第50回東京女子体育大学新体操研究発表会に見えたもの②「新体操選手たちの表現力」

2022年になり、いよいよ新体操のルールは改正される(本来は2021年に改正されるはずだったが五輪の延期により1年遅れ)。

2021年まで採用されていたルールは、リオ五輪明けの2017年から使われていたが、2018年に一度大きく変わっている。

当初は、D得点は10点満点だったが、2018年からD得点が青天井になったのだ。このことが、新体操の在り方を大きく変えた。

つまり、審判に認められるレベルできちんと実施できれば、「技をたくさん入れたほうが高得点になる」というある意味、非常にわかりやすく、公平で、その分、「とても慌ただしく、苛酷なルール」になってしまったのだ。個人なら90秒、団体でも150秒しかない演技時間の中に、とにかく切れ目なく技(手具難度)をつめ込んでいく。そうしないと高い得点は望めないからだ。

そうなったときに、犠牲になったが「表現」だ。

曲であったり、ストーリーだったりを表現するために、たいていの選手たちは「技ではない動き」を演技に取り入れている。

それが個性になったり、その演技の魅力になったりするのだが、2018年以降、そういった動きはことごとく「AD(手具難度)」にすり変わっていった。

「あ~、その動きはなんの点数にもならないから、代わりにADなんか入れて」

指導者が選手にそんな指示をしている場面も何回か見たことがある。あのルールにおいてはそうせざるを得なかったのだ。

 

結果、ここ数年の新体操は、「芸術性」や「表現力」からは遠いものになりつつあった。五輪や世界選手権というレベルの高い試合でさえ、その傾向にあった。しかし、一方で、昨年11月に行われた全日本新体操選手権などを見ていると、上位の選手たちは、そんなに苛酷なルールのもとでも、「表現すること」をあきらめず、挑戦しているという様子も見えていた。1年前には「技、技、技」にしか見えなかった演技も、技術が向上し、熟練度が増してくるに伴って、味わいが出てきていた。

今の新体操も、決して表現や芸術性を捨てたわけではないのだな、と感じられる演技が増えてきていた。

つまり、それだけ新体操も選手たちも進化したのだ。

ただ、あまりにも技術の進化が凄すぎて、たまにしか新体操を見ない人にとっては「曲芸か?」「大道芸か?」と見えてしまうかもしれない。

そして、「昔の新体操はもっと素晴らしかった、芸術性が高かった」と言われることもあったように思う。

 

「もっとこうしたほうが表現が伝わるだろう」

そんなことは、やっている選手も指導者も百も承知なのだ。

しかし、ルールはルールだ。競技の世界に身を置いている以上、「ルールはどうでもいい」という演技にするわけにはいかない。

だから、みんな悩みながら、試行錯誤しながら、このルールの中で、点数も追いながら、それでもどこかで「新体操って素敵だ」「新体操って楽しいんだよ」と感じてもらえることを目指してはいるのだ。

それがわかるから、競技での慌ただしい演技、技つめつめの演技を見ても、簡単に「つまらない」「新体操の良さがない」とは言えなかった。

いや、言いたくなかった。

みんな「表現なんてどうでもいい」と思っているわけではないし、それを見せる力がないわけではないのだとわかっていたから。

ただ、競技のときには「ルールに合わせている」。それは当然のことなのだから。

12月24日の東京女子体育大学の発表会では、まさにその力を、思いを見せてもらった。

「競技」という枠がなければ、やはりこんなにも表現力豊かにみんな踊れるんだ!

そして、そこではみんなこんなにも表情豊かで笑顔が弾けているんだ!

言葉はいらない。

その演技を見れば、「新体操が好き」なこと「新体操は楽しい」こと、全部伝わってくる。

東京女子体育大学の発表会では、競技ではないからこその「挑戦」も毎年見せてくれる。

団体なら多くても5人しか選手がいないが、それ以上の大人数で全員がリスキーな技を決めて見せるなどだ。

今年もそれも存分に見せてくれたが、今年はそういった技術的な挑戦以上に「表現」に挑戦していたように思う。

踊りだけではなく、ちょっとしたお芝居のパートもあり、それをみんな照れることなく、役になりきって演じていた。

終盤で、冬の街の風景をスケッチしたシーンがあった。

若者や高齢の夫婦、子ども達、ウーバーイーツの配達員、様々な人々が行きかう街の風景の中には、雪だるまをつくる子ども達もいた。

そして、その景色を取り囲むように、大きなボールをもった選手たちが現れ、一斉にボールを中に向けて転がすと、その転がっていくボールは、ふわふわと柔らかく子ども達に降り注ぐ雪に見えた。「わあ!」と降り始めた雪にはしゃぐ子ども達。そのとき、代々木第二体育館はホワイトクリスマスの街になった。

転がされていたのは多分、バランスボールだろうか。

おそらくなんの変哲もない、どこにでもあるボールなんだと思う。

それがああも見事に「降り注ぐ雪」に見えるとは。演出、照明、そして演技力。

この数年のルールでは、なかなか競技では見せきれなかったかもしれないが、新体操の選手たちはこういう力を持っているのだ。

いや、これが「新体操のチカラ」なんだ。

2022年になり、またルールが変わる。

よくなる部分もあるだろうが、どんなルールにも弊害もある。

新しいルールによって損なわれるものもあるとは想像するが、どんなルールになったとしても、あきらめさえしなければ新体操はやっぱり素敵! そう思ってもらえる未来はあると思う。

そんな思いを強くした東京女子体育大学の発表会だった。

TEXT:Keiko SHIINA      PHOTO:Ayako SHIMIZU