「ブレイクスルー」高橋晴貴(国士舘大学)~2020新体操フェスタ岐阜

高橋晴貴(KOKUSHIKAN  RG)が、新体操フェスタ岐阜で見せた演技は、この選手がずっと温めいた卵が孵化した、そんな風に見えた。

今大会は、ここ数年見た男子新体操の大会の中では、「線が美しくなった」と感じる選手が多かった。

例年に比べれば練習時間は少なかった選手が多かっただろう今年だが、それが「線の美しさ」という面においてはよいほうに作用したように感じられる収穫の多い大会だった。

高橋晴貴は、かねてよりつま先の伸びや、柔軟性などには目を見張らせるもののある選手だったが、今大会はその部分でレベルアップしている選手が多かったため、そこまでのアドバンテージはないか、と思われた。

しかし。

いざ1種目目・スティックの演技を始めた高橋は、やはり線の美しさでは別格! と思わせる演技を見せた。

男子選手としては珍しいくらいにとがったつま先、高いかかと。

そして、ジャンプでも見せつける柔軟性。

男子にも柔軟性に秀でた選手は増えてきているが、開脚や反りなどに無理が見え、美しさを損ねている場合も少なくないが、高橋の柔軟性の見せ方はどこまでも美しい。

リングでは、ルルベから演技に入るが、そのかかとの高いこと!

女子マットよりも厚みと弾力のある男子のマットでは、「ルルベ」と言えるほどにかかとを上げるのは難しいのだろうと思っていたが、そんなことはない! と高橋の演技は証明していた。

床から足先が離れる瞬間からつま先が伸びる。

男子新体操を見ていていつも「惜しい」と思っていた部分を、高橋の演技はクリアしていた。

 

その圧倒的な美しさに裏打ちされた演技は、ドラマチックで、可動域の大きさが動きにダイナミックさを加え、90秒間、観客を惹きつけ続けた。

終わってみれば、<全日本選手権予選の部>に出場した大学生の中で7位につけていた。

全日本選手権への出場権にはあと一歩届かなかったが、全日本インカレと重複して権利を獲得した選手が出れば、今大会で得た権利を放棄することになるため、高橋は事実上、全日本選手権出場を決めたと言える位置につけたのだ。

高橋晴貴と聞いても、「誰? どこの選手?」と思う人もいるかもしれない。

無理もない。

今年、大学3年生になる高橋だが、過去2年間は全日本インカレに出場できていない。

1年生時は、東日本インカレでの順位が学内10位(8位までが全日本インカレ出場)で出場を逃し、2年生時は東日本インカレを棄権している。

男子クラブ選手権には、2年とも出ているが、1年時18位、2年時20位。

全日本出場権獲得には遠かった。

見映えのするスタイルのよさや、美しい線からくる演技の華やかさでは目を引く存在ではあったが、その「良さ」を大会の演技で、それも4種目まとめて発揮することが難しい選手だった。

 

ジュニア時代は、RG葛飾、高校では光明学園相模原高校に所属。

小学生のころから大会出場経験は積んではきたが、おそらく自信をもてるほどの結果には恵まれてこなかった。

高校3年時には、光明相模原団体のメンバーとしてインターハイ、全日本選手権にも出場しているが、個人選手としてはインターハイや全日本ジュニアなどの出場経験もなかった。

大学進学後は、個人選手として着実に力を蓄えてはきていた。

国士舘大学の体育館での練習を見ていると、その中でも目立った存在にはなってきていた。が、本番ではその独特の空気感が消えてしまっていた。

 

その高橋晴貴が、今大会では、自分の殻を破って見せた。

ミスの気配が感じられない堂々たる演技で、線の美しい選手の多かったこの大会の中でも、際立った存在感を見せつけた。

小学生から新体操を続けてきて、ジュニアや高校生でははね返されてきた高い山を、ふっと越えられることがあるのだ。

あきらめず、努力を重ねていれば、そんな日が来ることがある。

この大会での高橋の演技は、そんな希望を示してくれた。

 

ジュニア時代、高校時代、この選手を大切に育み、いつか花咲くことを信じて続けてきた人達がいたんだろうと思う。

そして、その大事に育てられた芽を、開花させる環境が大学にはあった。

なによりも、彼自身があきらめなかった。

だから、今大会でよいものを見せてもらえた、素晴らしい瞬間に立ち会うことができた。

この先もトントン拍子にはいかないかもしれないが、つまずいたとしても大丈夫。

乗り越え方を彼は今までに十分学んできているのだから。

TEXT:Keiko SHIINA      PHOTO:Ayako SHIMIZU