中野幸太郎(坂出工業)が大化けで見せた「坂出力」~第36回全国高校選抜(男子個人)

正直に言えば、この優勝はサプライズだった。

中野幸太郎は、ジュニア時代から全日本ジュニアには出場しており、中学3年のときは個人総合8位。

高校1年生になった2019年にはインターハイに個人でも出場しているが、このときの順位は22位。

しっかりした演技をする選手ではあり、いわゆる「先が楽しみ」と思わせる選手ではあったが、演技を見る機会がなかった1年8カ月の間にこんなに化けるとは、予想を大きく上回ってくれた。

 

今大会は、有力選手が前半に多かった。

A班では、赤羽拓海(青森山田高校)が、「このまま優勝か?」と思わせる圧巻の演技。

野村壮吾(埼玉栄高校)もリングでのミスが非常に惜しかったが、それがなければ優勝もあったかも、と思う素晴らしい演技を見せ、その後に出場する選手たちは、この2人を追う展開になった。

B班では、優勝候補の一角・石橋知也(神埼清明高校)が登場し暫定3位につけると、C班では岩田隼(済美高校)が、スピード感にあふれキレのよい演技で石橋を上回り3位に上がる。

午前の最終班・D班前の暫定順位は、赤羽、野村、岩田。「午前中は凄くハイレベルだったな」とこの時点ですでに思っていたところ、午前最後の演技者として中野幸太郎がD班で登場してきた。

明らかに見覚えがある衣装は、坂出工業の先輩であり2019年の全日本チャンピオン・川東拓斗のものだった。

大学生になってからは他の衣装の印象もあるが、高校生のころの川東といえばこの衣装だったな、と懐かしさを感じている中、中野のロープが始まった。

え? 衣装だけじゃなく、中身も?

動き始めた中野を見て、目を疑った。そこで踊っているのは川東拓斗なんじゃないか、そう思うくらいに、中野の演技には力があった。

男子選手は、苦戦することの多いロープだったが、ロープの演技をしていることを忘れてしまう、それくらい彼は思い切りよく動き、ロープもその動きに伴って舞った。ほんとにこれが、あの「悪くはないけど、まだそこまでインパクトはない」ように見えていた選手なのか?

いつかはもっともっと良くなるだろう、とは思っていた

が、その「いつか」がこんなに早く来る? 驚いているうちに演技が終わってしまった。

ノーミスだったと思う。得点は、15.675。この時点で野村、石橋に次いでロープの3位につける得点だった。

これは、リング次第ではいけるのでは? そんな期待が膨らんだ。

 

そして。

中野がリングの演技をするためにフロアにあがったのを見たときに、「いける」と確信めいた予感がした。

彼の後には、今大会で監督を勇退する林晋平監督と、今大会にコーチとして帯同している川東拓斗の姿が見えた。

川東は、全日本チャンピオンにもなった素晴らしい選手だが、とりわけリングの演技はいつもよかったな、力強かったなと思い出した。

あの、「伝説の惜敗」を喫した2015年のインターハイでも、リングの演技は素晴らしかった。

その彼が後ろで見守っている。おそらくこの1年間、かなり中野を指導してきたのだろうことは演技を見れば一目瞭然だ。

このリングの演技がよくないはずはない。

果たして、中野はノーミスでリングの演技を通し切った。やはり「中身も川東拓斗じゃないの?」と思うような、魅せる演技だった。

この演技に出された得点は、16.000。赤羽がリングで出した16.125には及ばなかったが、2種目総合ではトップに躍り出た。2位の赤羽との点差はわずか0.050。

個人総合では坂出工業高校初の選抜優勝を、林監督が率いる最後の試合で、もぎ取ったのだ。

ほとんどの大会がなくなった2020年。男子の個人では9月に行われた男子クラブ選手権が唯一の公式大会であり、全日本選手権への道だったが、坂出工業高校は出場がかなわなかった。中野の個人での出場もなかった。

これだけの力をつけていたのならば、おそらくどんなにか悔しかっただろう。

クラブ選手権に出場できていれば、全日本選手権にだってきっと進めた、そんな思いはきっとあったんじゃないかと思う。

でも、それをすべて飲み込んで、やれることをやってきた! という自信が彼の演技から伝わってきた。

苦しかった1年間を、彼はたしかに成長の糧にしたのだ。

 

中野だけではない。

惜しくも準優勝におわった赤羽拓海と後半出場で3位に飛び込んできた鶴田快成の青森山田コンビも、こちらも今大会で勇退となる荒川栄監督に最高のはなむけを送った。上位選手たちはみんな、素晴らしい成長ぶりで、一時期ほどスター性のある選手がいないと言われていた高校生だが、なんのなんのまだまだこれから楽しみな逸材がこんなにいる! とこれも嬉しいサプライズだった。

 

そして、今日はこの中野を擁する坂出工業高校が、団体競技にも出場する。

素人軍団でも常にインターハイに出場し、爪痕を残してきた林監督の最後の舞台をきっと彼らは素晴らしいものにしてくれるだろう。

※男子団体は、テレ朝チャンネル2で生中継! ぜひご覧ください。

   ⇒ https://www.tv-asahi.co.jp/ch/contents/sports/0508/

TEXT:Keiko SHIINA     PHOTO:Ayako SHIMIZU