい」それが彼のモチベーションになっていました。
 全日本選手権での男子社会人選手の優勝は、2011年以来となります。学生時代には練習に膨大な時間をかけてきている選手がほとんどなので、社会人になってそのレベルを維持するのは困難なのです。しかし、堀の場合は、勤務先である高田高校に競技用マットが導入されたため、毎回、マット上で練習でき、通し練習もできるという、彼にとってはかつてない恵まれた練習環境にありました。社会人1年目では、仕事との両立は簡単ではなかったはずですが、この環境があったため過去最高に充実した準備ができ、満を持しての大願成就となりました。
 
~映画「バクテン!!」公開まであと2日~

※映画公式サイトはこちら。 ⇒ https://bakuten-movie.com/

PHOTO:Ayako SHIMIZU    TEXT :Keiko SHIINA