「Never Enough」~第25回テレビ信州杯エキシビション

新型コロナ感染拡大がおさまらない中、万全の感染対策をとりながら、無観客ではあるがなんとか開催にこぎつけた「第25回テレビ信州杯」は、かなり多くの棄権者は出ていたものの、2日目までの日程が終了した。

残るは、最終日の団体競技だけだとなったが、本来のテレビ信州杯は2日目の夜にレセプションがあり、おおいに盛り上がっていたのだが、当然それもなし。25回目という記念大会にあたる今回は式典も予定されていたそうだが、それも中止となった。

なにもかも感染症の前には致し方ない、のではあるがなんともやるせない。

それでも。

「せめてこれだけは!」という大会関係者の想いが伝わってきたのが、2日目終了後に行われたエキシビションだった。

エキシビションとは言っても、なにしろ無観客だ。

審判や役員、スタッフ、そして出場していた選手たちくらいしか観ている人はいない。

それでも、「なにもなし」にはしたくなかったんだな、と思う。

エキシビションに出演したのは、清澤毬乃選手と亀井理恵子選手だったからだ。

二人は同級生で、大学を卒業してすでに1年がたとうとしている。

コロナ禍じゃなければもしかしたらこのエキシビションは1年前に行われていたかもしれない。

そして、それが彼女たちのラストステージになっていたかもしれない。

が、二人にとっての「学生最後の1年」は、予定されていた舞台が次々になくなり、練習さえ満足にできない、そんな不完全燃焼の年になってしまった。そして、「もう1年」と踏みとどまった去年は、大会の中止や延期はなくいくらかはましだったようにも思えたが、すべての大会は無観客。

せめてテレビ信州杯では、たくさんの観客の前で、この二人にエキシビション演技をやってほしかったんだろうな、そう思った。

そして、ほんの1か月前まではそれは実現できそうに思えていたのに、急転直下。

やはりテレビ信州杯も無観客にせざるを得なかった。

清澤選手と亀井選手は、どちらも多くの実績を残してきた選手だ。能力も技術もすばらしいことは誰もが知っていると思う。

が、さらに。

二人の場合は、その人間性が本当に多くの人から愛されてきた。

そんな二人だったから、なおさらのこと。

ささやかでもいいから「花道」を用意したかったんだろうと感じた。そう思わせる二人なのだ。

エキシビション1演技目は、二人が今までに演じてきた作品のいわば名場面集。

数々の大会で、この演技、この曲で彼女たちの演技にワクワクしたり、手に汗握ったりしたっけな、そんなことを思い出しながら、今日はただただ楽しめた。そして彼女たちも楽しそうだった。

新体操って、本当はこれがよさなんだよね、と思い出させてくれる演技だった。

ここ数年は、どうしても技術先行になってしまうルールではあったが、どんなルールだろうと、やはり演じている人の感情が伝わってきてこそ、新体操なんだよね、と。思いながら、泣けてきて仕方なかった。

 

そして、二人での最終演技は、「Never Enough」にのせてのデュエットだった。

音をよく感じながら、おそらく歌の意味も感じながら、心を込めて踊る彼女たちの心からの「Never Enough」。

この曲で何回も繰り返されるフレーズ「Never Enough」は、直訳すれば「まだ足りない」「まだ満足できない」。

とても人のよい二人ならば、あまり口にはしそうにない言葉だが、「足りない」つまり「名残惜しい」と思えばすっと腑に落ちる。

この2年間、あまりにも多くの想定外のことがあり、彼女たちの演技を見ればきっと「大好き!」「感動した!」と言ってくれるだろう多くの人に見てもらえる機会がほとんどなかった。その喪失感ゆえの「Never Enough」なんだ。

だからおそらく、今ここで完全に満足して新体操を終えることは彼女たちにはできないんだろうと思った。

それは競技者として続けるという道ではなかったとしても、きっとなんからの形で新体操には関わり続けてくれるだろうと感じさせてくれた、それくらい彼女たちは、「Never Enough」なんだから。

それでも、演じ切った二人の表情は明るく、満ち足りているように見えた。

この2年間で、ささやかなことでも満足できる、そんなメンタルも私たちは得てきた。だからこその笑顔だったように思うし、こんな状況でもエキシビションを決行し、この場を設けたことだけでも、きっととても嬉しかったのだろうと思う。

だから二人はこのエキシビションを笑顔で終わることができた。

が、本当はみんなが思っていた。

彼女たちは、もっと多くの人達の前で踊り、もっと多くの拍手が彼女たちに贈られるべきだった。今日だけでなく、この2年間ずっと。

だから。

二人の「Never Enough」はこんなにも沁みたのだ。

いつかはきっと、この2年間の満たされない思い、経験があったからこそ今がある! と思える日が、二人に来ることを祈らずにいられなかった。

いや必ずその日は来る!

TEXT:Keiko SHIINA       PHOTO:Ayako SHIMIZU