2019近畿高等学校新体操選手権(男子個人)

近畿ブロック大会男子個人の注目は、昨年度近畿チャンピオン・岩渕緒久斗(尼崎西高校)と尾上達哉(清風高校)の一騎打ちだった。

ジュニア時代から全国トップレベルで活躍していた(2015年全日本ジュニア5位)岩渕に対して、尾上のジュニアでの実績は、2016年の全日本ジュニア16位のみ。

しかし、高校生になってからは尾上もめきめきと力をつけ、今年3月の高校選抜では、岩渕4位、尾上8位、5月のユースチャンピオンシップでは尾上6位(岩渕は出場せず)と、着実のその差をつめてきていた。

2人とも高校3年生。尾上にとっては近畿チャンピオンになる最後のチャンス。岩渕もその座を譲らず連覇したいという思いは持っていたに違いない。

注目の2人が登場した最終班。

最初に演技順が回ってきたのは岩渕のリングだった。「グレイテスト・ショーマン」のサントラから名曲「Never Enough」を使用したどこか物悲しいせつなさをたたえた演技は、彼ののびやかな動きとよくマッチしていた。印象としては連覇にふさわしい素晴らしい演技だったが、第1タンブリングの着地でミスが出てしまい、それが響いて15.850。彼が本来もっている力よりもかなり低い点数になってしまった。

尾上のスティックの演技順が回ってきたのはその直後だった。岩渕のミスを知っていたかどうかは分からない。仮に知っていたとしても、そんなことを気にしているようには見えない集中ぶりで、彼はフロアに向かい、「気合一発!」とでもいうべき演技を見せた。ミスがなかっただけでなく、動きが大きかった。そのひとつひとつの動きからエネルギーがほとばしるのが見えるような気さえした。絶対に自分が勝つ! と宣言するような演技で、16.500をもぎとる。

絶体絶命。

連覇への黄色信号が灯った状態で迎えた岩渕の2種目目・スティックは、1種目目でのミスや、尾上との点差などをはるかに超越したものだった。ジュニア時代に初めて彼の演技を見たときに感じたピュアな印象。あの頃よりも身長も伸び、体も大きくなった分、演技の迫力は格段に増しているのだが、その透明感は不思議なくらい変わらない。

岩渕緒久斗は、どこまでも彼らしい演技を貫き、16.875。この種目の得点では尾上を上回った。

そして、男子個人競技の最終演技が尾上のリングだった。

フロアに入る前に、彼は2本のリングをまとめて持ち、そこに自分の額をつけてなにか祈っているような姿を見せた。

そして意を決したように大きく呼吸をしてフロアに入る。

そこからは、ただ無心に、それまでの日々にやってきたことを、そこで発揮するだけだった。

緊張はしていただろう。が、その緊張よりも、彼はこの場で「優勝の懸かった演技」をしていることを楽しんでいるように見えた。

ジュニア最後の年に、全日本ジュニアに出てきたとき、だれもが彼には非凡なものを感じただろう。

それだけの素材ではあった。成長もしてきた。が、近畿や全国の頂点には今まで手が届かなかった。

それが、今やっと届こうとしているんだ! その緊張しないわけがない時間を彼はきっと噛みしめていたんじゃないか。

「やっとここまできた!」その喜びが、なにものにも勝っているような、そんな演技で16.600。

堂々の初優勝を決めた。

岩渕のミスがなかったら、勝負はどう転んでいたかはわからない。

が、目の前でライバルがミスをしたという局面で、自分の力を出し切ることは意外に難しいものだ。

今日の尾上はそれを見事にやり切った。正真正銘の勝者であり、チャンピオンだ。

しかし、今日の彼を見ていると、これで満足するようには見えなかった。

おそらくここがスタートなのだ。やっとこれで次のステップに進める、と思っているんじゃないか。

尾上達哉は、そう思わせる選手だ。

 

3位には國吉悠希(昇陽高校)が、入った。國吉も今まではミスの出ることが少なくなかったが、今回は、リングでは気迫と自信に満ちた華やかな演技を、スティックでは日本語歌詞の曲を使った染み入るような美しい演技を見せた。この選手もまだまだここからもうひと化けしそうな予感がする。

近畿ブロック男子個人は、終わってみれば3年生の3人がトップ3を占め、有力選手の多い下級生たちにつけいる隙を与えないという、かなりハイレベルな、見ごたえのある戦いだった。

TEXT & PHOTO:Keiko SHIINA